注目の的となっていたイランの次期最高指導者に、死亡したハメネイ師の次男であるモジタバ・ハメネイ師(56)が選出された。30年以上にわたって厳格な統治を続けてきた父親からの世襲で、イランはどこに向かうのか。

56年の生涯の大半を、モジタバ師はイランで目立たぬ存在として過ごしつつ、治安機関や聖職者層、富裕なビジネスエリート層に静かにネットワークを築いてきた。突如として後継者となったことで、モジタバ師は米国・イスラエルとの戦争に直面すると同時に、体制に不満を持つイラン社会との向き合い方も問われることになる。

イランでは近年、数万人の人々が体制に不満を示し、大規模な抗議活動を繰り広げてきた。父ハメネイ師の政権下では、市民や政敵を殺害しても責任を問われることなく、縁故主義と腐敗が経済に根深く広がっていた。モジタバ師は、そうした体制側の象徴とも言える存在だ。

長年にわたり、父ハメネイ師との関係によって恩恵を受けてきた立場でもある。モジタバ師は、数十億ドル規模の国際的な不動産の資産を築いてきた。イランでは、神権体制を築いてきた聖職者エリートの息子や娘たちのことを「アガザデ」と呼び、国民の大半が強いられてきた困窮から隔絶された存在となっている。モジタバ師はまさに、その一例だった。

1月にイランで起きた大規模な抗議活動は当初、生活費高騰への怒りがきっかけだったが、急速に反政府デモへと発展した。人権団体によると、少なくとも7000人の民間人が死亡し、実際の犠牲者はさらに多かった可能性がある。

モジタバ師が最高指導者に選出されたことは、何を意味するのか。

まずトランプ氏が要求するイランの無条件降伏に応じる可能性が低いこと、そして父の強硬な統治路線、すなわちイスラムと反米外交を最優先する姿勢を継続することを示唆している。米国とイスラエルによって父と母、さらに妻を殺害されたことへの報復のために、指導力を行使する可能性もある。

最高指導者を任命する88人の聖職者で構成される専門家会議による採決は遅れ、憶測や内紛が数日にわたり続いた。その末にハメネイ師の息子を選出した今回の決定は、挑発的なメッセージのように映る。

モジタバ師は、1980年代のイラン・イラク戦争の退役軍人であり、治安部隊に近い人物とみられている。その事実は、イランの強力な軍事組織である革命防衛隊がこれからも戦争を継続させることで、中東を危機に陥れ、エネルギー市場を混乱させ、世界経済への波及も懸念されることを指し示している。

この決定は、モジタバ師を後継者として認めないと明言してきたトランプ氏をいら立たせることになりそうだ。トランプ氏はこれを口実に、テヘランへの空爆を一段と強化する可能性がある。8日にはイスラエルが主要石油貯蔵施設を空爆し、テヘランは黒煙に覆われた。

「モジタバ師の選出は、継続と挑戦のシグナルだ。父の遺産とイスラム共和国の中核原則へのコミットメントを示すと同時に、体制転換を狙う米国とイスラエルの試みを拒絶するものだ」と、ブルームバーグ・エコノミクスの地経学アナリスト、ディナ・エスファンディアリー氏は述べた。

テヘランで2024年6月28日に撮影された故・最高指導者アリ・ハメネイ師

トランプ氏は6日、イランに「無条件降伏」に同意するよう求めたが、イラン側は拒否した。エスファンディアリー氏は、モジタバ氏が「西側との関与や緊張緩和を模索する可能性は低い」とみている。

最高指導者は1979年の革命後に現在のイラン・イスラム共和国が樹立されて以来、国内で最も強大な権限を持つ立場だ。この地位は、イラン、イラク、レバノンで主流のシーア派イスラムの一派である十二イマーム派における最高位の宗教的権威を体現する。国家元首であるだけでなく、軍の統帥権も握る。

