(ブルームバーグ):「これほど長く最高経営責任者(CEO)でいられる秘訣は、第一にクビにならないこと、第二に、退屈しないことだ」。
米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは1月初め、米ラスベガスでの社内イベントで語った。62歳の同氏は、シリコンバレーでは最も長く、30年以上もCEOを務めている。
エヌビディアを半導体チップ業界の巨人かつ世界最高の時価総額に育て上げたフアン氏が、近いうちに解雇される可能性は低い。職務への興味を失う様子もない。精力的に世界中を飛び回り、人工知能(AI)コンピューティングの普及に奔走し、聴衆を魅了しながらダジャレを飛ばしている。
だが、そんなフアン氏も、いずれは後継者に道を譲る必要がある。そして、AIブームの核心にある4.5兆ドル(約690兆円)規模の巨大企業でありながら、エヌビディアはこうした移行への備えをほとんど見せない。
マイクロソフトのビル・ゲイツ氏にはスティーブ・バルマー氏、アップルのスティーブ・ジョブズ氏にはティム・クック氏がいた。だが、フアン氏には明らかな後継者がいないうえ、エヌビディアは長期的なリーダーシップ計画を公表していない。
エヌビディアの広報は、コメントの求めに応じなかった。
NZSキャピタルの運用責任者ジョン・バスゲート氏は「エヌビディアの投資家なら、キーマンリスクを懸念しないわけにはいかない」と語る。同氏は、迅速な意思決定とフラットな組織図に依存するフアン氏の経営スタイルこそが、エヌビディアの独自性を支えていると指摘した。
バズゲート氏によると、エヌビディアにはイアン・バック氏やブライアン・カタンザロ氏ら、評判の高い技術リーダーも存在する。だが、彼らが広範な戦略的決定を下す準備ができている様子は見られないという。
畏敬の念
エヌビディアには4人の上級副社長がいる。1人は法務担当、他の2人は70代だ。もう1人のコレット・クレス最高財務責任者(CFO)は、フアン氏より若く50代後半だが、ハイテク大手企業が財務部門からリーダーを選ぶのは稀だ。
ハーディング・ローブナーのポートフォリオマネージャー、ムーン・スラナ氏は「後継計画が外部から見えることは稀だ。とはいえ、上級幹部層と管理職層の可視性を高めることは、投資家が経営陣の厚みや後継準備状況を評価する上で有益だろう」と語った。

フアン氏の経営スタイルを特徴づけるのは、その短気さだ。同氏は機会を逃さず、障害を即座に取り除く。スピード不足が会社を破滅させると恐れているのだ。
成果の出ないプロジェクトは、一夜にして消える。個人もチームも、役職や在籍期間に関係なく、予告なしに異動させられ、フアン氏がエヌビディアの最優先課題と考える業務に振り分けられる。
退職者も含め、エヌビディアの社員らは、フアン氏を畏敬の念を持って語る。毎日5つの主要優先事項を列挙したメールを提出させられ、昼夜を問わず同氏から直接フィードバックを受けるという。そのフィードバックは、たいてい簡潔な一言で返ってくる。
転機
フアン氏のCEOの任期の大半において、エヌビディアは今ほど注目される企業ではなかった。1993年の創業当初は、ゲーマー向けグラフィックカード用チップのニッチなメーカーだった。だが、研究者らが、この技術がAIモデルの開発・実行に有用だと発見したことで、状況は一変した。
この5年間で、エヌビディアはAIデータセンターの驚異的な拡張の動きの中核となった。前例のない売り上げ高の成長と財務基盤がもたらされ、同社とフアン氏は厳しく監視される存在となった。
エヌビディアは時価総額4兆ドルに到達した初の企業で、一時的に5兆ドルを突破したこともある。過去2年の会計年度では、収益がそれぞれ2倍以上に増加し、ウォール街は2020年代末までに同社の年間売上高が5000億ドルを超えると予測している。
驚異的な収益性も特徴だ。1月末までの今会計年度の純利益は1130億ドルに達する見込みで、AIブーム以前の年間売上高をはるかに上回る。
「せいぜい5人」

フアン氏のアプローチは、困難の中で形作られた。創業期、インテルとの競争で常に存続の危機に直面する中、エヌビディアは危機に即応する機敏な組織として進化した。この環境は、グラフィックチップから世界最強のコンピュータ用プロセッサへと軸足を移すという、継続的な進化の文化を築き上げ、多くの人々の想像以上の成果をもたらした。
軽妙なユーモアとコンピュータサイエンス、物理学、数学の探求を融合させたフアン氏のスピーチは、全てに目的がある。常に次の問題や機会を予測し、解決策へと導こうとしている。
こうしたエネルギー、洞察力、そして今なお5番目の大株主という強い所有意識を備えた後継者を見つけるのは難しそうだ。
スタンフォード大学のデイビッド・ラーカー教授(企業統治、会計学)「世界中で後継者として適任なのは、せいぜい5人程度だろう」と語る。後継者問題は取締役会にとって特にデリケートな議題で、現CEOのフアン氏が同席している場合は尚更だとラーカー氏は指摘する。
同氏は「誰にでも賞味期限はある。業績が絶好調の時に、こうした挑発的な、難しい質問を、取締役会が投げかけるのは難しいものだ」と述べた。
原題:Nvidia Lacks Clear Successor for Superstar CEO Who Built Company(抜粋)
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