物価変動を反映した実質賃金は1月に13カ月ぶりのプラスに転じた。パートタイムを除く一般労働者の基本給が過去最高の伸びとなるなど、日本銀行の金融政策正常化を支える材料となり得る。

厚生労働省が9日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、「持ち家の帰属家賃を除く」消費者物価指数で算出した実質賃金は前年同月比1.4%増。市場予想(0.9%増)を上回り、2021年5月(3.1%増)以来の伸びとなった。CPI総合で算出したベースでは1.6%増と、2カ月連続のプラスだった。

基本給に相当する所定内給与は全体で3.0%増。一般労働者(パートタイム労働者以外)は3.2%増と、比較可能な1994年1月以降で最高となった。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は3.0%増だった。

金融政策の正常化を進める日銀にとって、今回の結果は見通しに沿った内容と言える。植田和男総裁は4日の国会答弁で、「賃金と物価が緩やかに上昇するメカニズムが少しずつ復活してきている」と指摘。日銀としては、「物価安定目標の持続的・安定的な達成実現を通じて、企業の前向きな行動を支えていきたい」と語った。

野村証券の岡崎康平チーフマーケットエコノミストは、政府対策の効果などから「1-3月期は実質賃金はプラスになる」と予想。賃上げ機運にあまり変化はなく、日銀にとっては「追加の利上げを妨げるものではなかった」との見方を示した。もっとも、足元のイラン情勢は金融政策判断を難しくしているとも述べた。

本格化した2026年春闘では、労働組合側から高水準の賃上げ要求が相次ぎ、賃金上昇の持続性が示唆された。連合が5日に発表した賃上げ要求は平均5.94%。中小組合は6.64%と前年を上回っている。UAゼンセンは、全体の約6割を占めるパートタイムの賃上げ要求が過去最高水準の7.76%となっていると発表した。

今春闘について植田総裁は、幅広い企業でしっかりとした賃上げが実施される可能性が高く、実質賃金は徐々にプラスに転化していくとの見通しを示している。先行きの政策運営は、緊迫化する中東情勢を注視しながら、経済・物価見通しが実現していけば引き続き政策金利を引き上げ、緩和度合いを調整していく方針だ。

実質賃金がプラス圏に定着すれば、国内総生産(GDP)の過半を占める個人消費の回復にもつながる可能性が高い。高市早苗首相にとって、物価高に負けない賃金上昇は強い経済の実現に欠かせない要素となる。

東京駅前の通勤風景

連合は3年連続5%以上の賃上げ目標を掲げるとともに、実質賃金を1%上昇軌道に乗せることを「賃上げノルム(社会通念)」として定着させることを目指している。高市首相は、過去2年と遜色ない水準の賃上げ実現へ労使に協力を要請するとともに、物価上昇に負けない基本給増加の実現が必要と訴えている。

先行きは中東情勢の緊迫化で景気悪化のリスクが高まっている。原油市場では米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物が急伸し、一時1バレル=110ドルを超えた。原油輸入の9割を中東に依存する日本にとって、インフレ加速や成長鈍化で企業収益が悪化すれば、企業は賃上げに慎重になりかねない。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは同日付のリポートで、仮にWTI先物価格が100ドルで推移する場合、国内ガソリン価格は、政府の対策が講じられない際には1カ月程度で1リットル=235円まで上昇すると予想。実質GDPは1年間で0.30%低下し、物価は1年間で0.52%上昇すると試算している。

実質賃金は25年まで4年連続で減少し、所得の改善を実感しにくい状況が続いている。1月は、政府のガソリン暫定税率廃止に伴うエネルギー価格の低下で物価上昇率が鈍化したことも、実質賃金の上昇につながった。

算出に使用される持ち家の帰属家賃を除くCPIは1月に1.7%上昇、総合が1.5%上昇と、いずれも前月から伸びが大幅に縮小した。

他のポイント

  • エコノミストが賃金の基調を把握する上で注目するサンプル替えの影響を受けにくい共通事業所ベースでは、名目賃金は1.9%増-前月3.2%増
    • 所定内給与は、全体、一般労働者ともに2.2%増

(詳細とエコノミストコメント、チャートを追加して更新しました。)

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