世界を単一の政治システムと見なし、米国を現政権、つまり「与党」とするなら、中国はいずれは政権交代を目指す「野党」だ。中国は米国のパワーを解体しようとしているわけではない。むしろ、世界を牛耳る権力に対峙(たいじ)する存在として自らを位置付けている。

カーネギーメロン戦略テクノロジー研究所のハンナ・ベイリー氏とオックスフォード大学中国センター所長のトッド・ホール氏による新たな論文は、中国が「グローバルな野党」の戦術を採用していると指摘している。

これは新しい手法ではないが、米政権の振る舞いがその実行を一段と容易にしている。最近も中国はイラン戦争の停戦に向けた働きかけに関与したと報じられている。

イランにとって最大の貿易相手国である中国は、緊張が高まる中、パキスタンが仲介した対米協議において、対立色を弱めるよう水面下でイランに促した。

こうした見え方は重要だ。米国がますます「気まぐれな挑発者」と見られる一方で、中国は安定化の力として自らを演出している。中国当局は公には自制を呼びかけ、紛争が世界のエネルギー市場に及ぼす影響に警鐘を鳴らしてきた。

これはまさに野党が選挙戦で用いるやり方だ。中国は紛争を完全に解決する必要はなく、建設的な役割を果たしていると示せばよい。ウクライナや中東を巡る非現実的な和平案であっても、西側主導の秩序に代わる選択肢を求める国々に代替案を提示するという目標に近づく。

この流れが続けば、結果は徐々に中国有利へと傾く可能性がある。国際システムが中国の好みに沿って再編されるかもしれない。個人の権利より国家主権を優先し、政治的自由より安定を重視し、民主的統治を犠牲にして経済発展を重んじる方向だ。

米中競争の最前線、東南アジアでは、こうした変化がすでに起きていることを明確に示す兆しが見られる。

シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所が発表した2026年版東南アジア調査では、米中の選択を迫られた場合、米国ではなく中国と協調するとの回答が半数をわずかに超えた。

特に51.9%がトランプ大統領の下での米国のリーダーシップを最大の地政学的懸念として挙げ、中国の強硬な行動に対する危惧を上回った。

米国に対する懐疑的な見方は根拠のないものではない。多くの政府にとって問題は中国への対応ではなく、ワシントンが生み出す不確実性への対処だ。

東南アジアは米国とイスラエルによる対イラン戦争の経済的余波の影響を最も強く受けた地域の一つであり、重要なエネルギー供給が遮断され、成長見通しが脅かされている。米国の揺れ動く関税政策や防衛費増額要求も、対米感情を悪くする要因となっている。

リスクヘッジ

米国の最も近い同盟国でさえ、歴史的に中国と緊張関係にあった国も含めて調整を進めている。オーストラリアのアルバニージー首相は先週、エネルギーや地域の安定を巡る中国との協力を強調し、安定的で建設的な関係へのコミットメントを改めて示した。

米国主導の秩序で常に中核だった欧州や北米でも、リスクヘッジの動きが見られる。

欧州各国の首脳らは安全保障上の懸念にもかかわらず中国との経済関係を強化。カナダも対中関係安定化に動いており、1月にはカナダ産菜種に対する関税引き下げや中国製電気自動車(EV)に影響する障壁の緩和などが実施され、両国間の貿易摩擦が和らいだ。

あらゆる野心的な野党と同様に、中国は与党の弱点を突きつつ、自らをより安定的で予測可能であり、新たな発想を備えたパートナーとして描いている。

米国が後退している分野で、中国は国際的なルール作りに影響を及ぼそうとしている。今年発効した国連公海等生物多様性(BBNJ)協定の事務所誘致に向け動き、米国主導の秩序に代わる世界的なガバナンス(統治)の枠組みを提示した。

中国は自国のメッセージを、インフラ融資や主要新興国から成るBRICS、上海協力機構(SCO)といった国際的な枠組みでの連携構築を通じて裏付けている。こうした関係はしばしば取引のような性質を帯びるが、同時にレバレッジ(影響力)も生み出す。経済的に中国と結び付いた国ほど、その意向に配慮する可能性が高まる。

この流れが抑制されなければ、こういった体制は長らく米国が形成してきた世界秩序に類似し始める可能性がある。ただし今度は中国が中心だ。中国本土の企業が連携先の国外市場でより容易に活動できるようになり、中国の金融が発展を支え、その戦略的利益がより広く守られることになる。

もっとも、このような変化が目前に迫っているということではない。中国が全面的に信頼されているわけではなく、経済的威圧や政治的影響力、透明性に対する懸念は依然として根強い。

中国の影響力が強まっている東南アジアでも、その行動への不安は大きい。ISEASの同じ調査では、南シナ海における中国の強引な行動を重大な懸念と見なすとの回答が半数近くに上った。

また、ベイリー、ホール両氏が論文で分析したように、中国はガバナンスよりもキャンペーン、つまり実際の統治よりも選挙戦により適応しているように見える。

米国が担ってきたような世界的なリーダーシップに伴うコストを引き受けるより、傍観的な立ち位置から批判する方がはるかに容易だ。中国は影響力を高めるほど、実際の解決策を示すよう求める期待の大きさに直面することになる。

こうした変化に対応する各国にとって、リスクヘッジが基本戦略となるが、完全にリスクがなくなることはない。中堅・小国間の協力を強化し、特定の一国への過度な依存を避けることが不可欠だ。

米政府が学ぶべき教訓は、より明確だ。一貫性を取り戻し、同盟を再構築し、世界への関与を強める必要がある。だが、トランプ政権がこれらを実行する兆候はほとんど見られない。従って、中国が敵失を突いてくる余地は今後も広がり続けることになる。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:China Is the World’s Most Effective Opposition: Karishma Vaswani(抜粋)

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