金融混乱への対応で評価を確立した韓国のベテラン官僚が、深夜のソーシャルメディア投稿で同国の株式市場を揺らした。人工知能(AI)ブームで史上最高規模となる見込みの税収をどう使うかについて言及したものだった。

金容範・大統領政策室長は、金融・経済危機対応で韓国で最も高く評価されている人物の一人。だが12日、フェイスブックへの投稿で渦中に立たされた。AIインフラの整備から生じる前例のない税収増による富をどう活用すべきかについて、政策当局は真剣に考え始めるべきだと主張したためだ。翌朝、韓国の主要株価指数は急落した。

韓国大統領府の当局者はブルームバーグ・ニュースに対し、同氏の発言は個人的見解であり、正式に議論したものではないと説明した。

それでも、この発言はAI時代の社会的影響に直面する韓国で、神経をとがらせる材料となった。韓国総合株価指数(KOSPI)は12日、取引開始後2時間足らずで5.1%下落。同氏の発言の内容が何を対象としているのか、投資家が見極めかねたことも一因となった。

国の超過税収ではなく企業のAI利益の再分配を同氏が論じたとする報道がオンライン上で広がったことを受け、李在明大統領も発言。金氏の投稿の趣旨は議論のきっかけづくりに過ぎないとし「名誉を毀損(きそん)する報道」に注意を促した。金氏は12日、ブルームバーグ・ニュースに対し、自身の立場を明確にする短い説明をしたが、翌日のインタビュー要請には応じなかった。

サムスン電子とSKハイニックスが製造する先端半導体は、世界的なAI整備を支えており、韓国はグローバル供給網の中核に位置している。両社は高帯域幅メモリー(HBM)市場を支配している。HBMは、OpenAIの「ChatGPT」のような大規模言語モデル(LLM)の学習・稼働に使われるAI処理用半導体やサーバーの重要部品だ。

金氏の投稿は、サムスンの今年の営業利益が330兆ウォン(約35兆円)に達し、SKハイニックスも239兆ウォンの営業利益を計上すると予想される中で出た。両社は世界で最も収益性の高い企業に仲間入りする見通しだ。KB証券のアナリスト、イム・ジェギュン氏は、両社が予想を達成すれば、両社の年間法人税額は100兆ウォンを超える可能性があるが、これはこれまで韓国政府が2026年の法人税収総額として見込んでいた水準だとした。

金氏は大統領に直接報告する立場にあり、市場は同氏の個人的な投稿も政権幹部の考えを読み解く重要な手掛かりと見ている。同氏は韓国の金融規制当局や企画財政省(現・財政経済省)で長年にわたり要職を歴任。韓国の輸出主導型経済と金融システムを再編する転機となったアジア通貨危機への政策対応にも関与した。

新型コロナ禍では、韓国政府が企業と家計を経済ショックから守ろうとする中で、緊急の市場安定化措置の調整に重要な役割を果たした。同氏はその経験を、幼少期に溺れかけた時の感覚になぞらえた。足が海底に届かない恐怖で身動きできなくなる感覚だ。

最近では、李在明政権の政策室長に起用されたことで、同国のデジタル資産関係者を沸かせた。18年に当時の法相が暗号資産取引所の閉鎖を示唆した際、同氏が韓国の暗号資産業界を救ったと評価する向きもある。

「官僚でありながら、新技術と新しい金融の採用に最も積極的だった」と、ベンチャーキャピタル「ハッシュド・ベンチャーズ」のサイモン・ソジュン・キム最高経営責任者(CEO)は当時、ブルームバーグ・ニュースに語った。

金氏は長文の投稿で、超高速デジタル経済、出生率の急低下、急速な高齢化という、他国が将来直面し得る多くの課題が、人口5100万人の韓国では既に重なり合っていると指摘した。

「もしかすると、韓国はその変化が最も早く、凝縮された形で訪れた国なのかもしれない」とし、「AIインフラを供給する国にとどまらず、AI時代の超過利潤を人間の生活へと還元する最初の国となる可能性だ」と述べた。

ノルウェーの石油収入を原資とする政府系ファンドにも触れた同氏の発言は、韓国全土で議論を巻き起こした。

オンライン上では、AIから生じた超過税収かどうかにかかわらず税収全般の扱いを定めるという新たな政策の必要性に疑問を呈する声もあった。一方、左派系紙ハンギョレ新聞をはじめとする一部は、予期せぬ歳入について国の適切な使い道を巡る時宜を得た議論を始めたとして、金氏を評価した。

これは世界各国の政府が直面しつつあるテーマでもある。格差拡大と高齢化が進む中、AIブームが生み出す巨額の富をどう分配するかという問題だ。米国、欧州、アジアの政策当局者やエコノミストは、AIが少数のテクノロジー大手と高度な技能を持つエンジニアに利益を集中させる一方、他の人々の雇用を奪い、所得の伸びを鈍化させる可能性があると警告してきた。

AI関連利益が過去最高規模に達するとの見通しは、労使間の緊張も高めている。サムスンの労働組合は、営業利益の15%を半導体部門の従業員に分配するよう要求している。現代自動車など韓国の他の大手企業でも、好調な利益の取り分を増やすように求める労働者から同様の圧力が強まっている。

サムスンは今週、最大労組との賃金交渉で土壇場の合意に至らなかった。世界最大の半導体メモリーメーカーである同社の操業に支障を来すストライキのリスクが高まっている。

金氏は、韓国南部の家族の農場で唐辛子を摘んだ後に指先に残ったにおいが、幼少期の最も鮮明な記憶の一つだと語っている。病弱な母のために医師になることを夢見た時期もあったが、貧困や10代で目の当たりにした政治・経済の混乱、さらに奨学金をきっかけに経済学の道へ進んだと、22年に地元メディアへ語っていた。その後、名門ソウル大学に入学し、ジョージ・ワシントン大学で経済学の博士号を取得した。

同氏は今、AI時代の新たな経済モデルを構想している。広範な論考の中で二つの概念を提示した。誰にでも生涯に一度の起業機会を保障すること、失敗後の再起のためのセーフティーネットを提供することだ。さらに同氏は、文化を重要な柱と位置付けた。

「文化は分配政策であり、戦略産業でもある」とし、「AI時代に人間らしい生活の密度を設計することが、すなわち国家競争力になる」と同氏は付け加えた。

原題:Korean Technocrat Sparks Debate Over ‘Citizen Dividend’ From AI(抜粋)

--取材協力:Shinhye Kang、Heesu Lee、Jaehyun Eom.

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