所得・スキル構造の二層化
一方、ギグワークにおける賃金・スキル構造にも顕著な二層化がみられる。
ロケーション型労働では、学歴や経験を問わない求人が大半を占め(「学歴不問」が88.7%、「職務経験不問」が95.7%)、参入障壁は極めて低い。
月収は8,000~15,000元程度(「8,001~10,000元」が40.2%、「10,001~15,000元」が43.1%)に集中している。
2024年の都市・会社員の平均月収が5,790元であることを踏まえると、ロケーション型ギグワークの収入水準は一見すると相対的に高いように見える。
しかし、その多くは長時間労働や出来高制に依存しており、労働時間当たりの賃金水準や所得の安定性は必ずしも高いとはいえない。
さらに、社会保険の未加入や労災保障の不十分さを考慮すれば、実質的な労働条件はむしろ脆弱である。
これに対し、クラウド型労働では高い専門性が求められるため、収入はより分散する傾向にある。
最も多いのは「6,001~8,000元」(29.4%)であるが、「15,000元以上」も8.1%と一定の割合を占めている。特にオンライン診療などの分野では、平均月収が2万元を超えるケースもみられる。
このような差異は、求められるスキル水準および労働の性質の違いに起因するものである。
すなわち、ロケーション型労働は参入障壁の低さを背景に労働供給が豊富であり、長時間労働によって所得を補う傾向があるのに対し、クラウド型労働は専門性や技能に基づく選別が働くため、高付加価値・高報酬の機会が生まれる。
その結果、ギグワーク市場は、雇用吸収型の労働と価値創出型の労働とに分化する二層構造を形成している。
この構造は、柔軟な就業機会の拡大という利点を有する一方で、労働市場における格差の再生産や固定化をもたらす可能性がある。
おわりに
本報告から、中国のギグワークは、デジタル経済の進展に伴う労働市場の構造転換の一端を示していることが確認できる。
その特徴は雇用機会の拡大という側面を持ちながらも、同時にスキル・所得・地域における新たな分断や分散を生み出している点にある。
さらに、キャリアの移行パターンには強い経路依存性がみられる。
製造業や従来型サービス業からはロケーション型労働への移行が多く、デジタル関連職種からはクラウド型労働への移行が中心となる。
このことは新たな就業形態が一から雇用を創出しているというよりも、既存のスキル構造を前提とした労働の「再配置」として機能している側面が強いことを示唆している。
こうした構造を踏まえると、今後の中国における労働政策は、就業機会の柔軟性を確保しつつ、分断の拡大を抑制するための労働者保護をいかに制度化するかという課題に直面することになる。
この論点は、中国に固有の問題にとどまらず、日本を含む他国にとっても、プラットフォーム経済下における労働市場のあり方を検討する上で重要な示唆を提供するものである。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき )
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