中国の習近平国家主席は、トランプ米大統領が北京での2日間にわたる首脳会談や視察日程を終える前から、今回の訪問が両国関係にとって「歴史的」な節目になったとの認識を示した。ただ実際には、重要な合意や目立った成果は乏しい。

習氏は15日、中国共産党の中枢施設であり、最高指導部の居住地でもある中南海にトランプ氏を迎え、散策したり昼食を共にしたりした。習氏は両国関係が「新たな」時代に入ったと強調したが、中国当局がこの関係を表現するために打ち出したのが「建設的な戦略的安定」という難解な言い回しだった。トランプ氏や同行した側近らの多くは、これに異論を唱えなかった。

しかし、この表現には、自信を深める習氏が米中関係における中国側の影響力拡大を図る狙いがにじむ。昨年10月の貿易休戦で得た成果を固定化するとともに、追加の米制裁やテクノロジー関連の規制で中国が不意を突かれる事態を避ける意図もうかがえる。中国当局者は、この枠組みを少なくとも「3年間」、つまりトランプ氏の残り任期中は維持すべきだとの考えを示した。

シンガポール国立大学のジャ・イアン・チョン准教授(政治学)は「中国側のこうした表現には、摩擦が生じた際に米国の対応は誠意を欠いていると非難しやすくする狙いがある」と指摘。「中国は対外発信で、米国を信頼できない交渉相手であり、国際秩序を不安定化させる存在として描くことが可能になる」と述べた。

中国側が打ち出した新たな枠組みは、米中関係が競争関係にあることを認めつつ、その競争は「適度な」範囲にとどめるべきだとの考えを示している。ただ、その意味するところは明確に定義されていない。トランプ氏は、習氏が打ち出した新たな関係性について公には応じていないものの、15日には両首脳を新たな「G2」の一部だと表現し、これに近い考えをにじませた。

今後数カ月は、この「安定関係」を維持できるかどうかが試される局面となる。

習氏は今回の会談で、米国の台湾支援は米中「衝突」を招きかねないと異例の強い表現でトランプ氏に警告した。これにより、総額140億ドル規模の台湾向け武器売却計画を巡り、トランプ氏は国内で難しい政治判断を迫られることになった。今後は、中国の貿易黒字やインド太平洋地域での軍事的圧力を巡る対立も、この枠組みに反すると位置づけられる可能性がある。

トランプ氏は首脳会談後、記者団に対し、習氏との協議では武器売却について明確な立場を示さなかったと説明。その上で、「比較的近いうちに判断を下す」と述べた。さらに15日には大統領専用機内で記者団に対し、「台湾を率いている人物と話をする」と語った。ただ、具体的に誰を指すのかは明らかにしていない。中国は、米当局者と台湾の頼清徳総統とのあらゆる公式接触に強く反対している。

習氏はトランプ氏に対し、台湾問題の扱いを誤れば対立を招く可能性があると警告

一方で、こうした安定関係を支える要因の一つとなっているのが、今後も米中首脳会談が相次いで予定されていることだ。トランプ氏は、習氏を9月にホワイトハウスに招待する。11月に深圳で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、続く12月にマイアミで開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも、両首脳が会談する可能性がある。

習氏にとっては、現状を固定化する好機でもある。中国は、米製造業に不可欠なレアアース磁石の供給網を事実上支配しており、これは米国による対中貿易規制をけん制する強力な材料となっている。同時に、中国は最先端の人工知能(AI)開発競争で米国になお後れを取っている。このため、緊張緩和が維持されれば、中国にとっては米国の最先端半導体に対抗できる独自技術を開発する時間稼ぎにもなる。

微妙な温度差

トランプ氏は、中国側が用意した大規模な歓迎行事を満喫した様子で、習氏を「素晴らしい」指導者だと称賛した。さらに、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)やテスラのイーロン・マスクCEO、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOら米主要企業トップで構成する代表団について、「習氏に敬意を表するために来た」とまで語った。

一方、習氏はトランプ氏に対し、ややとげのある表現も使った。冒頭発言では、「トゥキディデスの罠」に言及した。トランプ氏はSNSへの投稿で、この表現について、米国を衰退する大国になぞらえた「洗練された」言及だと説明。ただ、バイデン前大統領を念頭に置いた表現だとした。

地政学リスク助言会社シグナム・グローバル・アドバイザーズのチャールズ・マイヤーズ会長は、「トランプ氏の習氏に対する口調は、習氏側に比べかなり低姿勢だった」と指摘。そのうえで「今回の首脳会談では、中国の方がより有利で、安定した立場にあるように映った」と語った。

中国は、ルビオ米国務長官への対応でも柔軟な姿勢を示した。ルビオ氏は米上院議員時代、人権問題を巡る発言を理由に中国から2度にわたり制裁を受けていた。習氏と握手を交わした後には、ルビオ氏がトランプ氏に向けてウインクする様子も見られた。

融和ムード演出

こうした友好的な雰囲気は、わずか1年前には、米中双方が3桁台の高関税をかけ合っていたことを踏まえると、なおさら際立っていた。

晩餐会の会場ではロブスターや北京ダックなどが振る舞われ、最後にはトランプ氏の集会で定番曲となっている「Y.M.C.A.」が流れた。

晩餐会に出席した復旦大学米国研究センターの呉心伯主任は、「料理はおいしく、音楽も良かった」と語った。中国外務省の顧問を務めた経験を持つ呉氏はブルームバーグテレビに対し、「率直に言って、こうした光景を米中関係で見るのは本当に久しぶりだ」と振り返った。

こうした融和ムードを演出しようとする姿勢は、新たに打ち出された表現にも表れているようだ。

中国側は、昨年7月にルビオ氏が王毅外相との会談で使った「戦略的安定」という表現に着目したとみられる。米シンクタンク、スティムソン・センターで中国プログラム責任者を務めるユン・スン氏は、これに「建設的」という言葉を加えることで、中国側には関係全体をより前向きなものとして印象づける狙いがあるとの見方を示した。

もっとも、中国が米中関係を定義する新たな枠組みを打ち出すのは今回が初めてではない。習氏は2013年、オバマ米大統領(当時)と会談した際、「新型大国関係」を提唱した。米政府は当時、こうした表現に慎重な姿勢を示していた。

中国共産党に関する著書を持つローウィー研究所のリチャード・マクレガー上級研究員は、両首脳が戦略的な緊張緩和という考え方を真剣に受け止めていること自体が、「両国間の力関係が決定的に変化したことを示している」と指摘した。そのうえで、「中国は今や、米国と肩を並べる競争相手になった」と述べた。

原題:Emboldened Xi Moves to Corner Trump With ‘New Relationship’ Talk(抜粋)

--取材協力:Nectar Gan、Lucille Liu.

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