映画プロデューサーのジャスティン・ハックニー氏は仲間外れには慣れている。ダニー・ボイル監督の映画「28日後…」で感染した少年役を演じ、その後長年にわたりボイル監督の下で経験を積んだ同氏は、キャリア半ばでテック業界に転身。OpenAIやイレブンラボで勤務し、映画や広告における生成人工知能(AI)ツール活用の利点を説いている。

業界の友人らは同氏と距離を置くようになった。ある広告代理店の幹部はハックニー氏のプレゼンテーションを聞きながら頭を抱えたという。「多くの人が自分を嫌ったが、正直それも無理はない」と同氏は語る。

映画やテレビ業界はAIに極めて強い抵抗を示している。脚本家や絵コンテ作成者、視覚効果の専門家などの職を奪うとの懸念があるためだ。中国のAIサービス「Seedance 2.0」が生成した、トム・クルーズとブラッド・ピットが素手で殴り合う映像のような極めてリアルな動画がこうした不安をさらにあおっている。

3月15日に行われたアカデミー賞授賞式では、司会を務めたコナン・オブライエンが「最後の人間の司会者になることを光栄に思う」と述べて冒頭のモノローグを開始した。

AIを巡る懸念の多くはもっともだ。映画スタジオが数分で安価にストーリーボードを生成できるようになり、コンセプトアーティスト(視覚的イメージを作成する専門家)は苦境に立たされている。ロサンゼルス郡では過去3年間に映画・テレビ業界で4万1000人の雇用が失われた。これは娯楽産業全体の約4分の1に相当する。

ドリームワークス創業者のジェフリー・カッツェンバーグ氏は、AIがアニメーターの大半を置き換えると予想する。「かつては世界水準のアニメ映画を作るのに500人のアーティストと数年の年月を要したが、3年後にはその10%も必要なくなるだろう」と、2023年のブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラムで語った。

だが、AIが映画制作の芸術性を破壊するとは限らない。むしろ、高い制作費をかけたような作品を製作する手段がなかった人々に新たな機会を提供するかもしれない。アルファベット傘下のYouTubeが、低予算コンテンツでも制作者が収益化できる市場を構築したようにだ。

ハックニー氏は同業者から冷たい視線を浴びながらも、合成映像制作の世界にさらに深く踏み込んでいる。昨年にはロンドンを拠点とする制作会社ワンダーを共同設立。AI生成の短編映画やミュージックビデオ、テレビ広告に資金を提供している。出資者にはOpenAIやグーグル・ディープマインドの幹部のほか、ハリウッドのベテランも名を連ねる。

ワンダーは昨年9月、英国の歌手ルイス・キャパルディの楽曲「Something in the Heavens」のミュージックビデオを完全にAIで制作したことで一躍注目を集めた。同社はこれまでにアニメ短編や広告動画も手がけている。

配給に関してYouTubeが果たした役割を、制作に関してはAIが担いつつある。高予算のテレビ番組や映画では完成作品1分当たり約50万-100万ドルの制作費がかかる可能性があるが、ワンダーはAIによってこれを1万-2万ドルに抑えられるとしている。

同社はまた、映画制作者に2万5000ドルなどの一時金を投じた上で、知的財産(IP)を折半する形で制作を委託している。一方、ネットフリックスなどの制作会社は通常、「コストプラス」方式でクリエーターに報酬を支払い、作品の権利の大半、あるいはほぼ全てを保有する。(「スター・ウォーズ」の生みの親であるジョージ・ルーカス氏は権利保有を交渉したまれな例で、そのため富豪となった)

最近では、児童書「マキシ・アンド・ヘリウム」(販売部数500万部)の著者であるスウェーデン人作家と契約を結んだ。ワンダーは同書を活用してYouTube上で子ども向けアニメ番組をAIで制作し、5カ国語に吹き替えた。著者のカミラ・ブリンク氏はウォルト・ディズニーやネットフリックスに権利を売却するのではなく、ワンダーと知的財産(IP)を共同で所有している。

こうしたモデルは、今後想定されるAIで製作した映画やアニメの氾濫が質の低いコンテンツであふれるのを防ぐ上で、重要な意味を持つだろう。映画制作者はステークホルダーのような立場となり、一括報酬でAIコンテンツを制作する場合と比べて、一段と品質に配慮するようになるだろう。

AIはほぼ確実に、エキストラや視覚効果の専門家に打撃を与えるだろうが、先行きを慎重ながらも楽観できる根拠がある。YouTubeの委託でオックスフォード・エコノミクスが実施した2024年に実施した調査によると、YouTubeの台頭は新たな経済圏を誕生させ、米国内総生産(GDP)を550億ドル押し上げるとともに、49万人の正規雇用を支えている。

創造的破壊は痛みを伴うが、適切なゲートキーパー(門番)の存在により、さらに多くの雇用を創出できるかもしれない。

(パーミー・オルソン氏はブルームバーグ・オピニオンのテクノロジー担当コラムニストです。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)やフォーブスで記者経験があり、著書には「Supremacy: AI, ChatGPT and the Race That Will Change the World」など。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Relax, Tom Cruise, Brad Pitt. AI Won’t Kill Movies: Parmy Olson(抜粋)

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