(ブルームバーグ):ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、数十億ドル規模の大胆な投資で知られる。半導体設計の英アーム・ホールディングスのように大きな成果を上げた案件もあれば、悪名高い米ウィーワークのように大失敗に終わったものもある。では、孫氏にとって最大の投資対象である米OpenAIはどうか。
対話型人工知能(AI)「ChatGPT」を展開するOpenAIは過去最大級の資金調達を3月に完了し、1220億ドル(約19兆円)を集めた。ソフトバンクGは300億ドルを追加出資すると約束した。これが完了すれば、ソフトバンクGはOpenAIに計646億ドルを投じ、約13%の持ち分を保有することになる。
孫氏はOpenAI出資では、最初の346億ドルで大きな成果を上げている。その大半は昨年、2600億ドルの評価額で投資されたものだ。
OpenAIの評価額を8520億ドルとする今回の資金調達により、ソフトバンクGは450億ドルの含み益を計上できる見込みで、これは129%のリターンに相当する。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の試算が示している。

もっとも、今年の投資が成功するかどうかは不透明だ。3月以降、資本市場には著しい変化が見られる。元OpenAI社員らが2021年に設立した米アンソロピックは、重要ソフトウエアのセキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)性を検出できるとする新たなAIモデルで勢いづいている。同社は9000億ドルを超える評価額で新たな資金調達を検討しており、これは3月時点のOpenAI評価額を上回る水準だ。
世界の株式市場でも、基盤のAIモデル開発企業から、AI向けデータセンター需要の恩恵にあずかり得る半導体メーカーへと関心が移っている。米フィラデルフィア半導体株指数は急騰し、3月後半以降で54%上昇した。
ソフトバンクGが10年前に約310億ドルで買収したアームの企業価値は2200億ドルを突破。同社の時価総額はここ数週間で大きく上昇しており、投資家はAIアプリケーションを支えるためデータセンターで中央演算処理装置(CPU)の導入が大幅に増えると見込んでいる。
アームはこれまで、米エヌビディアなど大企業にCPU設計をライセンス供与して収益を上げてきたが、今は自ら半導体の製造にも乗り出している。
資金不足
ソフトバンクGは昨年8月、米インテルに出資することで合意した。当時20億ドルだった投資は現在94億ドルの価値となり、リターンは約370%に達し、成功がさらに際立つ。この観点から見ると、OpenAIへの300億ドル追加投資は、もはや賢明とは言い難い。

含み益と同様に重要なのが流動性だ。孫氏最大の賭けに対し、市場の見方が厳しくなりつつある兆候も出ている。ソフトバンクGはOpenAI株を担保に100億ドルのマージンローンを模索している。
協議では、基準金利に対して約425ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上乗せする初期金利が検討されており、担保付きにもかかわらず金利は約7.88%となる計算だ。これは、ソフトバンクGが4月に無担保ドル建て10年債で支払った8.5%を踏まえても、高水準の借り入れコストだ。
アームやインテルの流動性は顕著だ。アームは浮動株比率が低く、ソフトバンクGの持ち分は約87%に達するものの、最近の1日当たり売買代金は14億-17億ドルで推移しており、数百万ドル規模のポジションでも容易に売り買いできる。
この高い流動性が銀行に安心感を与え、低コストのマージンローン供与を可能にしている。結果として、ソフトバンクGは資産を売却せずに資金化が可能だ。
OpenAIから資金を引き出せないことは、レバレッジ(借り入れ)を活用してリターンを高めてきた孫氏にとって大きな問題だ。調査会社クレジットサイツの推計では、ソフトバンクGは320億ドルの資金不足に直面している。
こうした事情が、OpenAIの上場への道筋が不透明になりつつある中で、ソフトバンクGがAI・ロボティクス企業「Roze」を設立し、年内にも米国で上場させる計画を進めている理由とみられる。
OpenAIは自ら掲げた売上高目標を達成できておらず、赤字のロボティクス部門や消費者向けハードウエア部門の分離も検討していると報じられている。
ソフトバンクGは7月、テキサス州のデータセンター施設でアナリストデーを開催し、RozeのIPOをアピールする計画だという。フィジカルAIを前面に押し出すことで、孫氏は事実上、ソフトバンクGも次の段階へ移行しつつあることを認めている。
(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。同氏は投資銀行に勤務した経歴もあり、米経済紙バロンズでは市場担当の記者でした。このコラムの内容は意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:OpenAI Is So Yesterday — Even for SoftBank: Shuli Ren(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.