(ブルームバーグ):インドで開かれた人工知能(AI)サミットは、興奮と混乱、野心と失望が交錯する場だった。ニューデリーには企業トップや国家元首らが集結し、1週間にわたり交通は混乱した。ホテルでは政治家の到着で約30人がロビーに足止めされる場面もあった。「VIPプロトコル」だと従業員は説明した。
市内には「AIインパクト・サミット」の巨大な看板が並び、モディ首相の存在感が際立った。首相の野心は随所に感じられた。新聞各紙は1面で大きく報道し、フランスのマクロン大統領の来訪や、アルファベットのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)の発言を伝えた。
ただ、サミット運営は混乱を極め、同国一の富豪ムケシュ・アンバニ氏でさえ、警備の遅れで登壇時間に間に合わなかった。同氏はAIインフラ向けに1100億ドル(約17兆1600億円)の投資計画を発表するために出席していた。
サミットに先立ち、基調講演者の一人として発表されていたエヌビディアのジェンスン・フアンCEOは登壇を取りやめた。自身の財団を代表して講演する予定だったビル・ゲイツ氏は、性犯罪で起訴され勾留中に死亡したジェフリー・エプスタイン氏に関する資料の公開をめぐる問題の影が差す中、直前で出演を辞退した。
それでもサミットの顔ぶれは豪華で、OpenAIのサム・アルトマン氏、アンソロピックのダリオ・アモデイ氏のほか、グーグル傘下ディープマインドのデミス・ハサビス氏らが出席した。
サミットで浮き彫りになったのは、多くの国がAI分野で後れを取ることへの不安を強めている点かもしれない。
高度な技術力を有するインドでさえ、米中両国の優位性に対する懸念を深めている。モディ首相や閣僚は、AIで先行する米中両国の間に位置する代替的な道を模索する必要性を明確に訴えた。モディ首相やマクロン大統領らは、各国や経済がシリコンバレーや中国の大手ハイテク企業に従属する世界という憂慮すべき事態を避けたいと考えている。
モディ首相は「インドのAIに対する考え方は、今回のサミットのテーマに反映されている。つまり万人の福祉、万人の幸福だ」と述べ、「人間が単なるデータポイントや原材料とならないよう、AIを民主化しなければならない。とりわけグローバルサウスにおいて包摂とエンパワーメントの手段でなければならない」と訴えた。
国連のグテレス事務総長も「AIの未来は、一握りの国や少数の億万長者の気まぐれに委ねられるべきではない」と述べ、国際的な枠組みの必要性を強調した。
より現実的なのは、インドがITサービス分野での専門性を生かし、世界の企業によるAI導入を支援するとともに、米国や中国のモデルを基盤とするアプリケーション開発を進める構想かもしれない。
それでも疑問は残る。こうした戦略はインドにAI時代の主導的地位をもたらすのだろうか。それとも同国のテック企業をシリコンバレーに従属する補完的な立場にとどめるのだろうか。これは「AI植民地主義」に近いとの見方も一部にはある。
中国のモデルは、インドが目指す方向性に理念的には近い。オープンソースで低コストであり、アプリケーションの基盤として広く利用できるためだ。
もっとも、両国間の歴史的な緊張関係が協力の制約となる。デリーで開かれた今回のサミットに著名な中国企業の姿はなかった。
フランスのスタートアップ、ミストラルのアルチュール・メンシュCEOは、業界で進む権力集中に反対する立場から、最も強い調子で訴えた一人だ。
同氏は「AIは支配のためではなく、エンパワーメントのための道具であるべきだ」とし、「各国や地域は自らのAIの運命を握らなければならない。それは特権ではなく、デジタル主権を守り、自らの未来を形づくるために不可欠なものだ」と語った。
原題:The Growing Angst of Being Left Behind in AI: Tech In Depth
(抜粋)
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