「フィルターバブル」とは
欲しい情報を動画配信やSNSなどで日々念入りにチェックしている人々ほど陥りやすい罠、「フィルターバブル」についてご存じだろうか。
結婚関係のネットニュースの記事や動画のコメント欄などで、「最近は年の差婚が増えて珍しくなくなった」といった書き込みを見たことがある方はそれなりに多いだろう。
しかし、本当にそう信じてこれらのコメントが書き込まれているならば、統計的には事実誤認であり、「フィルターバブルの罠にはまってしまった典型例」である。
ネットの情報媒体には少なからず、推薦エンジン(レコメンドエンジン)が仕組まれている。
ショッピングサイトでよく見かける「これを買った人はこれも買っています」「この商品を購入したあなたにおすすめ」といった表示に利用されている「より多くの閲覧を誘導する」ための仕組みである。
レコメンドエンジンを簡単に説明すると、過去のネット上の行動履歴から、個々の読者の関心が高いだろうと思われる記事等を選び出し、優先的にその人が閲覧する画面の上位、目立つ場所に表示する仕組みである。
これによって、より多くの記事や配信を読んでもらおうとするサービス(戦略)である。
例えば、同じ日、同じ時刻にYouTubeを見ていたとしても、Aさんは恋愛ユーチューバー配信が沢山上がってくる、Bさんは動物動画が沢山上がってくる、Cさんは政治動画が多く上がってくる、といった状況となる。
これは、個々のユーザーの過去の閲覧履歴から推薦エンジンが類似の投稿をおすすめしてくることによるものであり、これをフィルターバブル現象という。推薦エンジンというフィルターが、特定情報のバブル状態を画面に作り出してくる。
しかし、このフィルターバブルの仕組みをわかっていないと、目の前に展開される情報の山が「世の中の普通、またはトレンド」と勘違いをしてしまうというリスクをはらんだ仕組みでもある。
実際、ニュースサイトなどのコメント欄などを見ていると、この「フィルターバブルの罠」に思考が支配されているユーザーが少なからず存在している様子がうかがえる。
「年の差婚が増えた」というフィルターバブル
芸能人の年の差婚や年齢差のある男女間の刑事事件などのニュースをみて、「最近は年の差婚が珍しくなくなった」系の発言を、自信をもって行う人が一定数生じている。
しかし、統計的実態と照合すると年の差婚が増えているという認識は誤解であるため、その人が日頃集めている情報が、年の差婚フィルターバブル状態にある可能性が高い。
世の中では1割も占めていないマイナーな結婚情報や、実態は減少傾向にある結婚のニュースをかき集めてそれしか見ないことで、マイナーカップルがメジャーになりつつある、普通である、増えてきている、などフィルターバブルによる歪んだ認知をしないために、国の全数統計の結果をご紹介しよう。
夫婦の平均年齢差は縮小を継続、しかも直近で1.4歳
まずは国の全数統計による夫婦の年齢差の平均値の結果を紹介したい。
ちなみに、国による夫婦の平均年齢差の算出方法は、夫の平均年齢-妻の平均年齢である。プラスに大きくなればなるほど、男性の方が女性よりかなり年上の結婚が多い傾向が強まり、マイナスになればなるほど女性が男性よりかなり年上の結婚が多くなる。
一方、平均値が0に近づくほど、
(1)年の近い結婚の割合が高くなる
(2)男性が年上の結婚年齢差がもたらす平均値への影響と、女性が年上の結婚年齢差の平均値への影響が均等となる
といった状況となる。
さて、実際の平均年齢の推移であるが、1970年(56年前)では全夫婦で平均3.0歳、初婚同士夫婦で2.7歳、男性が年上だった。
もし男性の立場から見て「年下女性との年の差婚が増えている」のであれば、夫婦の平均年齢差もプラス方向に拡大するはずだが、実際は反対で縮小してきている。
1990年では全夫婦で2.8歳、初婚同士で2.5歳、2000年では全夫婦で2.2歳、初婚同士で1.8歳、2010年では全夫婦2.2歳、初婚同士で1.7歳、そして、最新統計である2024年統計では、全夫婦で1.9歳、初婚同士で1.4歳という僅かな年齢差となっている。
再婚者を含めた全夫婦平均でみても、初の2歳切りという、「年の差婚がどんどん減っている」状況を示すデータである。
したがって、実態に即した正しい表現は、最近は年の差婚が増えているではなく、「昔よりも年齢の近い夫婦が増えているようだ」となる。
