(ブルームバーグ):カナダのカーニー首相は先週の中国訪問中に驚くべきメッセージを静かに発した。中国は今や米国よりも「予測可能」な貿易相手であり、「新たな世界秩序」が定着する中で、中国との関係強化が必要だというものだ。
カナダ銀行と英イングランド銀行という2つの中央銀行で総裁を務めたカーニー氏が、大げさな表現をすることはほとんどない。
同氏が北京での習近平国家主席との会談を通じて合意した内容は、アジア一の経済大国からの電気自動車(EV)や自動車投資への道を開く内容だ。トランプ米大統領が2024年の選挙でホワイトハウス返り咲きを決める前であれば、考えられない一歩だった。
カナダは長年、中国政策で米国と足並みをそろえてきた。カナダの元外交官ら2人が中国本土で拘束された外交危機のさなかでも、その姿勢は変わらなかった。だが、米国とのそうした連携が今、崩れ始めている。
カナダは2年足らず前、北米の自動車産業を守るため、中国製の電気自動車(EV)に対する米国の100%関税に同調し、中国の報復関税を招いた。
しかし、トランプ氏は政権2期目に入ると、カナダ製品に関税を課し、自動車や鉄鋼、アルミニウムの輸入に対しグローバルな関税を導入した。米国との国境をまたぐサプライチェーンを抱えるカナダはとりわけ大きな打撃を受けた。
「最小限の譲歩」
主要7カ国(G7)の中で、カナダほど貿易関係が一極集中している国はない。輸出の約7割が米国向けで、輸入の大半も米国からだ。
ゴールドマン・サックス・グループでバンカーとして働いていた経歴もあるカーニー氏は、米国以外への輸出を10年で倍増させる必要があると言うが、専門家によれば、中国との合意なしにそうしたことを実現するのはほぼ不可能だ。
習氏との合意は、低関税でカナダに輸入できる中国製EVの年間枠を4万9000台に設定。より物議を醸しているのは、中国自動車メーカーによる合弁投資にカナダの自動車市場はオープンだとカーニー氏が受け入れた点だ。
中国の自動車メーカーは、かつて米国やドイツ勢が支配していた産業を大きく変えている。中国の比亜迪(BYD)はEVの世界販売で米テスラを抜いた。
グリア米通商代表部(USTR)代表は、カナダにとって「問題」をはらむ合意だと述べ、米下院の中国特別委員会メンバーからも不満の声が上がった一方で、トランプ氏の反応はより穏やかだった。
「それでいい。貿易協定に署名するのは良いことだ。中国と合意できるなら、そうすべきだ」と、4月に訪中予定のトランプ氏は語った。
カーニー氏と習氏の共同声明は、一気に世界秩序を再編するものではない。両首脳が署名したのは、法的拘束力のない一連の覚書や意向表明書で、書面上は、幾つかの事項を数年前の状態に戻すにとどまる。
カナダのアジア太平洋財団で最高経営責任者(CEO)を務め、かつて中国に上級外交官として赴任していたジェフ・ナンキヴェル氏によると、カーニー氏は、バンカー流のヘッジ、すなわち「一歩引く」対応を行った。
「カナダ側交渉団の課題は、中国側が関税の大幅な引き下げに同意するのに十分な、EV関税での最小限の譲歩は何かを見極めることだったと考えるのが妥当だ」とナンキヴェル氏は分析。「特に経済が苦境にある時、国のリーダーにとって最初の仕事は国の選択肢をオープンにしておくことだ」と付け加えた。
経済的利益
中国は18年12月、対イラン制裁違反を主張する米国の要請を受け中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)がバンクーバーで逮捕されたことを受け、中国本土でカナダ人2人を拘束。以後、中国とカナダの関係は一気に悪化した。
中国との外交関係が最悪だった約3年間にわたり拘束されたカナダ人2人のうちの1人、マイケル・コブリグ氏は16年9月までの2年間、北京と香港でカナダの外交官として働いていた。現在は地政学と安全保障のアナリスト兼アドバイザーとして活動している。
同氏の見立ては「カナダ政府は悪い選択肢しかない状況に追い込まれていた」というものだ。「中国は避けて通れる国ではない」としながらも、カナダと中国による16日の声明発表は「胃の底に嫌な感覚を覚えた」と打ち明けた。
カナダの広大な大平原地帯の農家は、カナダ産の菜種やエンドウ豆に対する中国の関税で苦しんでいる。
コブリグ氏の見方では、中国が発しているメッセージは「巨額の補助金で過剰生産しているEVやその他の産品向けに市場を開放しろ。さもなければ痛い目に遭わせる」というものだという。

一方で、カーニー氏の訪中は、カナダ国民が同氏を首相として選んだ理由、つまり経済重視の冷静な姿勢を反映している。
米国の保護主義と、トランプ氏が公然とカナダを米国「51番目の州」として欲しがったことが、貿易の分散化を掲げるカーニー氏が昨年、政権を担う要因となった。
カーニー氏によるカナダ政府としての対中アプローチ転換を歓迎すべき再調整と受け止める向きもある。ノバスコシア銀行の資本市場エコノミクス責任者デレク・ホルト氏は投資家向けリポートで、「カーニー首相とそのチームはよくやった」とコメント。
トルドー前政権は「二国間の通商を美徳の誇示や、しばしば偽善的な指弾に従属させていた」と論じ、「今や経済的利益が主導権を握っている」と指摘した。
原題:Carney’s China Embrace Widens Gap With US in Trump’s Tariff Era(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.