「未来の私たち自身」のため

高次脳機能障害への支援拡充は、決して特定の誰かのためだけの話ではない。脳卒中や事故は誰にでも起こり得るものであり、高齢化に伴う認知機能の低下は、私たち全員が直面する未来だ。

記憶や判断力が低下しても、テクノロジーや仕組み、そして周囲の理解によって、自立した生活を営み、経済的な不安なく暮らせる社会は、今の当事者のためであると同時に、「未来の私たち自身」のためのセーフティネットでもある。

高次脳機能障害者にとって、資産の散逸を防ぐ守りの仕組みは、生活を維持する上で最も切実なライフラインであるといえる。通帳や印鑑の管理を第三者に委ねることで、詐欺被害や浪費を物理的に防ぐことができる。

実際、成年後見制度を利用するきっかけの多くは、身上監護(介護など)よりも、実はお金の管理ができなくなったときである。

しかしながら従来の成年後見制度は財産を減らさないよう「保全」を重要視する傾向があり、当事者のための「有益な運用」を妨げているとの見方も否定できない。

今後、新法の支援においては、「本人の将来の安定に資する場合に限り、後見人の管理下での堅実な資産運用を認める」といった、柔軟な運用指針への転換が強く望まれる。単に資産を「凍結」するのではなく、「活かす」支援へとシフトさせる必要がある。

高次脳機能障害者支援法は成立した。次は、私たちの意識にある「見えないバリア」を溶かす番だ。「守られる」だけでなく「備え、生き抜く」ための支援へ。社会環境の整備に向けての第一歩を、高次脳機能障害者支援法の成立から踏み出してほしい。

※なお、記事内の「図表」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 シニア研究員 後藤 博)