世界的なベンチマークで先週、首位に躍り出た謎の動画生成人工知能(AI)モデル「Happy Horse」を巡り、一件落着だ。中国の電子商取引大手アリババグループが開発元だと分かった。

同社は先週の大半にわたり投資家や業界ウオッチャーらを翻弄し、10日になってようやくこの成果を認めた。今回のような謎めいた公開は極めて異例で、アリババにとって幾つかは初の試みでもあった。

アリババは、他のテクノロジー企業と同様、通常は自社の進展やイノベーションを積極的にアピールする。今年に入り消費者向けAIアプリ「Qwen」を刷新した際には、ソーシャルメディア向けの動画や杭州キャンパス上空での夜間ライトショー、さらには数百人の招待客や記者を迎え盛大な発表会が行われた。

だが今回は、新製品を世に出しながら自らは名乗り出なかった。ベンチマークプラットフォーム「アーティフィシャル・アナリシス」は8日、テキストから動画を生成するAIランキングで新たなモデルが首位に立ったと示した。

今年は午(うま)年に当たることもあり、多くの人が「Happy Horse」という仮名を中国と結び付け、推測を巡らせた。数カ月沈黙していたDeepSeek(ディープシーク)の製品なのか、すでにトップ性能を誇る「Seedance 2.0」を持つ字節跳動(バイトダンス)なのか。

筆者には当初、それがアリババによるものだとは思いもしなかった。同社はその前週、主力の動画生成モデル「Wan」をアップデートしたばかりだったからだ。だが、そこにこそ興味深さがある。Happy Horseは、アリババ内部に競争が存在することを示している。同社は明らかに複数の経路でAI開発を進める方針を取っている。

Happy Horseは、AIの収益化に焦点を絞った新組織「アリババ・トークン・ハブ(ATH)」の成果だ。Wanを手がけた通義実験室(Tongyi Lab)ではなく、このATH部門のAIイノベーションユニットがHappy Horseを開発したとされている。

これは、かつて中国企業で広く見られた「競馬方式」を想起させる。テンセント・ホールディングス(騰訊)などネット各社は、特定分野で最高の製品を開発するという目標を掲げ、複数チームに同時に取り組ませていた。苛烈(かれつ)で容赦のない手法だが、今回のように成果を生むこともあったようだ。

なぜ秘密だったのか

AI時代においては、人材とコンピューティング能力はインターネットソフトの隆盛期以上に希少だ。AIの先駆者である米OpenAIは最近、動画生成競争から撤退し、3月に「Sora」のアプリ提供を終了すると発表。AIエージェントにリソースを集中させた。動画AIの開発と運用に膨大なコストがかかることを事実上認めた。

それでもアリババにとって、また多くの中国AI開発企業にとっても、動画は新たな収益源となる可能性を秘めている。ソフトウエアに対して消費者が依然として支出に慎重な市場においてはなおさらだ。

さらに重要なのは、中国がモデルのトレーニングに必要な最先端の米エヌビディア製半導体を十分に確保できていない一方で、それを稼働させるためのエネルギーをより安価に供給できる点にある。

それでも疑問は残る。なぜ秘密だったのか。同様の手法は先月も別の中国企業が用いた。

オープンソースのAIエージェントモデル「Hunter Alpha」は開発元が明かされないままベンチマークで首位となり、その後スマートフォンと電気自動車(EV)を手がける小米(シャオミ)が自社の最新主力モデルの社内テスト版だと名乗り出た。

かつてDeepSeekに在籍し、現在は小米でAI研究を率いる羅福莉氏は、このプロセスを「静かな奇襲」と表現している。

こうしたドラマ性や謎めいた演出がアリババの狙いだったとすれば、確かに成功したと言える。ただし、同じ戦略を踏襲したわけではなさそうだ。

小米は正体を明かした直後に開発者へモデルを公開し、謎に引き寄せられた潜在的なユーザーを取り込もうとした。一方のアリババは、今月後半まで開発者がモデルを利用できないとしている。Happy Horseがランキングトップとなったのは、いくらか予想外だったのだろうか。

アリババのAI研究チームはこの1カ月ほどで大きな変化を経験している。著名研究者の林俊暘氏の突然の退社に始まり、大規模な再編が行われ、企業顧客向けのATHグループが設立された。同社はまた、従来のオープンソース戦略から転換し、少なくとも3つのクローズドソースモデルを立て続けに発表している。

アリババは昨年、AI分野に530億ドル(約8兆4000億円)余りを投資すると表明した。テクノロジーの進歩をいかに収益へと結び付けるかについて、投資家からの圧力は強まっている。

AI投資への忍耐が徐々に薄れる中、アリババのような企業は、AIモデル研究で先行していることを示し続けると同時に、ビジネスモデルの模索と調整を速やかに進める必要がある。

(この記事は、テクノロジー業界のビジネスを世界中のブルームバーグ記者が掘り下げて伝えるニュースレター「Tech In Depth」からの抜粋です)

原題:Alibaba Snatches the AI Video-Generation Crown: Tech In Depth(抜粋)

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