保険業界において、わずか10年余り前にはほぼ存在しなかったリスクが、今や大きな損失要因へと変貌している。

ストライキ(strike)、暴動(riot)、騒乱(civil commotion)の頭文字を取ったSRCCに関連した保険金請求が、業界にとって深刻な課題になりつつある。西側の民主主義国家で起きている社会不安が物的損害につながるケースが増加している。

英国の再保険仲介グループ、ハウデン・リーはSRCCに関連した保険損失について、2020年から24年の間に80億ドル(約1兆2200億円)余りに急増したと推計。13年当時はほぼゼロに近かったという。

SRCCによる損失は年ごとの変動が非常に大きくなりがちで、一つの案件で市場環境が一変することも少なくない。2025年は世界的に見て保険金請求が比較的少なかったが、ハウデン・リーはブルームバーグに対し、今年は米国でSRCC関連損失が間違いなく増えるとの見通しを示した。

同社で業界分析・戦略的助言の責任者を務めるデービッド・フランドロ氏は「リスクは高まっている」と指摘。米国で報じられている一連の騒動が、「より広範な傾向を明確に示している」と述べた。

 

抗議活動は世界的に増加しており、これは裕福な一部の国々で不平等や二極化が拡大していることと軌を一にしている。

保険リスク分析を手掛けるベリスク・メープルクロフトによれば、西側民主主義国では米国のSRCCリスクが最も高い。世界全体でも5位で、パキスタンやバングラデシュ、インドを上回る。フランスは7位だった。

ハーバード大学ロースクールで企業統治プログラムの上級フェローを務めるスティーブン・デービス氏は「米国を安全な逃避先と見なす考えは過去のものになっている」と指摘した。

こうした見方は市場でも広がっており、欧州の機関投資家の間では米国へのエクスポージャー引き下げを模索する動きもある。

ハウデン・リーは2023年時点で既に、保険会社がSRCC補償に対して「相当の追加保険料」を課し始めており、特に小売り資産などが大きな影響を受けていると指摘していた。

もっとも保険会社にとって、信頼性の高い損失リスクの算定は難しい。ベリスクで政治的暴力リスクを担当するトールビョルン・ソルベット氏によると、抗議行動が常に物的損害に結び付くわけではない。

例えば、米ミネソタ州では移民・税関執行局(ICE)の捜査官が米市民2人を殺害する事件があったが、抗議活動が「商業用不動産や民間資産に直接的な影響を及ぼしている事例はこれまでのところ限定的だ」と、同氏は話す。

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しかしベリスクは、ストや暴動の全体的な増加ペースを踏まえると、一つの案件で50億ドル超の損失が発生する可能性をもはや無視できないと指摘する。一部の地域では、自然災害に伴う損失を上回るリスクさえあるという。

アリアンツ・コマーシャルで政治的暴力分析の責任者を務めるスルジャン・トドロビッチ氏は、SRCC関連の保険について「かつては非常にニッチで小規模な事業に過ぎなかった」と指摘。

その上で、ここ数年に起きた多数の大規模案件は「業界に大きな打撃を与え、市場を目覚めさせた」と語った。

原題:Rich World’s Growing Civil Unrest Comes With an Insurance Sting(抜粋)

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