中東のホルムズ海峡での海運の混乱を受け、地球の反対側にあるもう一つの重要な海上ルートの脆弱(ぜいじゃく)性に懸念が広がっている。

インドネシアとマレーシアに挟まれ、シンガポールを経由する貿易の流れが集中するマラッカ海峡は、世界の海上貿易の2割余りを担う最も混雑するチョークポイント(要衝)だ。

この海峡は長年、戦略的な弱点と見られてきた。特にエネルギー輸入でこのシーレーンへの依存度が高い中国にとっては重要性が大きい。米国とイスラエルによる軍事攻撃への対応としてイランがホルムズ海峡を事実上封鎖したことを受け、マラッカ海峡への注目が一段と高まった。

マラッカ海峡は自由通航を保証する国際ルールの下にあるが、インドネシアの高官が通航料の導入案に一時言及したことで懸念が広がった。

その後、地域の当局者はマラッカ海峡が引き続きオープンで、通航料も課されない方針を再確認している。それでも今回の一件は、最も利用されている海峡の一つにおいて混乱が起きることに対して、世界の貿易がいかに敏感であるかを浮き彫りにしている。

マラッカ海峡の重要性は

マラッカ海峡は、インド洋と南シナ海、さらに太平洋を結ぶ世界で最も重要な海上交通路の一つだ。インドネシアのスマトラ島とマレー半島の間に位置し、北側にはタイ、南端にはシンガポールがあるこの海峡は、全長約500マイル(約805キロメートル)。

中東と東アジアを結ぶ最短の海上ルートを提供している点で、国際貿易において極めて重要な役割を果たしている。

この効率性の高さにより、マラッカ海峡は不可欠な存在となっている。マレーシア海事局によると、2025年にこの海峡を通過した船舶は10万2500隻超と、前年の約9万4300隻から増加した。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭、パーム油、鉄鉱石のほか、各種の製造品など幅広い貨物がこの水路を行き交っている。

米エネルギー情報局(EIA)によれば、2025年1-6月(上期)には日量約2320万バレルの石油がマラッカ海峡を通過し、中国や日本、韓国など主要経済圏に供給された。この水準は、同期間にホルムズ海峡を通過した約2090万バレルを上回る。

なぜマラッカ海峡はチョークポイントなのか

最も狭い地点では幅がわずか1.7マイル(約2.7キロメートル)にとどまることが、膨大な交通量を抱えるマラッカ海峡の脆弱性につながっている。

これにより、とりわけ交通が集中する海域では衝突や座礁のリスクが高まる。局所的な混乱であっても航行の遅れや海上輸送コストの上昇を招き得る。海賊行為や武装強盗も懸念材料で、2025年にはマラッカ・シンガポール海峡での発生件数が増加し、合計108件に達した。

インドネシアの島々を通る代替ルートも存在するが、利便性や航行のしやすさで劣る。スンダ海峡は一部が浅く、活火山の近くに位置する。ロンボク海峡とマカッサル海峡を経由するルートは時間と費用が大幅に増加し、サウジアラビアの港湾都市ラスタヌラから日本への航路では、マラッカ海峡経由に比べて距離が2倍以上となる。

マラッカ海峡は誰が管理しているのか

インドネシアとマレーシア、シンガポールの3カ国が海峡に面し、国連海洋法条約(UNCLOS)の下で沿岸から最大12カイリ(約22キロメートル)までの領海に主権を行使する。3カ国は1971年に3カ国間の枠組みを設け、マラッカ海峡の管理で連携している。

同時に、マラッカ海峡は国際海峡に分類され、船舶や航空機には通過通航権が認められている。これは継続的かつ妨げられることなく航行できる権利を意味する。

国際法上、沿岸国は通航を停止したり単なる通過に対して課金したりすることはできないが、特定のサービスに対する料金徴収は認められている。

3カ国はタイと共に安全保障や安全対策で緊密に連携し、海賊対策や共同パトロールなどを実施している。単独で海峡を完全に支配する国はないが、地理的条件からこれらの国々は世界有数の重要航路に大きな影響力を持つ。

なぜマラッカ海峡を巡り不安が高まっているのか

ホルムズ海峡における海運への脅威は、チョークポイントがいかに急速に地政学的な火種となり、世界経済の重しになり得るかを浮き彫りにした。

インドネシアのプルバヤ財務相は、イランがホルムズ海峡で同様の措置を取ろうとしたことを受け、マラッカ海峡の通航船舶に課金する可能性に言及したが、すぐに撤回した。

インドネシア国防省も、領空を通過する米軍機の飛行許可に関する米国の提案を検討しているが、主権への懸念などから軍内部で強い反発が出ている。

シンガポールは迅速に対応し、マラッカ海峡は国際航行のためオープンで自由であり続ける必要があると強調した。マレーシアも妨げのない通航維持の重要性を強調しており、沿岸国の間で交通の円滑化を重視する姿勢が共有されている。

ホルムズ危機を受け、マラッカ海峡の北東に位置するタイも、南部の半島に高速道路や鉄道を整備する「ランドブリッジ」構想への関心を改めて示している。

実現すればマラッカ海峡を通過することなく、輸送時間の短縮につながるが、物流面や資金面で極めて難易度が高いとみられている。

中国にとってマラッカ海峡が重要な理由は

中国はマラッカ海峡のリスクに最もさらされている国の一つだ。世界最大の原油輸入国であり、その供給の大半が海上輸送でこの海峡を通過する。

この脆弱性を背景に、中国は供給ルートの多様化を進めており、中央アジアやロシアからのパイプライン、ミャンマー経由など巨大経済圏構想「一帯一路」の下での代替回廊への投資を進めてきた。それでも海上輸送は経済の中核であり続け、マラッカ海峡の不安定化による影響を非常に受けやすい状況にある。

中国指導部は長年、紛争時における戦略的な弱点としてこの海峡を位置付けてきた。こうした懸念は2000年代前半の胡錦濤政権期に「マラッカ・ジレンマ」と呼ばれるようになった。南シナ海における領有権争いと、地域の海洋影響力を巡る米国との戦略的競争も状況を一層複雑にしている。

東南アジアの海域は、石油を輸送するイランの制裁逃れを目的とした「ダークフリート」と呼ばれる船舶間取引にも利用されており、その多くが最終的に中国を含むアジア市場に流入している。

米軍はイランに物的支援を提供しようとする船舶を「積極的に追跡」するとケイン統合参謀本部議長は表明。イラン産原油を積載する船舶もその対象に含まれると明らかにした。

原題:Why Anxieties Are Rising Over the Strait of Malacca: Explainer(抜粋)

--取材協力:Shadab Nazmi.

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