(ブルームバーグ):欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は任期満了前に退任する可能性がある。そうなれば、極右勢力が勝利する可能性もある2027年のフランス大統領選の前に、後任が指名される余地が生じる。
ラガルド氏の退任観測は以前からくすぶっていたが、臆測が強まった背景には、ECB理事会メンバーのビルロワドガロー仏中銀総裁が最近、任期途中で退くと発表したことがある。これにより次期仏中銀総裁の選定はマクロン大統領が担うことになり、マリーヌ・ルペン氏率いる極右・国民連合(RN)は関わらない。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は18日、ラガルド氏が、マクロン氏とドイツのメルツ首相が次期総裁の選任に動けるようにしたい意向だと報道したが、退任時期には言及しなかった。ECBは、ラガルド氏は「自身の職務に完全に集中している」とし、任務を終える時期に関していかなる決定も下していないと説明した。
ラガルド氏の任期は8年で、更新はなく来年10月まで。次期総裁の決定は過去の例では通常、夏に行われてきたが、今回手続きはより早期に始まる可能性が高まりつつある。
ECB総裁はどのように任命されるのか
欧州理事会が欧州連合(EU)加盟国から候補者の提案を受けて手続きを開始し、ユーログループの合同会合で財務相らが協議する。ユーログループが候補者で合意すれば欧州理事会に勧告され、候補者は欧州議会の経済通貨委員会に招かれる。
欧州議会とECB理事会も候補者について意見を示す。最終的に欧州理事会が新総裁を任命する。
実際には、この正式手続きの前段階で本格的な調整が行われる。ECB総裁人事は各国政府が有力候補を巡り激しい駆け引きを展開する対象であり、主要加盟国は自国の地位を確保するとともに、他国が過度な影響力を持つのを防ごうとする。ユーロ圏で2番目の経済規模を持つフランスのマクロン大統領は交渉で重要な役割を果たすことになる。
例えば、19年のラガルド氏のECB総裁指名を巡る合意は、欧州委員会委員長ポストを含むEU主要ポストを巡る大規模な人事パッケージの一部で、総裁任期開始の4カ月前にまとまった。
政治判断が下された後、ラガルド氏は7月初旬に理事会から正式に推薦され、9月に欧州議会で審査を受けた。拘束力はないものの好意的な意見を得て、10月に正式任命された。前任のマリオ・ドラギ氏の場合も日程はほぼ同様だった。
総裁人事を巡る駆け引きに影響し得る他のポストは?
総裁職に加え、27年5月に任期を終えるレーンECBチーフエコノミストのポストを含め他に二つのポストが空席となる見通しだ。欧州議会での審議の必要性や、仏大統領選の年にずれ込むのを避けたい思惑から、26年12月までに決定する方向に動く可能性がある。27年末に退任するシュナーベル理事の後任についても同時に合意形成される可能性がある。
ECB以外でも、今年末に欧州議会議長、27年5月に欧州理事会議長の任期が満了する。いずれの現職も再選を目指す公算が大きいが、ECB総裁人事がこれらのポストに影響する可能性もある。
懸念事項は何か?
仏大統領選の世論調査では、RNを実質的に率いるルペン氏かRNのバルデラ党首のいずれかが好調とされる。EU創設メンバー国でこれほどユーロ懐疑的な勢力が政権に近づいたことはなく、ブリュッセルでは懸念が広がっている。
ルペン氏はかつてフランスのユーロ離脱を公約に掲げたが、その後立場を修正した。バルデラ氏は11月、膨張したフランスの債務負担に対処する手段として、ECBに量的緩和の再開を求める方針を示した。
ラガルド総裁の後継候補は誰か?
ブルームバーグのエコノミスト調査によると、オランダ中銀前総裁のクノット氏が最有力とみられる。国際決済銀行(BIS)に在籍する前スペイン中銀総裁のデコス氏も有力候補の1人とされる。
ドイツ連銀のナーゲル総裁やシュナーベル氏の名前も挙がっている。ナーゲル氏は最近、中銀が財政目標を優先することの危険性を警告し、トランプ米大統領による米連邦準備制度理事会(FRB)への攻撃が他国の政治家の手本になるべきではないと述べた。
18日にメルツ独首相の報道官は、ドイツが理論上、ECB総裁にドイツ人候補を提案できると述べた。(ドイツ人が同職に就いたことはない。)
指名手続きに選挙が影響した事例は他にあるか?
ビルロワドガロー仏中銀総裁は早期退任の意向について、個人的理由だと説明していたが、波紋を広げた。最近では、オーストリアが極右の選挙勝利に備えて人事を前倒しした。
オーストリア総選挙の6カ月前だった24年3月に、当時の中道右派政権は、任期がまだ先のポストも含め中銀理事会の全ての空席について応募を開始した。コッハー経済相が同年8月にオーストリア国立銀行(中銀)総裁指名を受け、1年1カ月後に就任した。
難点は何か?
フランスの右派に選択肢を与えない形になれば代償を伴う恐れがあり、既存勢力が民主的プロセスを弱めようとしているとの右派の主張に拍車をかけかねない。トランプ氏も米国で同様の論法を用いており、欧州の右派もこの機を利用する可能性がある。
今週ブリュッセルで開かれた財務相会合で、オーストリアのマルテルバウアー財務相はラガルド氏の後任指名について標準的なスケジュールの維持を支持すると述べた。ドイツのクリングバイル財務相も同様に、ECBには定められた日程があり「それに従う」と述べた。
フランスのレスキュール経済・財務相はこの点について問われた際、コメントを控えた。
原題:How Europe Will Choose Lagarde’s Successor as ECB President(抜粋)
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