プライベートクレジットの運用会社が難しい立場に置かれている。一部の投資家が望むほど速やかに資金を引き出せず、不満や怒りが広がっているためだ。資金返還に関する理解不足に対し、ぎこちない弁明が相次いでいる。

オルタナティブ資産運用を手がける米ブルー・アウル・キャピタルのダグ・オストロバー共同最高経営責任者(CEO)は3月下旬にオーストラリアで開かれた会議で、「われわれと、われわれの商品を販売するアドバイザーの双方において、十分に明確な説明ができていなかったと思う」と述べた。

顧客の不満を招くことは、一般的には悪材料だ。プライベートクレジット企業にとっては、将来の資金調達能力を損なう可能性が高い。

だが、より重要なのは、有権者が被害を受けたと感じれば、政治家がそこに機会を見いだす点にある。そして、それが金融業界にとって良い結果をもたらすことはめったにない。

この厄介な局面から得られる最良の結果があるとすれば、米国が一般の人々の退職ファンドにより多くのプライベート資産を組み入れる計画を見直すことかもしれない。

プライベートクレジットファンドは通常、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社が保有する企業に直接融資し、期間はおおむね5年だ。

しかし、このような流動性の低い投資は、一般投資家にとってはごく少額かつ厳格な制約の下でのみ適している。個人マネーが過度に流入すれば、いずれ運用会社と金融の安定性に悪影響を及ぼす大きなアクシデントにつながりかねない。

妥当な対応

ここ数週間、個人投資家の資金引き出し要請に運用会社数社が応じきれず、摩擦が広がっている。投資家は最近のファンド損失や人工知能(AI)の影響を受ける可能性のあるソフトウエア企業向け融資の比率の高さなどを懸念。だが、運用会社の多くは、想定を大きく上回る規模の解約請求に直面しても、四半期ごとの償還制限の枠内に返金をとどめている。

こうした特殊なファンドは、「事業開発会社(BDC)」と呼ばれ非上場だ。1兆8000億ドル(約285兆円)規模のプライベート貸出市場の重要な一角を占めている。投資家に資金を返還するために、売却が難しいローン債権を急いで処分して資金を捻出することを運用会社が避けているのは、妥当な対応だ。

アレス・マネジメントが運用するファンドは、解約請求がファンド持ち分の11.6%に達したが、純資産の5%までに払い戻しを制限した。

アポロ・グローバル・マネジメントも11.2%の解約要請に対し、同様の四半期上限を維持した。ブラックロックとブラックストーン、クリフウォーター、モルガン・スタンレーのファンドでも解約需要は高まっている。多くのファンドは、長年の好調なリターンを経て、保有するローンの価値が下落したことで、四半期ベースで損失も計上した。

支払い制限は、ローン債権価格の下落や評価損の拡大、さらなるパニック的な解約という連鎖的な悪循環を断ち切るという点で適切な措置だ。これを放置すれば、信用市場の混乱が危機に発展しかねない。ただし個人投資家の不満は強く、次の四半期には解約待ちの列がさらに長くなる可能性がある。

運用会社は、借り入れコストの上昇がローン価値を押し下げているものの、ポートフォリオ内の信用力自体は依然として健全だと主張している。個人投資家の一部が資金を引き揚げる一方で、機関投資家は引き続き新規資金を投入しているとされる。

それでも、とりわけソフトウエア企業向け融資を中心に損失拡大への懸念は根強い。最も弱気な見通しでは、プライベートクレジットの借り手の15%がデフォルト(債務不履行)に陥り、回収率はローン額の20%にとどまる可能性がある。この場合、平均的なポートフォリオで12%の損失となり、ファンドが借入金でレバレッジをかけていれば、損失はさらに膨らみ得る。

目論見書

投資家が資金引き揚げを望む理由は明らかだが、解約が容易ではないことは理解しておくべきだった。BDCファンドは運用会社や販売側が示すほど単純な商品ではないが、目論見書を一読すれば、望むタイミングで資金を引き出せる保証がないことは明白だ。

筆者が確認した全ての目論見書では、冒頭2つ目か3つ目の箇条書きに太字で次のように記されている。「当社の運用成績にかかわらず、株式を売却できるとは想定すべきではない」。投資家はこれを確認していたのか。金融アドバイザーはこの点を強調していたのか。

オストロバー氏の発言は、企業側がこうした点への懸念を強めていることを示唆している。同じ会議で、アポロのジム・ゼルター社長は、地域や販売経路によっては投資家がリスクを十分理解しないままファンドが販売された可能性があると指摘。ここ数週間、責任はプライベートクレジット会社ではなく、金融アドバイザーなどにあるとする意見も多く寄せられている。

ただし、解約圧力が高まり不満が政治問題化すれば、そうした区別は意味を持たなくなるかもしれない。ゴールドマン・サックス・グループのロイド・ブランクファイン前CEOは3月初旬、ブルームバーグのポッドキャストで、ウォール街が個人投資家に巻き込まれるリスクについて語った。

大手機関が特定の商品で損失を被っても、耐えられる。そのため、政府の関心は限定的だとした一方で、「個人、つまり消費者(納税者であり市民)に損失が生じると、政府は非常に強く反応する。規制当局も同様だ」と述べた。

複雑で流動性の低い、あるいは仕組み化された投資商品が個人投資家に販売される事例はこれまでも繰り返されてきたが、多くの場合、企業にとって好ましくない結末を迎えている。

プライベートクレジット業界がもっと多くの家計に商品販売を広げようとする中で、運用各社や政治家、規制当局はこの点を踏まえるべきだ。むしろ、そうした動きは控えるべきだろう。

(ポール・デービス氏は銀行・金融分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前は米紙ウォールストリート・ジャーナルや英紙フィナンシャル・タイムズの記者でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Private Credit Exit Fight Is Showing Its Limits: Paul J. Davies(抜粋)

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