(ブルームバーグ):中国の国家発展改革委員会(発改委)は27日、米メタ・プラットフォームズに対し、人工知能(AI)スタートアップのManus(マナス)を約20億ドル(約3190億円)で買収した案件の解消を命じた。
中国はかねて、自国外での企業の合併・買収(M&A)などに影響力を行使しようとしてきた。だが、今回の決定はこれまでにない一歩となる。
取り消しを巡る発改委の命令は、契約成立から4カ月後の判断となる。中国での事業がほとんど、もしくは全くない米テック大手と、もともとは中国発ながら法的にシンガポールに移転したスタートアップを標的にした形だ。
メタとマナスの両社は過去数カ月、取引完了を前提で動いてきた。マナスの従業員は既にシンガポールのメタのオフィスに移り、マナスの経営陣もメタの著名なAIチームに加わっている。事情に詳しい複数の関係者によると、テンセント・ホールディングス(騰訊)や真格基金、紅杉中国などマナスの投資家は既に売却代金を受け取っている。

大きな疑問の一つは、中国政府がマナスの取引解消を強制する権限を持つのか、権限を持つ場合にどのように実行するのかだ。メタは27日、発改委の発表を受け、適用される法律を順守してきたとした上で、「適切な解決」を望むと表明。詳細には踏み込まなかった。
シンガポールの南洋理工大学防衛戦略研究所(IDSS)の中国プログラムで助教を務めるステファニー・カム氏は、「マナスの事例は、中国発の資本や人材、知的財産が国外に移転した後の規制の難しさを示している」と指摘。「この件が浮き彫りにする政策的意義は、AI企業が国外に移転する際、実際に何が移るのかという不確実性にある」と語った。
中国の規制当局は長年、他の大半の国々の当局よりも強い権限を行使してきた。2020年には、アリババグループの共同創業者、馬雲(ジャック・マー)氏に対する締め付けを強化し、同社のフィンテック部門アント・グループに新規株式公開(IPO)を中止させた。
マナスのケースと類似の事例としては、中国当局が規制上の懸念を理由に、配車サービスを手掛ける滴滴出行に対し、21年のニューヨーク証券取引所(NYSE)でのIPOの取りやめを強制したケースがある。同社は米国で上場廃止となり、その後も他の取引所での再上場は実現していない。現在の時価総額は約170億ドルだ。
中国が今回、マナスを巡る取引の見直しをメタに迫っていることは、この案件に対する懸念の深さを示す。国内スタートアップによるAI開発全体に対する統制の表れでもある。国内では、この売却によって貴重なAI技術が中国から流出し、最大の地政学的競争相手に渡ったとの批判もある。
ただ、この取引を実質的に巻き戻すことが可能かどうかは不透明だ。関係者の1人によれば、マナスは既にメタとコードを共有しており、それは同社のサービスに組み込まれている。マナスの創業者や投資家にメタへの返金を強制したとしても、メタに重要技術への無償アクセスを与えるだけに終わる可能性がある。
ガベカル・テクノロジーズのリサーチディレクター、ライラ・カワジャ氏は、「マナスを巡る判断は総じて象徴的なものだ。資本と技術の移転が既に完了している現時点では、取引の解消は現実的ではない」との見方を示した。
中国政府はメタに対してほとんど影響力を持たない。同社の主要サービスのフェイスブックやインスタグラムは既に国内で禁止されている。
カワジャ氏は「中国として影響力を行使できるのは、マナスの経営陣の越境移動を統制し、場合によってはメタでの辞任を迫ることにある」と指摘した。
マナスの取引を受けて、中国は他のテック企業の監視も強化し始めている。ブルームバーグ・ニュースは先週、発改委などの当局が月之暗面(ムーンショットAI)や階躍星辰(ステップファン)など主要なAIスタートアップに対し、明確な承認がない限り米投資家からの資金受け入れを拒否すべきだと伝えたと報じた。
規制当局はまた、TikTokを傘下に持つ字節跳動(バイトダンス)にも同様の制限を適用する方針を決めている。
初のケース
清華大学国家戦略研究院の研究員、劉旭氏によると、今回のマナスに関する判断は、15年前に導入された外国投資審査の枠組みを用いて当局が公に結論を示した初のケースだという。外国企業が関与する他のM&Aへの影響を見極めることは不可能だが、先端技術に関わる案件が厳格な審査対象となることは明らかになったと指摘した。
劉氏は、AIなどハイテク分野の中国企業や高い評価額を持つ企業を対象とする外国企業による買収は、厳しい安全保障審査の対象となる可能性があると分析。「重要な特許の支配権喪失や、技術が海外に流出する恐れのある取引も監視の焦点になる」と述べた。
トランプ米大統領は来月、中国を訪問し、習近平国家主席と会談する予定だ。両首脳は投資や技術アクセス、AI、貿易について協議すると見込まれている。メタの買収案件が米政権にとって協議対象となるほど重要かどうかは不明だ。
メタは、アルファベット傘下のグーグルやOpenAI、アンソロピックなど競合に追いつく取り組みの一環としてマナス買収に踏み切った。メタはマナスをAIエージェントの分野で主導的地位を確立するための足掛かりとする狙いがあった。
発改委の決定が実際に影響を及ぼすのはマナス自体ではなく、中国の他のテック起業家である可能性が高い。中国テック企業の多くは国際展開や資金調達、グローバル人材の確保、中国共産党当局の監視の目から自社を遠ざけることを目的に、拠点をシンガポールへ移すか、そうした移転を検討している。
ガベカル・テクノロジーズのカワジャ氏は、「今回の措置は、外国の資本・市場へのアクセスを求めて脱中国のモデルを検討する同国のスタートアップや人材に対する強い警告となる」と指摘。「中国はグローバル展開を支持しているが、人材流出や技術漏えいを防ぐため、こうした動きを厳しく監視したい考えだ。中国が複数の技術分野で台頭する中での新たな課題となっている」と解説した。
原題:Xi Tests China’s Reach by Blocking Meta Deal That’s Already Done(抜粋)
(背景や分析を追加して更新します)
--取材協力:Newley Purnell、Zheping Huang、Nectar Gan.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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