しかし、モジタバ師の任命は、イランは王朝的支配であってはならないという聖職者層の長年の信念に反するものでもある。今回の選出により、国民のニーズを最優先する合意形成型の体制だという建前は戦時下で放棄され、権力を握る強硬派の利益を守る姿勢が鮮明になった。

国内での評価は

ハメネイ師の4人の息子は、いずれも聖職者の道を歩んだ。

ただ4人の中で、シーア派イスラムで最高位の聖職者と見なされるために必要な神学的資格の取得を目指したのはモジタバ師だけだったと、反体制派のモフセン・サゼガラ氏は証言する。革命防衛隊の創設メンバーで元予算計画副大臣のサゼガラ氏は、イランのイスラム憲法とハメネイ体制を公然と批判する立場に転じ、2000年代初頭に反体制的見解を理由に複数回逮捕された後に出国し、現在は米ワシントンに拠点を置いている人物だ。

モジタバ師は1969年9月、イラン北東部の聖地マシュハドで生まれた。若い時期は、宗教研究の中心地コムの神学校で過ごした。その後は政界や主要機関に進出し、体制に近い富裕な実業家と関係を築いてきたと広くみられている。1980年代のイラン・イラク戦争では前線にも立った。この経験は、情報機関を含む体制内部で影響力を築く上で重要な人脈形成につながったとサゼガラ氏は述べた。

「戦時中に得た多くの友人が今も周囲にいる」とサゼガラ氏は語る。イランの戦時対応を支えるガリバーフ国会議長もその1人で、最高指導者への指名を強く後押しした可能性が高いと付け加えた。

国内の政治・軍事エリートの間では、ハメネイ師の選出を巡り深刻な分裂があったというのが、サゼガラ氏の見方だ。

国内で最も強硬な超保守派聖職者や革命防衛隊の大半が支持した一方、最高安全保障委員会のラリジャニ事務局長が主導したとみられる別の派閥は、父ハメネイ師が殺害された後に設置された3人で構成される暫定指導評議会の維持を支持していたという。

指導部内に生じている溝は、戦時下の対応にも浮き彫りになっている。

ペゼシュキアン大統領は7日、イラン軍に対して「近隣諸国から攻撃を受けない限り、攻撃やミサイル発射を行わないよう」指示したと述べた。大統領は3人の暫定評議会の一員であるものの、軍には開戦当初から高い裁量を与えられていた。指示を受けて、強硬派はただちにペゼシュキアン氏を批判し、攻撃は土日を通じて継続した。

今後はモジタバ師がイランの舵取りを担うことで、革命防衛隊は国家運営への関与を一段と強め、体制内では異論への締め付けが一段と強まることになりそうだ。

2019年に米国の制裁対象となった際には、モジタバ師は革命防衛隊の一部勢力とともに「父の地域的な不安定化の野心と、抑圧的な国内目標を進めようとした」と指摘された。こうした革命防衛隊との深い結び付きは、父と同じように強い影響力を行使できる立場をモジタバ師に与えることになる。

モジタバ師が公の場で撮影されることはまれだったが、高齢の故ハメネイ師の後継者論争が高まる中、国営メディアでの露出が増えていた。詳細な経歴は乏しいが、2005-13年に2期にわたって大統領を務めた強硬派のアフマディネジャド氏の支持者だとする報道が複数ある。

2009年にアフマディネジャド氏が再選した際には、選挙不正を訴える数百万人規模の抗議を引き起こした。デモは治安部隊に鎮圧されたが、多くのイラン人にとって、故ハメネイ師が体制を完全に掌握するためには市民を殺害することも辞さないのだと認識する転機となった。

モジタバ師は、こうした弾圧にも関与したとされる人物だ。また、アフマディネジャド氏の主な対立候補である、改革派のムサビ元首相とカルビ氏が主導したいわゆる「緑の運動」の弾圧にも関わったことでも知られている。

