(ブルームバーグ):人工知能(AI)で世界をリードしているのは米国の企業だ。だが米国人は先進国の中で最もAIに懐疑的だ。
ピュー・リサーチ・センターの調査によると、AIに対して期待よりも懸念の方が大きいと答えた米国の成人は50%に上り、世界の中央値(34%)を上回った。
クイニピアック大学の調査では、AIが自分たちの利益を代表する人々によって開発されていると考える米国人はわずか5%にとどまる。問題はテクノロジーではない。リーダーシップの問題だ。そしてこれが解決されなければ、公共の信頼を必要とするあらゆる主体に深刻な打撃となる。
あまり認識されていないが、米国の制度は官民いずれにおいても長らく「Mutual Consent」、つまり「相互の同意」によって統治されてきた。エリート層は、たとえ法律として明文化されていなくても、共通のルールや基準に従うことに実質的に合意していた。
1950年代、ゼネラル・エレクトリック(GE)の年次報告書は、同社がどれだけの税金を支払い、どれだけの雇用を生み出しているかを誇らしげに語っていた。米誌フォーブスはGEを「Generous Electric(寛大なエレクトリック)」と呼んだ。
1970年代のレジナルド・ジョーンズ最高経営責任者(CEO)は、質素なレンガ造りのコロニアル様式の家に住み、カーター政権の閣僚入りの要請を2度断っている。
1986年のイラン・コントラ事件発覚時、レーガン大統領は独立検察官による政権調査を認めた。証人に恩赦を与えたり、司法長官に召喚状の執行を拒否させたりはしなかった。いずれも法的には可能だったにもかかわらずだ。
これが相互の同意だ。制度の中で最も強い権力を持つ人物が、その制度の必要に応じて、自らに不利益となり得る手続きに自発的に従うことを意味する。
唯一の制裁
リーダーは制度のニーズに従うことに同意し続けなければならない。1974年にフォード大統領が前任のリチャード・ニクソン氏に恩赦を与えた判断は合理的で、勇気ある決断でもあった。しかしその恩赦は、大統領が犯罪を犯しても法的責任を問われない可能性があるというメッセージを発した。
結果としてこれは、転がりやすい坂を実際に転がり始めた一例となった。24年後、ビル・クリントン氏は大統領として相互同意の限界を示した。モニカ・ルインスキー氏とのスキャンダルが発覚した際、辞任は現実的な選択肢であり、それ以外は一世代前なら考えられなかった。
だがクリントン氏は、それまで多くの大統領が気付かなかったか、気付いても実行しなかった点を理解していた。誰も彼を強制的に退任させる力を持っていなかったのだ。唯一の実質的な制裁は「恥」だった。
そして恥は、それを気にする場合にのみ意味を持つ。企業社会でも同様の変化が起きた。
ジャック・ウェルチ氏は1981年にGEのCEOに就任。ジョーンズ氏やその前任者らが、自らの報酬を平均的な従業員の20-30倍にとどめていたのに対し、ウェルチ氏は数百倍に引き上げた。自制は任意だった。それを放棄する見返りは極めて大きかった。
現在、この傾向は至る所で見られる。エコノミック・ポリシー・インスティテュート(EPI)によると、CEOと従業員の報酬比率は1965年の21対1から2024年には281対1に拡大した。
スターバックスのブライアン・ニコルCEOの報酬は9580万ドル(約150億円)で、従業員(中央値)の6666倍に当たる。ゴードン・ジー氏はオハイオ州立大学やウェストバージニア大学など米国史上最多の大学で学長を務めた人物だが、公共の利益のために運営されるべき公的機関を率いながら、繰り返し数百万ドル規模の報酬を受け取ってきた。
シンプルな教訓
現職のトランプ大統領は、その立場と恥を顧みない姿勢を組み合わせることで、産業規模の収益化を実現している。
フォーブスによると、トランプ一族による暗号資産(仮想通貨)事業は、トランプ政権2期目発足以後、同氏の資産を約20億ドル押し上げた。息子たちが支援するドローン(無人機)メーカーは、トランプ氏が始めた戦争でイランの攻撃を受ける湾岸諸国に対し、「低コストでの殺傷」を売りにしたシステムを売り込んでいる。
キャンペーン・リーガル・センター(CLC)は、閣僚任命や捜査打ち切り、外交上の便宜に至るまで、トランプ政権で40件近い見返り取引を記録している。
トランプ氏は原因であると同時に症例だ。同氏が登場する以前から、制度はすでに崩れ始めていた。
政府への信頼は1958年の73%から低下し、2007年以降のあらゆる調査で30%を下回っているとピューは指摘する。主要な米国の制度に対する平均的な信頼も、ギャラップ調査で歴史的低水準近辺にある。
半世紀にわたる相互同意の崩壊が、米国人にシンプルな教訓を教えた。権力者が信頼してほしいと言ったとき、そうすべきではないということだ。
信頼は、リーダーが信頼に足る行動を取ると認識されれば再構築できる。まずリーダー同士が互いに責任を問わなければならない。その兆しは出始めている。
複数の弁護士会は、ジュリアーニ元ニューヨーク市長らトランプ政権に関与する中で職業倫理に違反した弁護士に対する資格剝奪手続きに着手した。これに対し政権側は、同業者による規律から自分たちの弁護士を守る規則を提案して対抗しており、そのこと自体が弁護士会側の取り組みの有効性を示している。
これがモデルだ。政府が動かなくても、同じ専門分野の仲間が共通の基準に違反した者に実質的な償いをさせる。
この仕組みは、経営陣の自己取引を容認する企業の取締役会や、それを見過ごす業界団体、組織拡大を進める運営側に報酬を与える大学の理事会にも広げる必要がある。
数千人を解雇しながら数百万ドルを受け取るCEOは、称賛ではなく同業者からの非難にさらされるべきだ。
次に、一般市民も同様に行動する必要がある。どこで働き、どこで買い物をし、どこに投資し、どのように投票するかを、リーダーの行動に基づいて選ばなければならない。
かつては見えない形でリーダーを縛っていた恥が、いまやその役割を果たしていない。その不足分を私たちが補う必要がある。
今日、米国の政治を左右する問いはもはや、リーダーが何をすべきかではない。何をしても許されるのかというものになってしまった。それを変えるには、私たち全員が行動で示すほかない。
(ゴータム・ムクンダ氏は企業経営やイノベーションなどを研究し、エール大学経営大学院でリーダーシップ論を教えています。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:American Leaders Have Devalued Mutual Consent: Gautam Mukunda(抜粋)
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