(ブルームバーグ):ベッセント米財務長官はかねて、増大する連邦債務残高への懸念が公職に就く動機になったと繰り返し表明してきた。だが過去数週間の展開は、ベッセント氏が指摘したこうした懸念を一段と強める流れとなっている。
まず、トランプ大統領が講じた包括的な関税措置に連邦最高裁が違法の判断を下したことが挙げられる。1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とするこの関税は、連邦政府の重要な歳入源となってきたこともあり、政権は別の法律を通じて通商体制の再構築を目指している。
しかしエコノミストは、新たな関税では同程度の歳入は見込めないと警告している。関税収入は既に昨年10月にピークを付けていた。
さらに、対イラン戦争は政府支出を押し上げるとともに、成長見通しを不透明にし、歳入を巡るリスクを高めている。国防総省は戦費として追加で2000億ドル(31兆7500億円)を議会に要請した。また、原油相場の上昇はインフレ圧力を強め、財政赤字縮小への効果が期待されていた米利下げ観測の後退を招いている。
こうした状況はいずれも、トランプ氏の大統領任期が終わる2029年1月までに、財政赤字の対国内総生産(GDP)比を4%未満に引き下げるという、ベッセント氏の目標達成が一段と困難になることを意味する。
最高裁判断や対イラク戦争前の時点でも、超党派の議会予算局(CBO)は、今後10年間の財政赤字が平均で対GDP比約6%に達するとの見通しを示していた。
財政規律を提唱する超党派非政府組織「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」のプレジデント、マヤ・マクギネアス氏は「関税を巡る最高裁判断と戦争の双方が、非常に悪い財政軌道をさらに悪化させる」と指摘。「この判断は連邦政府の歳入を減少させることになるが、代替となる関税でそれを補えるかは不透明だ。そして、この戦争が大幅な追加コストをもたらすのは明らかだ」と述べた。
ベッセント氏は22日にNBCニュースの番組「ミート・ザ・プレス」に出演し、イランとの紛争が予算に与える影響について、「この戦争に資金を充てるだけの余力は十分にある」と発言。同氏はまた、政府の年次財政報告の公表に合わせた19日の声明で「経済成長を通じて、時間をかけて財政赤字をGDP比3%に引き下げることが可能だ」とする一方、「現政権は持続不可能な財政軌道を引き継いだ」とも論じた。
持続可能な財政路線への支持拡大を目指す調査団体「ピーター・G・ピーターソン財団」のマイケル・ピーターソン最高経営責任者(CEO)は「何の計画もないまま、このペースで兆ドル単位の借り入れを重ねることは、持続不可能の定義そのものだ」と話した。
ブルッキングズ研究所の財政専門家ジェシカ・リードル氏は、イランでの戦争や最高裁の関税判断による影響は、長期的には社会保障などの義務的支出といった慢性的な赤字要因に比べれば、小さい可能性が高いと指摘する。「現在の1兆8000億ドルの財政赤字という文脈では、イラン戦争はまだ財政を揺るがす規模にはなっていない」との見方を示した。
米国の財政状況は、新型コロナウイルス禍とその後のインフレ加速を受けて大きく悪化した。コロナ禍で打撃を受けた経済を支えるための大規模な財政支出で債務は数兆ドル規模で積み上がり、消費者物価の上昇を抑えるために必要となった金利引き上げが、債務の利払いコストを押し上げた。
こうした二重の打撃に加え、退職者人口の増加という構造的圧力も重なっている。これにより社会保障やメディケア(高齢者・障害者向け医療保険制度)への支出は着実に拡大している。トランプ氏がホワイトハウス返り咲きを果たす前の2年間、財政赤字は対GDP比で6%を超え、低失業率と堅調な経済成長の下では現代では前例のない水準となった。
大幅な財政赤字は債務残高の増加を意味する。その規模は現在、米GDPとほぼ同水準にある。米国債に対する買い手のストライキの兆候は見られないものの、いずれ投資家が国債の消化を続けるために一段と高い利回りを求める可能性があると、市場関係者は警告する。
元ヘッジファンド運用者のベッセント氏は昨年の議会証言で、米国債の供給に対して「市場がいつ、そして実際に反発するのかを見極めるのは非常に難しい」と話していた。
CBOは先月、一般に保有される連邦債務残高が26会計年度(25年10月ー26年9月)に32兆ドルに達し、トランプ政権2期目発足時の約29兆ドルから増加するとの予測を示した。純利払いは26年度に1兆ドルを超える見通しで、推計される財政赤字全体の半分超を占める見込みだ。
ブルッキングズ研究所のリードル氏は、今後10年以内に年間2兆5000億ドル規模に達する見通しの社会保障やメディケアの資金不足に対処する政治的意思の欠如が、長期的な財政課題の核心だと指摘した。
同氏は共和党と民主党の「どちらも赤字拡大を止めるための真剣な計画を持っていない」と語った。
原題:Bessent’s Longshot Deficit Goal Undercut by War and Tariff News(抜粋)
--取材協力:Daniel Flatley.
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