化学メーカーの太陽ホールディングス(HD)が米投資会社KKRに買収され、株式市場から退場する可能性が高まった。混乱の始まりは、主要株主であるDICとの対立だった。優良企業を追い詰めた株主マネジメントの失敗は、他の日本企業にとって対岸の火事ではない。

太陽HDの取締役会は適切に機能していないーー。株主総会を目前に控えた2025年6月上旬、筆頭株主のDICから投げかけられたメッセージは不信感に満ちたものだった。太陽HDがファンドなどからの買収提案に十分に対応していないと指摘。問題の一因に佐藤英志社長(当時)の強い影響力があるとして、再任に反対すると公表した。

反対意向は事前に知らされておらず、佐藤氏にとってはサプライズだった。「今となっては安定株主ではないかもしれない」と気づいた時には遅く、別の大株主である香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントや創業家も反対を表明していた。

議決権の約4割が反対に回った上、議決権行使助言会社の反対推奨で機関投資家の一部も反対票を行使。否決された佐藤氏は、社長を退任した。たった1年前、24年の株主総会での佐藤氏再任の賛成比率は約98%だった。

太陽HDの感光性絶縁材料で処理された半導体ウエハー

政策保有株の解消などが強く求められる中、過去の安定株主が機能しないケースは少なくない。筆頭株主だった大正製薬ホールディングスの後ろ盾を失った養命酒は、旧村上ファンド系関係者のファンドに買収され、事実上解体された。さまざまな思惑を持った株主が入り込みやすくなる中、コミュニケーションはこれまで以上に重要になっている。

企業経営コンサルティングを手がけるボードアドバイザーズのパートナー、野口智弘氏は、大株主との丁寧なコミュニケーションは「重要性が非常に高い領域だ」と指摘する。「株主ごとに保有目的や期待値が異なる点を理解しないと、コミュニケーションの行き違いが起きやすい」という。

業績は好調

太陽HDは、ファンド傘下入りや非公開化を望んでいた訳ではない。社長が斎藤斉氏に代わった後も、単独成長の道を模索した。25年8月に新中期経営計画を公表。25年3月期に比べ、31年3月期に売上高51%増の1800億円、自己資本利益率(ROE)30%などを目指す野心的な目標を立てた。上場維持を念頭に28年3月期に総還元性向100%を目安とする方針も明言した。

11月に公表した方針でも、提案者との買収交渉のプロセスは進めるが、実行するかは単独で実現し得ない付加価値を生むかが基準となると釘を刺していた。

足元の業績も好調で26年3月期の連結営業利益見通しを296億円に引き上げた。統合報告書によると、25年3月期の営業利益率18.5%と製造業平均(5.2%)を大幅に上回る。

それでも買収提案を比較検討する太陽HDの特別委員会はKKRの買収提案が妥当だと判断。取締役会も提言を尊重するとして、最終的に非公開化の道を選んだ。

重みを増す社外取締役

分水嶺はどこだったのか。DICは24年3月に、政策保有株を削減する方針のもと、太陽HDに同社株の買い取りを求めた。だが協議は不調に終わり、その後、DICは積極的にプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社による太陽HDの買収を支援する立場に変わる。DICに対して太陽HDに関する提案をしてきたKKRなどPEファンド3社を太陽HDに紹介した。もし、株式買い取り交渉が成功していれば、非上場化には進まなかったかもしれない。

株主との対話の質を高めるにはどうしたらいいのか。野口氏は「投資家との対話における社外取締役の役割」が鍵だと話す。経営陣は愛着のある事業の売却決断が鈍ったり、視野が狭くなることがあり、社外役員は執行側の提案に、独立した外部の視点で「良い問い」を投げかけることで、意思決定の質を高める役割があるからだという。

例えば、太陽HDのように不安定な株主構成の企業であれば、いつ企業買収などの「有事」が始まってもおかしくはなく、準備をして主体的に立ち向かわなければ経営が揺らぎかねない。野口氏は、日本市場では同意なき買収の受け入れ、アクティビズムの活発化などの環境変化で「今や平時と有事が混ざり合っており、感度を高く持つことが社外取締役の重要な役割だ」と述べた。

--取材協力:鈴木英樹、布施太郎、吉田昂.

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