対話型人工知能(AI)「ChatGPT」を手がけるOpenAIと対立する訴訟で先週、数時間にわたり証言台に立ったイーロン・マスク氏は、この裁判の行方が最終的に人類の運命を左右するとアピールしようとした。

OpenAIに非営利組織から営利企業への転換を撤回させようとしているマスク氏は、AIが誤った手に渡った場合の存亡リスクについて陪審に繰り返し警告してきた。

アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画を引き合いに出し、「ターミネーターのような状況」は避ける必要があると強調。「この映画を見たことがあれば、良い状況ではないと分かるはずだ」と述べ、「最悪の場合、AIが人類を全滅させる可能性があると思う」と訴えた。

もっとも、営利のAI企業が社会にとってより危険である可能性を示唆する上で、小さくない矛盾がある。マスク自身が、xAIという営利のAI企業を率いている。

今回の訴訟は主に、マスク氏も約10年前に資金を出したOpenAIが当初の利他的使命を放棄し、ChatGPTを開発した経営陣が不当に利益を得たかどうかが焦点だ。ただ、同時に、世論を動かすため終末論的な主張を用いるマスク氏の傾向も浮き彫りにしている。

マスク氏は先週初めて証言台に立った際、2015年にサム・アルトマン氏らとOpenAIを共同設立した理由について、グーグルが「AIの安全性に十分配慮していない」と懸念したためだと説明した。

当時、グーグルがAI研究競争をリードしていたが、将来的に「AIが人類を滅ぼす」可能性を軽視していると感じたという。そのため、人類の利益のために非営利AI研究機関の設立を決意したと述べた。

これに対しOpenAI側は、不当な利得や公益信託違反といった言い分は根拠がないと反論。マスク氏は単に失意の共同創業者であり、自身のAIモデル「Grok」が業界の主要プレーヤーに追い付くため、ライバルの足を引っ張ろうとしているに過ぎないと主張した。

OpenAIのウィリアム・サビット弁護士の問いかけに対し、マスク氏はxAIも他の営利企業と同様の安全リスクを抱えていると認めた。

その後、米連邦地裁のイボンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事は、こうしたリスクがあるにもかかわらずマスク氏が営利企業のxAIを運営しているのは「皮肉」だと指摘し、この訴訟で「人類絶滅」の問題に踏み込むことはないとマスク氏の弁護団に告げた。

「文明の未来を巡る闘い」

マスク氏が自身の短期的な利益を後押しするため、長期的な存亡リスクを強調してきたのは今回が初めてではない。スペースXについては、地球が「いずれ絶滅的イベント」に直面する前に人類を多惑星種にする上で不可欠だと主張。

いとこと共同創業した太陽光企業ソーラーシティーについても、再生可能エネルギーを受け入れなければ「文明の崩壊」に直面すると述べたことがある。

さらに、X(旧ツイッター)を言論の自由の場として維持する取り組みを「文明の未来を巡る闘い」と位置付け、テスラの電気自動車(EV)や炭素削減ソリューションは気候変動を抑制し、「歴史上のすべての戦争を合わせた以上の移住と破壊」を回避するのに役立つ可能性があると示唆してきた。

こうした認識が誤りだとか、意図的もしくは不誠実だということを言いたいわけではない。マスク氏は自身の目標を「意識の光を拡張する」ことだと話してきた。

ただし、同氏が経済的・政治的に不都合な場合には終末論的な主張を控える傾向も見られる。例えば2024年の大統領選期間中にドナルド・トランプ氏と対談した際、地球温暖化のリスクは一般に言われるほど高くないとの見解を示し、「石油・ガス業界を悪者扱いしたくない穏健派」になったと語っている。

同様にソーラーシティーに関し、同社とテスラの統合をEVと太陽光事業を組み合わせた「地球の解決策」と論じたが、実際には苦境にあったいとこの企業を救済する狙いもあったとの見方もある。

統合後、太陽光事業の展開は加速するどころか急減した。一方で家庭用や産業用の蓄電池を手がけるエネルギー貯蔵事業は拡大しているが、同社はすでに太陽光導入の指標を開示していない。

法廷では、マスク氏はSNS上で見せるような終末論的な言い回しを自由に展開することはできなかった。ターミネーターに言及した直後、判事は「言いたいことは分かったが、これ以上その話題に触れることは許さない」と述べた。

(この記事は、テクノロジー業界のビジネスを世界中のブルームバーグ記者が掘り下げて伝えるニュースレター「Tech In Depth」からの抜粋です)

原題:Musk Casts Fate of Humanity In OpenAI Court Drama: Tech In Depth

--取材協力:Vlad Savov.

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