(ブルームバーグ):中国の有力人工知能(AI)スタートアップについて香港で1年間取材する中で、1つ疑問に思うことがあった。なぜ新モデルはいつも深夜に発表されるのか。
後になって、杭州に本社を置くアリババから北京のZ.ai、上海のMiniMaxまで、深夜の発表の裏には米国の開発者にアピールする狙いがあることが分かった。(中国の深夜はカリフォルニア州の現地時間で午前9時に当たる)
長年にわたる米中間の緊張や中国のデータセキュリティーへの懸念を踏まえると、米国では受け入れられないのではないかと、筆者は当初考えていた。
ところが、実情は違った。
筆者が米国の名門大学を訪れたところ、中国のAIモデルはほぼ全てのセミナーや講義で議論されていた。サンフランシスコでも、起業家や研究者が同様に高い関心を示していた。
先週には、カーソルの共同創業者アマン・サンガー氏がX(旧ツイッター)への投稿で、自社の新たなコード生成モデル「Composer 2」が中国の月之暗面(ムーンショット)のオープンソースモデル「Kimi K2.5」を基盤としていることを明らかにした。
米国の一般ユーザーは依然としてChatGPTやClaude、Geminiといった主要サービスを利用しているが、開発者や起業家、企業関係者などの上級ユーザーの間では中国製モデルの利用が増えている。
先月ボストン大学で開催されたハッカソンでは、マサチューセッツ工科大学(MIT)で教えるアンドリュー・ミード氏が中国の最新オープンソースモデルを解説した。これらのモデルは、一部の性能指標において米国の最先端モデルに匹敵しながら、コストははるかに低い。
参加者の一人はデータセキュリティーへの懸念を指摘。オープンソースAIの集約プラットフォームであるOpenRouterなど、米国系サービスを通じた利用を提案したが、多くの参加者はこうした懸念にあまり動じていなかった。
Z.aiが料金を30%引き上げたとミード氏が説明すると、値上げ前に購入すべきかと質問する声も上がった。
イベント後にインタビューに応じたミード氏は、米企業もユーザーデータでモデルを訓練していると考えているため、データセキュリティーを過度に懸念していないと述べた。「非常に強い反中感情」を持つ向きを除けば、中国の技術は「比較的好意的に受け止められている」と指摘。「モデルを公開するだけでなく、その開発手法に関する研究もすべて公開しているためだ」と述べた。
ハーバード大学の研究者は「ハイブリッド」型のワークフローに言及した。開発者の間では、まずアンソロピックのClaudeでプロジェクト設計を行い、その後の実行をZ.aiのGLMのような大幅に低コストの中国製モデルに委ねるケースがある。
最初はうまくいかなくても問題はなく、低コストであるため複数回実行して最適な結果を得ることができる。最終的には、米国の先端モデルを使うよりも費用対効果が高いという。
「長期的には最先端モデルの利用は全体の20%程度にとどまり、残り80%ではどれほど小さなモデルで済むかというコスト削減競争になるだろう」とミード氏。「中国モデルはすでに隙間を埋め始めている」と述べた。
中国のオープンソースAIモデルの利用者数を正確に把握するのは難しい。無料でダウンロードしてローカル環境や各種クラウド上で運用できるためだ。OpenRouterのデータによると、同プラットフォーム上での中国モデルの利用は2024年のほぼゼロから25年11月には30%以上へと急増した。
ユーザー数では依然としてグーグルやアンソロピック、OpenAIといった米国勢が優位に立っているが、今週のランキングでは中国の小米が約21%の市場シェアで首位となった。
アリババやバイトダンス、MiniMaxといった中国勢は、米市場へのアプローチを強めており、インキュベーターやエヌビディアのGTCといったイベントで大々的にロゴを掲げている。
ベイエリアでは至る所で中国製AIモデルの存在感を目にする。サンフランシスコの起業家向けカフェが主催した麻雀イベントでは、筆者のチームが優勝し、クラウドサービスで使える無料クレジット入りの「紅包(お年玉袋)」を受け取った。同サービスのランキングではMiniMaxとZ.aiのモデルがトップに名を連ねていた。
スタンフォード大学で人間とAIエージェントの相互作用を研究する博士研究員のハオ・ジュ氏は、米学術界の90%以上が研究で中国製モデルを使用していると推計する。研究者はモデルの挙動を左右する重み(ウェイト)の調整が必要になることが多いが、米国製の多くのモデルではこれが認められていない。一方で現在、オープンウェイトのモデルの大半は中国発だという。
同氏は、多くの米企業も中国のオープンソース基盤モデルを微調整して活用しているとみている。「率直に言って、自社で基盤モデルを開発していない企業のほとんどは中国製モデルを使っている可能性が高い」という。
テック投資家でインターコネクテッド・キャピタル創業者のケビン・シュ氏は、米国でも技術力のある大手企業の相当数が中国モデルを活用しているとみている。「これらの企業はモデルが中国製であること自体を過度に懸念しているわけではない。オープンソースを使いこなし、自社のニーズに合わせてコンプライアンスを満たす形でカスタマイズできるからだ」と語った。
だが、こうした動きは表に出にくいという。「中国製オープンソースモデルを使っているスタートアップは、実際には公表されているより多いだろう。地政学的な緊張がその背景にある」と同氏は指摘した。
原題:Americans Aren’t Afraid of China’s AI Models: Tech In Depth(抜粋)
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