最近の韓国・ソウルでは、真冬の氷点下にもかかわらず、喫茶店でアイスコーヒーを手に「HBM4の歩留まり率」といった抽象的なテーマを議論する光景が珍しくない。

ここでは個人投資家は単にテクノロジーに精通しているだけではない。いわばアマチュアの半導体アナリストでもある。世界の市場が高帯域幅メモリー(HBM)の重要性をようやく理解し始めたばかりの中、韓国の熱心な独学派の投資家は既に次の一手を探っている。

喫茶店での雑談からメモリーチップの専門会議に至るまで、そうした先見的な投資家の間で今関心の的となっているのが高帯域幅フラッシュ(HBF)だ。

韓国の半導体分野の草分け的存在で「HBMの父」とも呼ばれる金正浩(キム·ジョンホ)教授は最近、大胆な新たなロードマップを打ち出した。ソウルで開催された会議「セミコン・コリア」では、研究者や工学系の学生、投資家らが同氏のセッションに詰めかけ、まるでロックコンサートのような熱気に包まれた。もっとも、会場を埋め尽くしたのは難解な半導体の図表だった。

HBMが人工知能(AI)ブームの火付け役だったとすれば、HBFはその炎を燃やし続ける燃料になると、キム教授は主張する。誇張とは無縁の学者として知られる同氏の発言だけに、その言葉の重みは大きい。HBMのスーパーサイクルは、過去6カ月に世界のメモリーメーカー上位3社の時価総額を計1兆1000億ドル(約172兆円)押し上げた。ではHBFは何をもたらすのか。そしてそれは一体何なのか。

現在のAI向けメモリー構成は自宅の作業スペースのようなものだと、キム氏は説明する。HBMは本棚に当たり、あらゆる処理を担うグラフィックス処理装置(GPU)のすぐ隣に置かれる。極めて高速にデータをやり取りできるが、容量には限りがある。手の届く範囲に置いておける「本」、すなわちデータの量は限られている。

問題は、AIモデルがあまりに巨大化し、本棚に収まりきらなくなっていることだ。その結果、処理に必要なデータはより離れた記憶装置にあふれ出す。通常はソリッドステートドライブ(SSD)が担う領域に移されるが、そこからデータを取り出すには時間がかかる。

HBFは家のすぐ隣にある図書館のような存在だ。USBメモリーなどに使われるNAND型フラッシュを垂直に積み重ねる技術で、GPUの近くに配置されるHBMが高速メモリーを立体的に積層するのと同じ仕組みだ。違いは、HBFはHBMほど高速ではないものの、容量は10-20倍に達し、コストも大幅に低い。

HBFをAIアクセラレーターやHBMと並べて配置すれば、従来のSSDなどのストレージに比べてはるかに高速に、テラバイト(TB)規模のデータへアクセスできる。現在のストレージがのろのろと進むカタツムリのように見えるだろう。

なぜそれが重要なのか。AIは単に質問に答える段階から、24時間体制で働く個人エージェントへと進化しつつあるからだ。そのためには、利用者ごとに最適化された膨大なデータを呼び出す能力が不可欠になる。HBFはそれを可能にする。

SKハイニックスの経営トップが「モンスターチップ」や収益の原動力と呼ぶHBMは、マイクロソフトやメタ・プラットフォームズのような大規模データセンターを運営する企業にとって、非常に高価なことで知られる。より安価なNAND技術を活用するHBFは、大規模AIモデルの運用コストを大幅に引き下げる可能性がある。

キム氏は、AIが完全なエージェント型システムへと進化すれば、最終的には1人当たり100TBのメモリーが必要になると予測する。HBMではその水準を全利用者向けに経済的に実現するのは難しいが、HBFなら潜在的に可能だという。

同氏は、2038年までにHBF市場がHBMを上回る可能性もあると見込む。メモリー需要が際限なく膨らむAI時代にあって、HBFは「食べ放題」のビュッフェのような存在になるかもしれない。

もっとも、将来への期待があるとはいえ、投資家はまだHBMを見限るべきではない。キム教授によれば、HBM(速度)とHBF(容量)は今後、AIサーバーの標準的なデュアルメモリー構成を形成し、相互補完的な技術として機能する可能性が高い。ロードマップによると、HBFのサンプルが市場に出回るのは2027年ごろになる見通しだ。動きの速い韓国の半導体業界では、ほぼ「明日の朝」のようなタイミングだが、実現までにはなお幾つもの工程を経る必要がある。

忘れてはならないのは、HBMもエヌビディアの最先端AIチップを支える中核技術となるまで、長年にわたり研究段階にあったという点だ。HBFの商業化は、HBMで既に築かれた技術基盤を活用できるため、より速いペースで進むとキム氏はみている。

SKハイニックスは現在、AIN(AI向けNANDフラッシュメモリー)ブランドの展開を進めている。一方、サムスン電子はV-NANDフラッシュメモリー(Vはverticalの意)で培った技術力を生かし、HBMで出遅れた教訓を踏まえ、次の転換点を逃さない構えだ。

ソウルのムードは今、「シリコン熱」とも言うべき高揚感に包まれている。韓国総合株価指数(KOSPI)は、メモリーチップメーカーにけん引され、過去最高値を更新している。韓国銀行(中央銀行)は国内総生産(GDP)の見通しを引き上げ、消費者信頼感指数は3カ月ぶりの高水準に達した。いずれも持続的な半導体需要への期待が背景にある。HBF構想が計画通り実現すれば、この宴はまだしばらく続くだろう。

原題:Korean Memory Makers Look to HBF After HBM: Tech In Depth(抜粋)

--取材協力:Mark Anderson.

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