しかも、そもそも「昔は夫婦の間に大きな年齢差があったのに」「以前は男性が3歳くらい年上が当たり前だったのに」という理解も実は間違っており、平均3歳の夫婦年齢差があったのは、第二次世界大戦終戦直後(1949年まで)の話なのである。
男女1歳差までの結婚が5割
次に、初婚同士の男女の結婚で最も多い年齢差トップ3(2024年)は以下の通りとなっている。
1位 同年齢 22.8%
2位 夫1歳上 14.4%
3位 妻1歳上 11.0%
中高年者になればなるほど、講演会等でこの話をした際に1位が同年齢で5組に1組以上となっていることにさえも大きな驚きを示す。
また、2位の夫1歳上の14%はまだしも、3位が妻1歳上、11.0%で夫が1歳年上の結婚とさほど件数が変わらないことにも衝撃を受けるようだ。
恋愛・結婚に関しては、どうしても自分に都合よく解釈する確証バイアスが発動しやすく、特に男性は年齢が30歳を超えて上がるほどに、より年下女性との年の差婚を期待する傾向が強くなる。
しかし現実は、男女どちらかが上で1歳差以内までのカップルが全体の48%も占めており、24年に結婚したカップルの約1/2が1歳差以内のカップルである。
同様に、2歳差までのカップルで63%、3歳差までで73%となり、もはや「上位婚」ではなく、「平行婚」が令和の結婚の普通の姿となっていることを認識しておきたい。
実数でみても、0歳をトップに、年齢が近いカップルほど件数が多い状態のため、男女どちらが上であろうと2人の間の年齢差が開くほどマッチングが難しくなるという実態にある。
しかも3歳差までのカップルで73%超が占められているため、令和の結婚の全体の7割に入らないほど大きな(4歳差以上の)年齢差の結婚を目指すということは、難関大学を目指す受験生とかわらず厳しいライフデザインである。
難関大学を合格できるくらいの努力と、他の結婚希望者との(主観ではなく客観的な)相当な差別化が必要となる。
激減する男性年上婚
男性年上婚は51%で「当たり前」ではない
国の1970年からの長期推移データをみてみると、約半世紀で男性年上婚が79.5%から51.7%へと、実に30ポイント近くも大幅減少していることがわかる。
昨年2024年の年上夫割合は51.7%であり、もはや「結婚は男性年上が当たり前」な世界では全くなくなっている。
男性と女性の2つの性しかない中で、全体の1/2を占めるにすぎない事象とも言え、男性年上婚が当たり前といえる割合にはない。
長期推移データを分析していると、1990年代後半以降、「女性年上婚」の総数が「同年齢婚」の総数を超えている点も非常に興味深い。
2025年は、婚活における年の差婚を狙う男性が及ぼす影響が大きく取りあげられるに至り、世間に広く知られるところとなった。
統計的にみると3歳差までの結婚が当たり前で、結婚の半数が1歳差までの結婚となっている令和時代において、自分よりも大きく年の離れた年下の女性に男性からの恋活・婚活のアプローチが多く集中する事象がもたらす影響が看過できないレベルになっている。
「ストーカー的な執拗な申し込みで、精神的に参っている」という若年女性会員の訴えで、自治体センターにおいて検索ブロック機能を搭載した事例も発生している。
若い女性がこういった行動の対象になることで心理的に疲弊し、結婚市場(アプリ、相談所、自治体センター、結婚支援イベント等)から退場してしまうという、女性の「婚活疲れ」を誘発する大きな要因の1つともなって問題視されている。
「年の差婚狙い男性」の背景にライフデザイン情報提供の欠如
このような事象に眉を顰め、批判することは簡単であるが、未婚化が止まらない日本においては状況改善をはかるために建設的な対応が重要となっている。
そもそも年の差婚狙い男性多発の上流には、実態としてどのような婚姻発生状況にあるのかという、「正確かつ重要なライフデザイン情報」の国民的な欠如がある。
このような「正確かつ重要なライフデザイン情報」の提供不足に対し、国もメディアも対応を早急に強めることが社会におけるアンコンシャスなハラスメント言動の軽減と、婚活疲れが引き起こす結婚忌避を阻止するだろう。
個人・団体を問わず、結婚に関してデータサイエンス思考をもった発信ができているかどうかに常に留意する、そんな社会機運を高めることが大切なのである。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
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