(ブルームバーグ):人工知能(AI)開発大手の米OpenAI、アンソロピック、アルファベット傘下グーグルの3社が連携に乗り出した。最先端の米国製AIモデルから結果を抽出して優位性を得ようとする中国の競合企業の動きに対抗する。
事情に詳しい複数の関係者によると、競合同士のこれら3社はマイクロソフトなどと共に2023年に設立した非営利業界団体フロンティア・モデル・フォーラム(FMF)を通じて情報を共有。利用規約に違反する「敵対的蒸留(adversarial distillation)」と呼ばれる試みの検出に取り組む。
こうした異例の協力は、米AI開発企業が指摘してきた懸念の深刻さを浮き彫りにしている。米企業は中国などの一部ユーザーについて、自社製品の模倣版を作成し、価格面での競争力を武器に顧客を奪うと同時に、米国家安全保障上のリスクをもたらす恐れがあるとしている。
米当局は、このような無断の「蒸留」によってシリコンバレーのAI開発企業が年間で数十億ドル規模の利益を失っていると推計。分析内容に詳しい関係者が匿名を条件に明らかにした。
OpenAIはFMFを通じた敵対的蒸留に関する情報共有の取り組みに参加していることを確認した。また、この手法について米議会に提出した最近のメモにも言及。同メモでは、中国企業DeepSeek(ディープシーク)が「オープンAIや他の米国の最先端研究機関が開発した能力にただ乗り」しようとしていると非難した。グーグル、アンソロピック、FMFはいずれもコメントを控えた。
蒸留は、既存の「教師」AIモデルを用いて新しい「生徒」モデルを訓練し、元のシステムの能力を再現させる技術を指す。多くの場合、ゼロから新規モデルを開発するよりも大幅に低コストで実現できる。
一部の蒸留手法は広く受け入れられ、AI企業自体が一段と小型で効率的なモデルを開発する場合や、競合しないテクノロジー構築のための利用を外部開発者に認める場合など、推奨されるケースもある。
一方で蒸留は、中国やロシアといった敵対国を中心に、第三者が無断で独自技術を再現する目的で用いる場合に問題となる。米国の主要AI開発企業は、この手法が安全対策を取り除いたAIモデルの開発に利用される可能性があると警告。致死性の病原体の生成を防ぐ制限が外される恐れなどが挙げられる。
中国のAI企業が開発したモデルの大半は、AIシステムの基盤部分が公開され、ユーザーが自由にダウンロードして自らのプラットフォームで実行できる「オープンウエート(open weight)」で、利用コストが低い。
これはモデルを非公開とし、アクセス課金によって顧客から収益を得て、データセンターなどのインフラに投じた数千億ドル規模の投資回収を図る米AI企業にとって、経済的な課題を突きつけるものだ。
蒸留が大きな注目を集めたのは、DeepSeekが25年1月に推論モデル「R1」を突如公開し、AI業界に衝撃を与えた直後だった。マイクロソフトとOpenAIはその後まもなく、DeepSeekがR1の開発に当たり米企業のモデルから大量のデータを不正に持ち出した可能性について調査したと、ブルームバーグは先に報じた。
議会に警告
OpenAIは2月、製品の不正利用を防ぐ取り組みを強化した後も、DeepSeekが米国モデルから結果を抽出するために一段と高度な手法を用いていると米議会に警告した。下院の中国共産党に関する特別委員会に提出したメモでは、画期的なチャットボットの新バージョン開発にDeepSeekが蒸留を活用していると指摘している。
敵対的蒸留に関する米AI開発企業間の情報共有は、サイバーセキュリティー業界で一般的な慣行を踏襲するものだ。同分野では企業が攻撃やその手法関するデータを共有し、防御体制の強化を図っている。AI企業も同様に連携することで、蒸留手法の検知精度を高め、関与主体を特定するとともに、不正利用の阻止を目指している。
トランプ政権の当局者は、敵対的蒸留を抑制するため、AI企業間の情報共有を促進することに前向きな姿勢を示している。トランプ大統領が昨年公表したAI行動計画では、この目的の一環として情報共有・分析センターの創設が盛り込まれた。
事情に詳しい関係者の話では、蒸留に関する情報共有は現時点では限定的となっている。中国との競争に対抗する上で、現行の反トラスト法(独占禁止法)の指針の下で何を共有できるのかについて、AI企業側に不確実性があるためだ。企業側は米政府の明確な指針を求めているという。
アンソロピックは昨年、同社のチャットボットモデル「Claude(クロード)」を巡り、中国の支配下にある企業による利用をブロックした。今年2月には、DeepSeek、月之暗面(ムーンショット)、稀宇科技(ミニマックス・グループ)の中国3社が蒸留によって同モデルの能力を不正に抽出していたと、アンソロピックは特定した。
米AI開発3社は、中国のモデル開発がどの程度蒸留に依存しているかについての具体的な証拠はまだ示していないが、大規模なデータ要求の量を基に攻撃の広がりを測定できると指摘している。
原題:OpenAI, Anthropic, Google Unite to Combat Model Copying in China(抜粋)
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