(ブルームバーグ):明けましておめでとうございます。布施太郎です。今年も元旦のニュースレターから、1年のスタートにお付き合いください。
昨年も同じタイミングで「2025年の展望」をお届けしました。あれから1年、どれだけ予想が当たっていたのか。その答え合わせは、あえてここではしません。
見通しは当たるに越したことはありませんが、それだけが全てではないと思っています。何をテーマと捉え、どんなリスクを意識し、どういう道筋で答えを導き出すのか。そのプロセスそのものが、今後を考察する上でのヒントになるのではないかと考えるからです。
私たち記者は、足元で起きていることを記録する一方で、「これから起こり得ること」にも目を凝らさなければなりません。おおかみ少年になってはいけませんが、見えている火種を見ぬふりもしない。そんなバランスを大事にしたいといつも意識しています。
では、26年の日本企業の行方を一緒に見に行きましょう。
勢いを増す非公開化ラッシュ
26年は、日本の上場企業が「本当に上場に値するのか」を、企業自身と市場が真剣に問い直す元年になりそうだ。25年に本格化した非公開化ラッシュは勢いを増し、上場企業の選別が続くと予想される。
トヨタ自動車は昨年、源流企業である豊田自動織機の非公開化を発表。トヨタグループが総額約4兆7000億円で今年2月以降に株式公開買い付け(TOB)を実施する計画だ。名門企業でさえ「上場をやめる」という選択肢を本気で検討する時代になったことを市場に印象付けた。

東京証券取引所の上場社数は、25年末時点で3778社と前年より58社減り、昨年に続き2年連続の減少となった。経営陣が参加する買収(MBO)や再編に伴う上場廃止数は25年に過去最多を更新した。
成長が描けない「昔ながらの上場企業」が退場し、資本効率やガバナンスを意識する企業だけが市場に残る流れが鮮明になりつつある。大企業でも、将来像を描く際には非公開化を選択肢の一つとしてテーブルに載せているケースが少なくないと、投資銀行幹部は打ち明ける。
残るも地獄、退くも地獄
非公開化に向けて企業の背中を押しているのは、東証による「資本コストや株価を意識した経営」の要請だ。東証株価指数TOPIXも流通株式時価総額や売買代金に関する構成銘柄選定基準を厳格化し、採用銘柄数を絞り込む動きが進んでいる。指数から外れれば機関投資家の投資対象からも漏れやすくなる。市場による上場企業の選別は厳しさを増している。
だが、「もはや上場には耐えられない」と市場からの退出を決めた会社でさえ、いまや簡単には出ていけない。割安な水準でのMBOやTOBを持ち出すと、アクティビスト(物言う株主)が横やりを入れてくるからだ。
「TOB価格は企業価値を過小評価している」。豊田自動織機の非公開化に対しては、米アクティビストのエリオット・インベストメント・マネジメントが「プレミアム(上乗せ)不足」だと主張し、賛同する投資家を募り始めた。今後、トヨタが価格を引き上げるかどうかが焦点になる。
自動車用品大手ソフト99コーポレーションでは、創業家側が仕掛けたMBOに対し、シンガポールのアクティビスト、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントが対抗TOBに踏み切り、MBOは25年11月に頓挫した。自動車部品製造の太平洋工業でも、MBO発表後にエフィッシモが買い増しを進めたことで、条件の見直しを重ねる長期戦となっている。いずれも買い付け価格の低さに付け入られた形だ。
アクティビストが横やりを入れてくる目安の一つが「株価純資産倍率(PBR)1倍を下回る買い付け価格」だ。ソフト99も太平洋工業もPBR1倍に満たない水準だとエフィッシモは訴えた。
MBOはもともと経営陣が自ら買い手に回る取引であり、利益相反の塊だ。買い手側は1円でも安く買いたいという動機を持つ一方、少数株主にとっては「経営陣が自らのために会社を安売りしているのではないか」との疑念が付きまとう。
こうした緊張関係の中で、PBR1倍以上のTOB価格が提示できるかどうかが、市場から退出するための最低ラインとなっている。買い付け価格が引き上げられず、案件のハードルが上がっていると、ある証券会社の幹部は語る。
アクティビストの言い分は、少数株主保護という観点から見れば筋が通っている。だが、それをそのまま市場全体の「最低ライン」として当てはめると、別のゆがみも生じる。
そもそもPBR0.3倍や0.4倍で長年放置されてきたような企業が、自己資本利益率(ROE)も低いまま、PBR1倍超のTOBを実行することが現実的なのか。先の証券会社幹部は、PBR0.8倍でも高過ぎる会社は少なくなく、1倍を最低基準にすると、本来は市場から退出すべき企業がむしろ「出られない」というねじれが起きかねない、と懸念する。
上場を続ければ、アクティビストからの攻勢や「同意なき買収」のリスクにさらされる。一方で、割安なTOB価格での退出は許されない。「残るも地獄、退くも地獄」。26年はこの矛盾が一段と先鋭化する年になりそうだ。
アクティビストは少数株主の代弁者か
こうしたアクティビズムの広がりに対し、企業側も手をこまねいているわけではない。25年には、特定の投資家をターゲットにした「有事導入型買収防衛策」を採用する動きが相次いだ。
