はじめに
中国では近年、デジタル経済の急速な発展を背景に、プラットフォームを基盤とする柔軟な働き方、いわゆる「新就業形態(ギグワーク)」が急速に拡大している。
フードデリバリーやライドシェアに代表されるこれらの就業形態は8,000万人を超え(全就業者数の1割に相当)、コロナ禍以降の雇用調整局面において、重要な雇用吸収の役割を果たしてきた。
一方で、こうしたギグワークの拡大は、単なる柔軟な働き方の普及にとどまらず、労働市場全体の構造にも変化をもたらしている点が注目される。
すなわち、就業機会の拡大と同時に、労働の質や所得構造、さらにはスキル分布において新たな分化が生じつつある。
本稿では、暨南大学経済社会研究院と大手人材サービス企業である智聯招聘が公表した「2025年中国新就業形態報告」(以下、「報告」)を参考にしながら、中国におけるギグワークの現況とその構造的特徴について、その一端を整理する。
ロケーション型とクラウド型
報告では、多様化するギグワークを就業形態の違いに基づき、大きく二つに分類している
第一に、「ロケーション型」労働である。
これはフードデリバリーの配達員や配車ドライバー、家事サービスなど、プラットフォーム上で受注を受け、位置情報に基づき指定された場所に移動して行われる労働を指す。
参入障壁が低く、特別な技能を必ずしも必要としない点が特徴であり、主として幅広い労働力を吸収する役割を担っている。
第二に、「クラウド型」労働である。
これはデジタル技術や専門的スキルを活用し、オンライン上でサービスを提供する労働形態であり、EC運営、コンテンツ制作、オンライン診療などがこれに該当する。
ロケーション型と比較して、就労場所への移動など地理的制約が小さく、高度なスキルを要する一方で、高付加価値化の余地が大きい労働に従事する点に特徴がある。
このような分類は、従来一括して捉えられてきたギグワークを、「雇用吸収型」と「価値創出型」に分解して捉えるものである。
すなわち、ギグワークは単に拡大しているだけでなく、その内部において質的な分岐が進んでいることを示唆している。
雇用の量的拡大と質的分化
報告によれば、2025年のギグワークに関する求人・求職はいずれも増加しており、求人数は前年比15.1%増、求職者数も同11.0%増と、需給双方での拡大が推計されている。
これは、経済減速や産業構造調整の下において、ギグワークが雇用の受け皿として機能していることを示している。
内訳を見ると、求人動向には明確な差異がみられる。全体の求人件数が前年比15.1%増となる中、ロケーション型労働は同28.9%増と大幅に拡大した一方、クラウド型は前年とほぼ横ばいにとどまった。
ただし、クラウド型労働の中でもグラフィックデザインなどデジタルスキル提供型の求人は同58.7%増と急増しており、高度人材への需要の強さがみられる。
一方、求職側の動向を見ると、全体では前年比11.0%増となり、ロケーション型の職種への応募者は同19.3%増と比較的高い伸びを示したのに対し、クラウド型の職種は前年比9.2%増にとどまった。
すなわち、供給面においても、参入障壁の低いロケーション型に労働力が流入しやすい構造が確認される。
以上を踏まえると、ロケーション型労働は生活サービス需要の拡大を背景に雇用吸収機能を一層強めているのに対し、クラウド型労働では専門性の高度化が進み、特にデジタルスキルを有する人材への需要が急速に拡大しているといえる。
すなわち、新就業形態は単なる雇用機会の拡大にとどまらず、労働市場の内部において「量的拡大」と「質的分化」を同時に進行させている点に特徴がある。
地域構造の変容―都市集中と地方分散の併存
ギグワークの求人状況を地域別で見ると、就業形態によって差異がみられる。
まず、ロケーション型労働は、サービス需要が高度に集積する一線都市(北京・上海など大規模都市)および、新一線都市(成都・杭州など次世代の中核都市)に集中する傾向が強い。
実際、ロケーション型労働の求人は新一線都市が43.7%、一線都市が25.4%を占め、両者を合わせると約7割に達する。
この背景には、これらの都市において人口集積度が高く、消費需要が旺盛であることに加え、デリバリーや配車サービスを支えるプラットフォーム・インフラが整備されている点がある。
ロケーション型労働は、大都市圏におけるサービス経済の拡大と密接に結びついている。
他方、クラウド型労働は地理的制約が小さいため、より分散的な分布を示している。
新一線都市が34.2%、地方の中規模都市などの三線都市以下が30.4%を占める一方、一線都市の割合は13.3%にとどまる。
クラウド型労働は、業務がオンラインで完結し地理的制約を受けないことに加え、通信インフラの整備や企業のコスト最適化、労働者の生活合理性を背景として、三線都市を含む地方都市へと広がっている。
以上より、中国のギグワークは、「サービス労働の都市集中」と「デジタル労働の地方分散」という二重構造を形成しつつあるといえる。
この構造は、一方で大都市への依存を強めつつも、他方でデジタル経済を通じて地方に新たな就業機会をもたらす可能性を示している。
