中東での戦闘で世界が緊張状態にある中、アジアを襲う経済的衝撃は極めて深刻で、いつもは慎重な発言にとどまる指導者たちも声を上げ始めている。

最も強靭(きょうじん)な国から最も脆弱(ぜいじゃく)な国まで、アジアはホルムズ海峡経由のエネルギー供給に依存する構造を抱えている。シンガポールのバラクリシュナン外相は米国について、「revisionist power(修正主義的な大国)」であり、場合によっては「disruptor(破壊者)」とも呼ばれる存在だと率直に表現した。

これはイラン戦争とアジアにおける米国の役割に関する発言だが、それ以上に大きな問題を指している。すなわち、米国が主導してきた戦後秩序は「素晴らしい平和と繁栄の時代を支えてきた」基盤だったが、それが侵食され、今や失われてしまったということだ。

これは単なる不安に基づくレトリックではない。むしろ、アジアから遠く離れたワシントンとテルアビブでの判断によって引き起こされた戦争が、今やアジアの家計や企業に直接的な影響を及ぼしていることへの深い危惧を反映している。

ホルムズ海峡を通過する原油の約90%、液化天然ガス(LNG)の83%がアジア向けだとバラクリシュナン氏は指摘し、「今やホルムズ海峡の封鎖は、ある意味でアジアの危機だ」と述べた。

シンガポールの政府は通常、抑制的な表現を使う。そのため、東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国でも裕福なこの都市国家がここまで直接的に語るとき、地域全体が耳を傾ける。

アジア各国の外交官数人からも同様の不満を聞いており、彼らはトランプ米大統領の変動の激しい外交政策に疲弊していると非公式に語っている。

まず各国は予測不能な関税政策への対応を迫られ、次に自国防衛への支出拡大を要求され、長年の安全保障の枠組みが揺らぎ、そして今、他国の戦争の代償を負わされているとの認識が広がっている。

日本や中国、シンガポールのように資金力と戦略備蓄を持つ比較的豊かな国は、少なくとも短期的には打撃を緩和できるが、他の国々はより大きな影響を受けやすい。

東南アジアの多くの国では石油備蓄は20-50日分しかないと、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)はみている。一部の政府は国家的なエネルギー緊急事態を宣言したり、大学の休校前倒し、さらには燃料節約のためにクリケットファンに自宅観戦を呼びかけたりといった強硬策を取らざるを得なくなっている。

政治的な影響もすでに抑え込むことが難しくなっている。イエメンの親イラン武装組織フーシ派の参戦により、アジア向けエネルギー供給の重要な動脈である紅海での貿易混乱リスクが高まっており、事態はさらに深刻化する公算が大きい。

地域全体で燃料価格の上昇が社会不安を引き起こしており、フィリピンでは運輸労働者がストライキを実施、タイの一部ではパニック的な買いだめが発生し、インドでは調理用の液化石油ガス(LPG)が供給不足に陥り野党議員による抗議活動が起きている。

中国の影響力

イラン戦争はアジアの地政学も大きく変えつつある。国家的な燃料危機に直面するフィリピンのマルコス大統領は、南シナ海の領有権問題で中国と対立してきたにもかかわらず、係争海域での中国との石油・ガス共同探査に前向きな姿勢を示した。これが議論の俎上(そじょう)に載っている事実は、信頼ではなく切迫した状況を反映している。

中国も外交面で影響力を強めている。イラン戦争の終結に向けた支援を申し出るなど、世界的な仲介者としての立場を打ち出している。

中国海南省で開かれたボアオ(博鰲)アジアフォーラムでは、シンガポールのウォン首相が地域の安定と成長を支える上で中国がより大きな役割を果たすよう求め、その巨大な国内市場の吸引力を強調した。ボアオフォーラムは世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)の中国版と呼ばれている。

もっとも、こうした見方には楽観的過ぎるきらいもある。中国経済は減速しており、長らく期待されてきた消費拡大も実現していない。中国の年間貿易黒字は1兆ドル(約160兆円)を超え、輸出の波が他のアジア市場に流れ込み、産業や雇用を圧迫している。

また、中国人民解放軍の急速な軍備増強や南シナ海での衝突頻発、台湾周辺での継続的な圧力は、地域の不安を一段と高めている。中国は自らを安定化要因として位置付けているが、現実ははるかに複雑だ。

従って、アジアにとって現実的な対応は、どちらかの陣営を選ぶことではなく、「オイルショック」の影響を小さくすることにある。エネルギーの供給元分散化や戦略備蓄の拡充、地域協力の強化が有益だ。

その一部はすでに進んでおり、オーストラリアとシンガポールがエネルギー安全保障で協力する最近の合意は、他国にとっても模範となり得る。必要性から生まれるこうした連携は、もはや現実を反映しなくなった従来の枠組みに代わる新たな地域秩序の基盤となり得る。

ホルムズ海峡を巡る危機は根本的な弱点を浮き彫りにした。アジアは自らが制御できない遠方の紛争のコストを負担させられている。こうした依存を低減するのは容易ではないが、そうしないことの代償は、もはや無視できない水準に達している。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:The Strait of Hormuz Closure Is Asia’s Crisis: Karishma Vaswani(抜粋)

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