(ブルームバーグ):日本政府はこの2カ月間、中国の激しい反発に直面しながらも称賛に値する自制を示してきた。
中国が日本を訪れる中国人観光客を40%減らすシグナルを出した際、高市早苗首相は反論することもできたはずだ。2024年に合意された中国人旅行者向けのビザ(査証)要件緩和は日本国内で不評で、それを撤回する選択肢もあった。
しかし、高市氏はそうしなかった。中国人民解放軍機が自衛隊機にレーダーを照射した際も、報復はせず、23年に設置されたホットラインを通じて協議を試みた。だが中国側は応答すらしなかった。
レアアース(希土類)を含む可能性があるデュアルユース(軍民両用)品への輸出規制実施を受け、日本も同様の対応を取るべきだと言いたくなるのも無理はない。
中国が日本に求めているのは、高市氏が昨年11月に行った台湾有事を巡る国会答弁の撤回だ。
貿易相手として日本はそれほど大きな存在ではないかもしれないが、選択肢を持たないわけではない。半導体の投入財や装置に対し、同等の制限を課すこともできる。
だが、感情的になる必要はない。高市氏は、15年以上にわたって日本が歩んできた道を引き続き進むべきだ。冷静さを保ちつつ、中国への依存を減らし続けることだ。
同僚のコラムニスト、デービッド・フィックリング氏はレアアース輸出規制を通じた締め付けに耐えられる国が日本以外はいかに少ないかをすでに指摘している。
10年に海上保安庁の巡視船に衝突した中国漁船の船長が拘束された後、中国は同じようなレアアース輸出規制を導入した。大きな衝撃を受けた日本は当時9割ほどだったレアアース輸入の中国依存度を、現在では約6割にまで引き下げる取り組みを進めた。
それでもなお高水準だが、中国がもっと協調的だった時期に積み上げた相当量の備蓄がある他、今はマレーシアで加工されたオーストラリア産の鉱物も輸入している。
意識的な行動
日本が長年にわたりリスク低減を図ってきたのは、これだけではない。中国各地で05年以降に反日暴動が起きたことを契機に、製造拠点としての対中依存を減らそうとしてきた。
中国だけに頼らない「チャイナプラスワン」戦略を打ち出し、日本企業に東南アジアへの拠点分散と工場建設を促したが、浸透には時間を要した。
新型コロナ大流行時の半導体不足はとりわけ自動車産業に打撃を与え、半導体製造能力を国内再建する野心的な取り組みとして、ラピダスを生み出すきっかけとなった。
台湾積体電路製造(TSMC)や韓国のサムスン電子などに対し、日本国内への生産誘致のため数十億ドル規模の支援も行われている。さらに、コロナ禍後には、中国から生産を移転する企業に対して政府が数十億ドルを拠出したが、その最終的な成果には疑問も呈されている。
日本はまた、対中依存をこれ以上深めないよう意識的に行動している。環境保護派の反発を招くリスクを承知の上で、高市政権が太陽光発電容量の追加拡大に慎重な理由の一つも、中国が握る支配力だ。
「美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くす」ことを避けるためと昨年述べた高市氏は、国内資源を使える技術であるペロブスカイト太陽電池の開発を呼びかけており、その商業化を目指している。
日本が電気自動車(EV)への全面移行に慎重なのも、同様の懸念が背景だ。中国はバッテリー技術で優位な立場にあり、新たに圧力を加えることもあり得る。
今回の対立は、日本には考えを改めるべきことがまだ多く残っていることをはっきりさせた。まずは、貿易や経済の相互依存を武器化する中国の傾向がいずれ終わると期待するのをやめるべきだ。
20年以上にわたる経験を経た今、これらが中国の戦力投射の特徴であり、一過性ではないことは明白だ。そうではないと期待するのは、中国が豊かになれば必然的に西側の民主主義へ移行するという前世紀の見方と同じくらい甘い考えだろう。
製造業にとっては、中国との絡みから企業を引き離す取り組みをさらに強化する必要がある。協力しない企業に対しては、補助金というアメに加え、日本政府がムチを振るわなければならない場面も出てくるかもしれない。
観光分野は、全体の訪日客数が24年を上回っており、今のところ堅調だが、ここでも中国に過大な期待をしないことが必要だ。中国人観光客は1人当たりの平均消費額が最も高いかもしれないが、今後も安定して来訪するかは不透明だ。
日本は孤立していない
最終的に必要なのは先見性だ。マスクや防護具を中国に依存する危険性を理解するのに、コロナ禍を待つ必要はなかったはずだ。習近平国家主席が状況に応じてこのカードを切ることも、直近の輸出規制を待つまでもなく明らかだった。日本政府にとって差し迫った課題の一つは、医薬品や抗生物質向けで中国産材料への依存を減らすことだ。
目標は、対中貿易をゼロにすることではない。それは不可能だ。狙いは、習氏が何かを求める際に貿易を武器化する能力を鈍らせ、特定の国を頼みとする脆弱(ぜいじゃく)性を和らげる代替手段を用意しておくことにある。日本は孤立していない。中国の動きに翻弄されてきた近隣の国々は増えている。
日本企業が予測不能な中国の政策を乗り越えることを余儀なくされたのは、上海などでの新型コロナ対策としてのロックダウン(都市封鎖)と東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出を巡る反発に続き、今世紀に入ってこれが3度目だ。
日中関係が一時的に改善したとしても、このパターンが変わると期待する理由はない。高市氏は今回の局面を静観しつつ、今後も生じるであろう同様の状況下では影響をより小さくするための取り組みを続けるといいだろう。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Japan Can Keep Calm and Carry On Decoupling: Gearoid Reidy(抜粋)
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