第51回衆院選が27日公示され、選挙戦が本格スタートした。高市早苗首相の最重要課題は市場を混乱させることなく2月8日の投開票日を乗り切ることだ。

発足から3カ月余りの高市政権と日本銀行は、市場への圧力が高まる中でその対応策を見いだすことに苦慮していると、事情に詳しい政府関係者が匿名を条件に語った。

同関係者によれば、問題は、国債の金利上昇を抑え込むために何らかの措置を取れば円安がさらに進み、輸入インフレをあおり、利上げ圧力が強まる点にある。しかし、円相場を支える為替介入に踏み切れば、衆院選を前に高市政権にとって数少ない好材料となっている株高に水を差すリスクがある。

政府が何をしようと、全てを満足させるような解決策はないという。現時点で当局は、口先介入と米国から一定の支援を得ながら、市場の変動を乗り切ろうとしている。

財務省にコメントを求めたが、現時点で回答は得られていない。

週末の世論調査では、高市首相の支持率は若干低下したものの、依然として高い水準を維持していることが示された。

先週末、実際の介入の兆候はまだ見られなかったものの、日米が為替市場で協調行動を取る可能性があるとの観測が円の反発を後押しした。片山さつき財務相とベッセント米財務長官は、債券市場に冷静な対応を呼び掛けた。

日米の財務当局が参考となる為替レートの提示を求めるレートチェックを実施したとの観測などを受け、26日に円は対ドルで一時153円31銭と、23日の159円23銭から円高が進んだ。27日午前の東京市場では154円台前半で取引されている。

ロンバー・オディエの上級マクロストラテジスト、ホミン・リー氏によれば、選挙後に新内閣が発足し、来年度予算が成立すれば、円と金利のバランスは取りやすくなる。当面の鍵は、今後2、3週間の安定を維持することだという。

同氏は、「日本政府は恐らく、政策手段を活用して国債金利と円の双方の安定を図りたいと考えている」と指摘。ただ、「両方を追い求めるのは容易ではない」と語った。

需要主導のインフレを喚起する幅広い政策の一環として、高市首相が財政支出で積極的なスタンスを示していることから、投資家は日本の長期的な財政に対して一段と敏感になっている。食料品の消費税を2年間ゼロにするという首相の計画は先週、市場を動揺させ、長期金利の急騰を招いた。

この動きはベッセント米財務長官からの発信にもつながった。同長官は、日銀がより迅速に動く必要があると繰り返し示唆している。日米財務相の協議は、米国が日本に債券市場を落ち着かせる追加措置を望んでいるとの臆測を呼んだ。

米国側からのレートチェックの報道は特に影響が大きかった。日米が協調して対応を進めているとの印象を与えたからだ。日本は2024年に総額約15兆円、22年に9兆円規模の円買い介入を行ったが、それらは単独での行動だった。日米の協調行動なら批判はより受けずらいため、実際に計画がなくても協調の可能性を印象付けるだけで投機家には警戒感を与える効果がある。

片山財務相は26日、為替動向に関して、政府は昨年9月の日米財務相共同声明に沿って「対応している」と記者団に説明。こうした見方を補強しようとした。

片山さつき財務相

26日夕に日銀が発表したデータでは、23日に円が急反発した局面で通貨当局が大規模な介入を実施した形跡は見られなかった。

ブルームバーグ・エコノミクスの見方

「仮に日米による協調介入が実施され、それが失敗したとしても、市場はすぐに、通貨安に伴うインフレ圧力を抑制するために従来の想定以上かつより迅速に利上げを進める以外、日銀には選択肢がほとんどないとの結論に至るだろう」

木村太郎シニアエコノミスト

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日本と米国を含む他国による協調介入が行われたのは、東日本大震災後に円高が進んだ11年3月が最後だ。それ以前では、ユーロ防衛で主要7カ国(G7)が2000年9月に実施している。日米が協調して円買い介入を行ったのは1998年夏までさかのぼる。

協調介入への思惑に加え、トランプ米大統領が競争相手となる国の通貨安を強く非難していることも、新たなプラザ合意のような取り決めが浮上するとの臆測を呼んでいる。1985年にG7諸国が結んだプラザ合意は、ドル安を誘導し、円を含む主要通貨を押し上げることを目的としていた。

当時の日本は、世界経済に占めるシェアが18%に達し、世界第2位の経済大国として米国に迫りつつあった。4%程度にとどまる現在とは対照的だ。プラザ合意を受けて円は231円から約1年半で154円まで急騰。日本の購買力が高まった結果、ロックフェラー・センターやコロンビア・ピクチャーズなど米国の不動産や企業の大型買収が相次いだ。

一方で、急激な円高は国内の資産価格バブルを助長し、その後の崩壊によって長期にわたる低成長と物価低迷を招いた。

新たな日米協調が行われるとしても、その枠組みはプラザ合意のような多国間の包括的なものには到底及ばない。それでも、高市首相が拡張的な財政政策によってかつての高成長時代の復活を有権者に約束する中、日米協調行動の可能性が取り沙汰されること自体、投資家の警戒感がいかに高まっているかを浮き彫りにしている。

消費減税

高市氏が掲げる食料品の消費減税公約は、インフレへの対応に苦しむ有権者にとって最大の関心事である物価高騰の緩和を狙った重要な一手だ。消費税引き下げを拒んだことなどが影響し、与党は選挙で2度敗北を喫した。高市首相は今回打ち出した減税公約を堅持する重要性を理解しているはずだ。

大和証券の末広徹チーフエコノミストは、「円安が修正されると、日銀の利上げ観測が若干後退して債券市場にもポジティブ」と指摘。円安も防ぎつつ長期金利の上昇も先週末の動きで抑制できたため、政府の戦略は「いったん成功という形だ」と語った。

もっとも、市場の落ち着きは今後数日で再び崩れる可能性は十分にある。すでに日経平均株価は26日に昨年12月初旬以来の大幅下落を記録した。

末広氏は、金利の上昇が財政リスクと指摘されても、株価は上昇しているため、「ある種いい金利上昇だと言えなくもない」との見方も示した。高市首相は「株高だと言われる水準は一定程度維持したいのだと思う」と語った。

原題:Japan’s Leader Faces Balancing Act on Yen Ahead of Election(抜粋)

--取材協力:ジョン・チェン、村上さくら.

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