今年、昇給がなかったのなら、あなたが「最高の人材」ではなかったからかもしれない。

これまで多くの企業は、賃上げを従業員全体に薄く広く行う「ピーナツバター型昇給」を何年も続けてきた。しかし最近では、限られた予算をスター社員に集中させ、大幅な賃上げを実施する企業が増えている。コンサルティング会社コーン・フェリーの分析によると、需要の高いスキルを持つ人材は評価されていないと感じれば転職しかねないとの判断が背景にある。一方、他の従業員にとっては、ホワイトカラーの人員削減が続く中で職を維持できること自体が報酬と言える。

銀行や人工知能(AI)など成長分野での人材争奪戦は、不均等な賃金決定を正当化する材料となっている。今月にはメタ・プラットフォームズが大半の従業員の株式報酬を削減し、AI研究者の採用やデータセンター建設に経営資源を振り向けた。ウォール街の金融機関は、以前から成績トップクラスの従業員に多くのボーナスを支給してきたが、その方針はさらに徹底された。JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックス・グループなどの大手銀行は好業績を踏まえ、成績トップの行員に巨額の報酬を支払う一方、成績不振者には支給しないケースもあった。

欧州では、HSBCホールディングスが一部行員にボーナスをごく少額、あるいは全く支給せず、「稼いだ分だけ得る」成果主義が色濃くなっている。

ペンシルベニア大学ウォートン校のイワン・バランケイ准教授は「トップ人材の市場は非常に競争が激しい」と指摘する。「極めて優秀であることを示す証拠があれば、企業に対して暗に、あるいは明示的に会社を辞めると脅すことができる」と話す。

経済の不確実性が高まる中でも人材争奪戦は続いており、特に急成長するプライベートクレジット分野では、トップクラスの専門家が250万ドル(約4億円)以上の報酬を得ている。2026年も採用は堅調が見込まれ、手元資金は潤沢で保険マネーの流入も続いており、投資銀行もライバルに後れを取らないよう取り組んでいることが背景にある。

コロナ禍後の労働力不足の中で、一律昇給は人材確保の有効な手段だった。現在も多くの企業が広範に昇給を実施している。コーン・フェリーによると、25年も雇用主の約4分の3が「ピーナツバター型」を維持し、半数はほぼ全従業員の給与を引き上げた。

しかし、今や非スター社員にとって、物価上昇率並みの昇給すら保証されない状況だ。企業はAI導入で効率化と人員削減を進めている。

雇用環境は雇い主優位に傾いている。昨年はリセッション(景気後退)期を除けば2003年以来最悪の採用状況だった。今年初めにやや安定したものの、26年も雇用は総じて低調とエコノミストらはなお見込んでいる。従業員を引き留めるためなら何でもする姿勢を企業がとっていた数年前とは対照的に、今や多くの企業からのメッセージは「受け入れるか、去るか」という厳しいものだ。

こうした報酬の差別化は、職場に二層構造が生まれつつあることを示す証拠だ。企業は最も輝かしいスター社員に報酬を最大限に集中させる。コーン・フェリーによれば、米国など先進国では今年の基本給は約3.5%の増加が見込まれるが、これはあくまで総額だ。大半の個人はそこまでの昇給は見込めない。数字の奥深く、そして経営陣の議論の中で二極化が進行している。経営陣は利益率向上、業績不振者の排除、AI活用による生産性向上を迫られている。

コンサルティング会社マーサーによると、雇用主の83%が依然として一律昇給を好むものの、その魅力は労働市場の軟化で薄れている。マーサーの最新の給与予算データでは、米国の雇用主は今年、総報酬増加率を昨年並みの3.5%に抑える計画であり、これには一部従業員に対するゼロ昇給も含まれる。ウィリス・タワーズ・ワトソンのデータも伸び悩みを示している。不安定な経済環境下で企業が固定費を増やすことに慎重な姿勢がうかがえる。

コーン・フェリー北米トータルリワード部門のトム・マクマレン氏は「もし自分がトップ人材なのに3.5%しか昇給がないなら、履歴書を送り始めるだろう」と語る。差別化された、いわば「厚切り」の報酬は、そのリスクに対する保険となる。

原題:Bosses Boost Pay for Star Performers, Ditch Raises for Others (1)(抜粋)

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