サゼガラ氏によると、この頃からモジタバ師は父の後継者としての信頼性確立に向けた動きを本格化させた。最高職に就く資格となる神学的要件を満たした上で、「指導者となるための準備を進めていった」という。

自身の事務所から革命防衛隊の各部隊、特に情報機関や全国の金曜礼拝指導者ネットワークと連絡を取り合うようになった。

2017年の書簡でカルビ氏は故ハメネイ師に宛てて、2009年選挙における問題とともに、革命防衛隊に経済・政治面で過度な影響力を許したことを非難。モジタバ師が選挙結果に介入したと名指しした。この書簡は、SNSや改革派系サイトに掲載され、モジタバ師と革命防衛隊、そしてバシジと呼ばれる私服の志願制の準軍事組織が連携し、抗議を鎮圧してアフマディネジャド政権を守ったと指摘した。

ムサビ氏とカルビ氏は15年間にわたり自宅軟禁下にあり、モジタバ師の就任後も軟禁が続く可能性が高い。

海外で築いた巨額資産

ブルームバーグニュースは今年1月、モジタバ師がロンドンの高級住宅や欧州のホテルを含む大規模な不動産帝国を築いていたことを調査報道で明らかにした。その基盤は2000年代後半、対イラン制裁が強化され、エリート層が資本を海外に移す手段を模索する中で築かれていた。

サゼガラ氏は、モジタバ師が長年にわたって「情報機関や宗教機関の各所に自らの側近チームを配置し、国内の腐敗したオリガルヒ(新興財閥)の一部を周囲に取り込んできた」と語る。

調査報道が明らかにしたのは、アリ・アンサリ氏という実業家とモジタバ師との深いつながりだ。

アンサリ氏が拡大させてきた銀行、建設、商業事業が、資金を海外移転させる経路として利用されていた。主にイラン産原油販売に関連する利益は、アラブ首長国連邦(UAE)の仲介者を経由し、マン島やセントクリストファー・ネイビスなどのオフショア法人に送られた。その後、これらの法人を通じて、欧州各地の高級住宅や5つ星ホテルを取得していた。

この仕組みにより、モジタバ師は名義を公的書類に残さずに、世界的な資産ポートフォリオを構築した。ドイツの金融中心地フランクフルトのホテルは、最終的な実質的所有者を巡る疑念が浮上したことで、ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスが調査を行っている。

関係者によると、モジタバ師は法的な直接所有を避けつつも、取引に深く関与していた。やがてこのネットワークは、西側の不動産やホテルなどの資産に数十億ドルを投じることができる高度な金融網へと発展した。これはイランの政権を握る聖職者層が掲げる質素なイメージとは、著しく対照的な巨額の資産形成だった。

アンサリ氏は昨年、革命防衛隊との関係を理由に英国当局の制裁対象となった。同氏の代理人弁護士はこれまで、英国の決定に対して不服申し立てを行うとし、モジタバ師との関係を否定している。モジタバ師は不動産事業に関するブルームバーグのコメント要請に応じていない。

トランプ氏は5日、米ニュースサイトのアクシオスに対し、モジタバ師を「軽量級」だと評し、政権の政策に変化をもたらす人物にはならないとの見方を示している。「ハメネイ師の息子は私にとって受け入れられない」と述べ、自身が次期指導者の選定に直接関与すべきだと主張。「われわれはイランに調和と平和をもたらす人物を望んでいる」と語っていた。

父ハメネイ師は1989年に最高指導者に就任し、イスラム革命後の47年間のうち37年間を統治した。もし今回の戦争を経てイランの体制が存続したとしても、モジタバ師が父親と同様の長期政権を維持できると考える人はほとんどいない。

原題:Iran’s New Supreme Leader Fights Trump, Israel and Anger at Home(抜粋)

(「国内での評価は」の中見出し以降に詳細を加えて更新します)

--取材協力:Ben Bartenstein.

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