米国とイランは2週間の停戦で合意した。これにより、既に数千人の死者を出し、エネルギー供給の世界的逼迫(ひっぱく)招いている戦争で、トランプ米大統領が警告していたエスカレーションは回避された。

今回の停戦では、紛争を最終的に終結させる合意に向けた交渉の時間を確保する。トランプ氏は、米国とイランの間で「過去のさまざまな争点のほぼ全て」が解決されたと主張している。

停戦の主要な仲介役であるパキスタンは、首都イスラマバードで対面の交渉を行うため、両国に代表団の派遣を要請した。

戦闘の一時停止の発表は、コモディティー市場や金融市場に安堵(あんど)をもたらした。トレーダーは、イランがホルムズ海峡の通航を2週間にわたり実際に再開させるかどうかを注視している。

この海上輸送の要衝を経由する輸出の混乱が数週間続いていることで、エネルギーやその他の物品のコストが上昇し、インフレを加速させるとともに世界経済の成長を圧迫するリスクが高まっている。

合意の内容は?

停戦条件の完全な内容は公表されていない。パキスタンは停戦が直ちに発効するとしている。一方、トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、ホルムズ海峡の「完全かつ即時、安全な再開」を条件に、米国は対イラン攻撃を2週間停止すると表明した。

世界の石油および液化天然ガス(LNG)供給の約5分の1が通過するこの重要な海峡では、米国とイスラエルが2月末にイランへの攻撃を開始して以降、通航量が大幅に落ち込んでいる。

イランは戦争開始後、承認された船舶を除き、ホルムズ海峡を事実上封鎖していた。アラグチ外相はX(旧ツイッター)に投稿した声明で、イラン軍と調整し「技術的な制約に十分に配慮」した上で、2週間にわたり同海峡の安全な通航を認めるとした。イランはホルムズ海峡の通航に関する通行料制度の整備も進めている。アラグチ氏はまた、イランへの攻撃が停止されれば、同国軍は「防衛作戦を停止する」と表明した。

動画:米国とイランは、イランがホルムズ海峡を再開することを条件に2週間の停戦で合意した

トランプ氏の停戦発表は、イランがホルムズ海峡を再開しなければ民間インフラへの大規模な爆撃に直面するとした自身の期限の約1時間半前に行われた。実行されていれば、こうした攻撃は戦争犯罪に当たる可能性もあった。

今回の動きは、トランプ氏が最も強硬な威嚇から後退した新たな事例と言える。こうしたパターンは「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプ氏はいつも尻込みする)」として知られている。

イスラエルは停戦に合意したのか?

イスラエルも対イラン攻撃を2週間停止することで合意した。停戦の仲介役パキスタンのシャリフ首相はSNS投稿で、この停戦がレバノンも対象に含むと指摘した。レバノンでは、イスラエルが親イラン民兵組織ヒズボラとの並行的な紛争を続けている。一方、イスラエルのネタニヤフ首相のオフィスは、シャリフ氏の見解に異議を唱えている。

イスラエル軍は8日、対イラン戦争開始以降で最大規模となるヒズボラへの作戦を実施したと発表した。ザミール参謀総長は、同国軍がヒズボラに対し「断固として」攻撃を続け、あらゆる作戦上の機会を活用する方針だと述べた。

停戦でホルムズ海峡の通航は再開されるか?

指標の北海ブレント原油先物相場は、停戦発表を受けて1バレル=100ドルを下回った。原油タンカーが少なくとも一時的にはホルムズ海峡を通過することできるとの期待が背景にある。

しかし、船主が傘下の船舶について安全に同海峡を航行できると十分に確信するかどうかはなお不明だ。停戦の条件や実際の通航の運用について、一層明確な情報を求める公算が大きい。市場の注目は停戦発表後に湾岸から初めての出航を試みている2隻に集まっている。

トランプ氏は、米国がホルムズ海峡の航行再開を支援し、「全てがうまくいくように確保する」と投稿したものの、具体的にどのような作戦になるのかは明らかでない。

最良のシナリオでも、本格的な通航再開には時間がかかると考えられる。海峡の両側には多数の船舶が滞留しており、ペルシャ湾内では800隻余りが足止めされている。

西オーストラリア大学防衛・安全保障研究所のジェニファー・パーカー非常勤教授は「世界の海運の流れを24時間で元に戻すことはできない」と指摘。「タンカーの所有者や保険会社、乗組員は、リスクが単に一時停止したのではなく実際に低下したと確信する必要がある」と説明した。

長期的な合意に対する障害は何か?

停戦が維持されるかどうかは、現時点で不透明だ。トランプ氏の発表直後、ペルシャ湾岸諸国の一部やイスラエルはイランによるミサイルやドローン攻撃を報告している。ただ、停戦成立後に戦闘が徐々に収束していくのはよくあるケースだ。

さらにイランの場合、指導部への攻撃に対する耐性を高めるため、軍の指揮統制体制を分散化しており、攻撃停止の命令が部隊全体に行き渡るまで時間がかかる可能性がある。

米国とイランの双方は今回の停戦を勝利と位置付けているものの、紛争の恒久的な終結は今後の交渉の行方に左右される。両国はこの戦争が始まる前、イランの核開発計画を巡って協議していた。

イランがイスラマバードでの直接協議に応じる一方で、ホワイトハウスのレビット大統領報道官は、今後の話し合いの進め方については引き続き協議中であり、「最終的に確定したものは何もない」と注意を促した。

トランプ氏は、イラン側が提示した10項目の提案について「交渉の基盤として機能する」と評価した。だが、和平合意を巡っては双方の立場に大きな隔たりがある。

イランは体制の解体につながったり、ベネズエラのように親米的な指導者を据えたりする米国の包括的要求を受け入れる姿勢をほとんど示していない。また、核開発計画の恒久的な放棄や弾道ミサイル戦力の廃棄など、トランプ氏やイスラエルの要求に応じることにも公にコミットしていない。

停戦発表後、トランプ氏はイランがウラン濃縮を行わないと投稿したが、これはイラン側の条件と矛盾する。国営メディアが伝えた最高安全保障委員会(SNSC)の声明によれば、イランは自国の濃縮活動の容認、ホルムズ海峡の管理継続、1次・2次制裁の全面解除、戦争被害への補償、米軍戦闘部隊の地域からの撤退などを求めている。

戦争からの出口を見いだすよう政治的・経済的圧力を受けているトランプ氏は、自身の最大限の要求について妥協し、重要課題の幾つかを未解決のまま残す可能性がある。紛争の影響で、米国内のガソリン価格は2022年以来初めて1ガロン=4ドルを上回り、11月の中間選挙を前に消費者の負担は増している。

原題:What We Know About the US-Iran Ceasefire: Explainer(抜粋)

--取材協力:Kate Sullivan、Dan Strumpf、Weilun Soon、Catherine Lucey、Courtney Subramanian、Eric Martin、Jennifer A Dlouhy、Tooba Khan.

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