(ブルームバーグ):日本のコーポレートガバナンス(企業統治)に関する制度や法律の改正を巡り、市場で警戒感が広がっている。企業の資本効率改善や株主との対話が今後停滞するとの印象を与えれば、史上最高値圏にある日本株に悪影響を及ぼす恐れがある。
金融庁は今年、上場会社の企業価値向上に向けた行動指針をまとめたコーポレートガバナンス・コードを5年ぶりに改訂予定で、幅広く意見を募るパブリックコメントを15日に締め切る。法務省も株式の発行や株主総会、ガバナンスの在り方を見直す会社法改正に向け、22日まで意見公募中だ。
有識者らの検討を経て4月までに公表された改訂案などに対し、一部の市場関係者は企業側の意向が色濃く反映されていると指摘。投資家と経済界で意見の相違点が多く、数年来の日本株の上昇を支えてきたガバナンス改革に水を差しかねないと危惧する。
アライアンス・バーンスタインの臼井はるな責任投資ヘッドは「一言で言うと、ガバナンス改革の揺り戻しが起きている」と見る。アクティビスト(物言う株主)らから強く株主還元が求められることへの抵抗感などで経済界の押し戻しが強まっており、「日本株へのネガティブショックになる可能性がある」と言う。
国内外の投資家から高い関心を集めているのがコーポレートガバナンス・コードの改訂で、企業に現預金などの経営資源を有効活用できているか検証を求める新項目への期待が高まっていた。しかし、足元の議論では現預金に関する内容について順守や説明の必要がない「解釈指針」と呼ばれる補足説明のみを盛り込む方向だ。
野村証券の中川和哉ESGチーム・ヘッドは、最新の改訂案では解釈指針の位置づけが弱まり、企業が順守すべき項目が少なくなったと分析。ネガティブに受け止める投資家の方が多く、「ガバナンス改革が後退したと見なされるリスクがある」と懸念を示す。
計40兆ドル(約6280兆円)を運用する多くの機関投資家が加盟するアジア・コーポレートガバナンス協会(ACGA)の共同創業者、ジェイミー・アレン氏も新たな指針案では資本管理の扱いが小さく、「今回の改訂は誤りだ」と自身が運営するメディアで主張している。
会社法の改正でも投資家と企業の利害対立が見られ、株主総会に関する変更案はその一例だ。事前の書面やオンラインでの議決権行使で決議成立が確実になった場合、当日の企業の総会運営の負担を減らせる内容だが、総会の質が低下する可能性に警戒感を持つ投資家は少なくない。
アライアンスの臼井氏は総会の事前決議を巡る議論について、企業と株主との対話の後退につながりかねず、仮に実現すれば「かなりのマグニチュードだ」と話す。法的強制力のない統治指針などと比べても「会社法はインパクトが大きい」とみている。
もっとも、ガバナンス改革の流れが停滞してしまうリスクに関しては楽観的な見方もある。これまで資本政策に後ろ向きなキャッシュリッチ企業と市場で受け止められてきた自動制御・計測機器メーカーのキーエンスが定款を変更し、自社株買いを可能にするなど変化も見られ、株主の働きかけなどを通じて改革が続くことへの期待は根強い。
インベスコ・アセット・マネジメントの古布薫ヘッド・オブ・ESGは、形式的な取り組みからガバナンスの実質化に焦点が移る中で「今後は個別企業間の格差が出てくる」と予測。「アクティブ投資家としては投資機会が広がるだろうと楽観的に捉えている」と述べた。
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