(ブルームバーグ):米国と欧州の航空会社は長年、中東の競争相手がドバイやドーハのハブ空港を通じ、最新鋭機と競争力のある運賃で乗客を取り込んでいくのを半ば圧倒されるように見てきた。
エミレーツ航空やカタール航空、エティハド航空は、欧州とアフリカ、アジアという3大陸の中間に位置する地理的優位性を生かし、湾岸地域における空の旅の有力な選択肢となっていた。
その構図はしかし、2月末のイラン戦争勃発を受け、ほぼ一夜にして変わった。中東では空域閉鎖や運航停止が相次ぎ、域内の航空会社は混乱に陥った。これら航空会社は長距離便の運航を減らし、その穴を埋めようと欧米各社が動き始めている。
欧米勢の経営陣はシェア奪回の好機と捉え、代替ルートの追加で需要の取り込みを図っている。ドイツのルフトハンザ、英ブリティッシュ・エアウェイズ、エールフランスKLMは先月、インドやタイ、シンガポールなどへ機材を振り向け、新たな便を求める乗客の獲得に乗り出した。ただ、現時点でのシェア拡大は小幅にとどまり、持続的な成長につなげるのは容易ではない。
ブルームバーグはフライト追跡会社フライトレーダー24のデータを用い、戦争開始前後1カ月の主要航空会社21社におけるワイドボディー機の運航を分析した。

注目点の一つは、今回の混乱が世界の航空業界にとって一時的な変動にとどまるのか、それとも従来は安全と見なされていた地域に戦争が影を落とし、より長期的な変化になるのかという点だ。
競合に先んじようとする欧州勢にとっては、戦争の影響による燃料価格の高騰も課題だ。紛争がどれだけ長期化するのか読めない中で、運賃引き上げか顧客のためにコスト吸収かの選択を迫られる。
コンサルティング会社ICFの航空アナリスト、ロブ・ウォーカー氏は中東勢について、「グローバルハブとしての野心を捨てたわけではない」と指摘した上で、「欧州勢はこの好機を逃さず、収益機会を最大化するしかない」と述べた。
これまでのところ、旅客輸送能力の大幅な増加は米国勢に見られるが、これは中東混乱以前から進んでいた計画を反映している面もある。
フライトレーダー24によると、米大手のユナイテッド航空とデルタ航空はそれぞれ、長距離ワイドボディー運航を11%と12%拡大した。欧州の既存路線の増便に加え、富裕層の米国人旅行者を取り込む新路線も開設した。

米航空会社は燃料値上がりに対するヘッジをしていないため、価格高騰による影響を受けやすいが、先月は運賃上昇前に予約を急ぐ動きが広がり、需要が押し上げられた。
ウォーカー氏によれば、中東の混乱は米国発アジア行きの直行便のほか、欧州航空会社とのコードシェアを伴う大西洋路線に恩恵をもたらす見通しだ。
戦争が長引くほど、中東に本拠を置く航空会社にとっての打撃は大きくなる。トランプ米大統領は先週、戦争継続の期間について明確な見通しを示さず、対イランでより強硬な対応を表明した。
地理的に優位なターキッシュ・エアラインズは、戦争開始後1カ月で市場シェアを伸ばした。一方、カタール航空は最も大きくシェアを失った。ブルームバーグの分析が示した。
ルフトハンザは短期的な需要増を確認しつつ、路線変更を恒常化させたい考えだ。ティル・シュトライヒェルト最高財務責任者(CFO)は、アジア向けに輸送能力をより恒久的にシフトする余地は「確実に」あると述べた。
ただし、こうした対応は必ずしも容易ではない。機材の適合性の問題があるからだ。欧州と湾岸地域を結ぶ路線で使われる単通路機は、アジア向けの長距離路線に適さない場合がある。さらに、燃費効率の高い新型のワイドボディー機は納入待ちが数年単位に及ぶ。新路線の開設にも、発着枠や運航計画、人員配置などで数カ月の準備が必要となる。
加えて、ジェット燃料不足への懸念から、ルフトハンザは運航停止を含む危機対応計画の準備も進めている。
株式市場では、ルフトハンザ株がイランでの戦争開始以降17%下落。ブリティッシュ・エアウェイズの親会社IAGは同期間に13%、エールフランスKLMは27%それぞれ下げた。モルガン・スタンレーとUBSは最近、燃料コストを理由に複数の欧州航空株の目標株価を引き下げた。
価格競争
戦争終結の見通しは不透明だが、中東の航空各社がシェア奪回に向けて運航を本格再開すれば、価格競争が激化する可能性は高い。
シリウムのシニアコンサルタント、リチャード・エバンス氏は「湾岸の航空会社はハブ空港経由の需要を回復させるため、非常に魅力的な運賃を提示するだろう。欧州勢が高需要・高運賃を享受できる期間は短いかもしれない」と指摘した。

ハブ空港を中心とする中東のビジネスモデルは、エミレーツ航空やエティハド航空に過去数十年で大きな成長をもたらした。エミレーツの2025年の旅客数は5560万人と、20年前の4倍超に達した。
これによりドバイは世界で最も利用者の多い国際空港となり、その地位を過去3年間維持している。一方でライバル各社は中東勢について、不公正な補助金によって支えられてきたと主張している。
エールフランスKLMのベン・スミス最高経営責任者(CEO)は3月のインタビューで、「湾岸の航空会社は最新の機材と素晴らしい空港を持っていると言われるが、それを可能にしているのは公平でない競争環境だ」と述べた。

アジアの航空会社も長距離路線を拡充している。シンガポール航空はロンドンやメルボルンへの便を追加し、香港のキャセイパシフィック航空はパリ、チューリヒ、ロンドンへの運航を増やした。エア・インディアは便数増加を表明し、オーストラリアのカンタス航空も欧州路線の供給拡大を進めている。
アジアと欧州を結ぶ便の運航は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、西側の航空会社がロシア上空の飛行回避を余儀なくされ、もともと難易度が高かったが、今回のイランを巡る戦争で状況はさらに悪化した。イランとイラクの空域閉鎖により、航空機の飛行はジョージア、アゼルバイジャン、中央アジア上空の限られたルートに集中している。
ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、コンロイ・ゲイナー氏は、「欧州航空会社にとってアジア路線の課題は空域の制約と、ロシア上空を飛行できるアジア勢との競争だ」と指摘。その上で、「大西洋路線に供給能力を一段とシフトさせる可能性はあるが、大幅な増便を吸収できる需要があるかという懸念は残る」と付け加えた。
原題:Here’s How the Iran War Has Started to Reshape Global Aviation(抜粋)
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