これは、特定の投資家が一定割合以上の株式を取得しようとする際に、取得目的の説明を求めるなどのルールをあらかじめ定めておき、それに応じない場合は他の株主に新株予約権を無償で割り当てるといったスキームだ。発動するかどうかは、株主総会で決める。
フジ・メディア・ホールディングスは村上世彰氏が関わる投資会社を、あすか製薬ホールディングスは米ダルトン・インベストメンツを、東邦ホールディングスはシンガポールの3Dインベストメント・パートナーズをそれぞれ対象にして導入を決めた。
実際に株主総会決議にまで至ったケースはまだないものの、アクティビストを株式希薄化リスクに直面させることで、行動を一定程度封じ込める狙いがある。半面、こうしたスキームが乱用されれば、少数株主保護の名の下に経営陣の保身を正当化する「盾」になりかねない。
今後、これらの防衛策が実際に株主総会で諮られれば、アクティビスト側は「少数株主の利益の代弁者なのか」を問われることになる。他方、企業側も「防衛策の発動が株主全体の利益にかなうのか」を具体的に説明する責任を負う。26年には、アクティビズムと買収防衛策の「正統性」が同時に試される局面が訪れるかもしれない。
過熱するLBO融資、火種抱える地銀
非公開化ラッシュを金融面から支えているのが、外資系を中心とするプライベートエクイティー(PE、非公開株)ファンドの潤沢な資金と銀行のレバレッジド・バイアウト(LBO)融資だ。
買収先企業が将来生み出すキャッシュフローを担保に資金を貸し出すLBOローンは、通常のコーポレートローンよりリスクが高い分、利ざやも厚い。長く三菱UFJ銀行など3メガバンクが中心だった市場に、ここ数年、地銀が参入するケースが増えてきた。
金融庁によると23年9月末時点で、地銀のLBOローン残高は約1兆4000億円。100行中77行で取り組み実績があると回答していたが、企業の非公開化案件の増加で融資残高はさらに膨らんでいるとみられる。
大手行の融資担当者は、目先の利ざやの厚さと手数料に目がくらみ、地銀の中にはリスク分析が追い付いていないケースも見えると危ぶむ。日銀が25年12月に政策金利を0.75%へと引き上げ、長期金利も2%台に乗せた。LBOローンには変動金利が適用されるのが基本だ。今後の利上げ次第では、借り手企業の金利負担が想定以上に重くなる可能性もある。
過去には、PEファンドの米KKRが買収した自動車部品大手マレリホールディングスが、巨額負債を抱えて法的整理に追い込まれるなど、大型LBO案件の失敗例もある。
TOB価格を巡る綱引きでプレミアムが上がり、その分、融資の割合を高めざるを得ない案件も増えている。成長シナリオが予定通りに進まなければ、一気に不良債権の火が噴くリスクもある。非公開化企業が苦境に陥った局面では、スポンサーとなったファンドの力量と同時に、銀行がどこまで融資による規律付け、つまりデットガバナンスを利かせることができるかも問われる。
企業の現預金80兆円超、成長投資に回せるか
もう一つ、26年の日本企業に重くのしかかるテーマが「現預金」だ。
財務省の法人企業統計調査によると、資本金10億円以上の大企業の現預金残高は24年度に約83兆円で、過去最高だった23年度の約85兆円から約3%しか減少していない。「現金ため込み」への批判は根強い。
金融庁は26年にコーポレートガバナンス・コードを改訂する予定で、企業に対して、現預金を投資などに有効活用できているかなどを検証し、その判断に対する説明責任を明確化するよう求める方向だ。
企業はここ数年、自社株買いや株主還元を強化してきた。その一方で、企業価値を持続的に高めるためには、成長投資の拡大も不可欠だ。金融庁の伊藤豊長官は、経営資源の最適な配分を実現するためには「設備投資や研究開発、人的資本投資など多様な投資機会があることを認識することが重要」との考えを示し、企業の「稼ぐ力」の向上を求めている。
現預金の使い道としては、成長投資に加え、企業の合併・買収(M&A)に振り向ける動きも広がるとみられる。自前で新規事業を立ち上げるよりも、「時間を買う」意味での買収を選ぶ企業は増えているという。買収の経験がない企業でも、現金をてこにしたM&Aで一気にポジションを取りに行こうとする動きもあると大手行役員は話す。
このように東証の株式市場再編から4年目を迎える今年は多くの企業にとって「岐路の年」になりそうだ。
上場を維持し、「選ばれる企業」になる道を選ぶなら、事業ポートフォリオの見直しや不採算事業の売却を進めるとともに、株主還元と成長投資を両立させ、企業価値を引き上げる必要がある。取締役会の機能強化を含むガバナンスの磨き込みも欠かせない。
一方で、MBOやPEファンドへの売却によって非公開化を選ぶ道もある。市場の目を気にせずに中長期の再建・成長に集中できる半面、そこには新たなスポンサー株主と巨額のLBOローンという「負債の首輪」が付いて回る。
いずれの道を選んでも、企業にとっては厳しい道のりが待っている。だが、その選択の結果は、数年後の日本株市場の姿を大きく変えることになる。
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