米国より早く、女性初の国の指導者である高市早苗首相が誕生した日本。政府は2030年までに企業の役員の30%以上を女性とする目標を掲げ、女性社員の活躍を後押しする。一方、家業を継ぐ女性に対する支援は十分ではない。女性の事業承継を支援する日本跡取り娘共育協会の内山統子代表理事に課題を聞いた。

--なぜ女性後継者は少ないのでしょうか

背景には「家は男性が継ぐもの」という価値観が根強く残っていることがあります。地方ほどその傾向は強く、娘は後継者候補として想定されないまま年齢を重ね、結果として準備不足の状態で突然承継するケースも見られます。

--女性が後継者になる場合、どんな困難がありますか

経営知識や経験だけでなく、精神的な負担が大きい点が特徴です。男性優位な社会で育ってきたため、「私なんて」という自己否定感を抱きやすく、相談できる相手も少ない。親族や従業員からの無意識の偏見に直面することも少なくありません。

--そうした課題に対し、どのような支援が必要でしょうか

知識やスキルの提供だけでなく、同じ立場の女性同士が悩みを共有できるコミュニティーが重要です。突然経営者になる場合でも、自分らしい承継の在り方を考えられるよう、マインドセットを整える場が求められます。

--19年に協会を立ち上げ、ウェブサイト「跡取り娘ドットコム」で対外的な情報発信にも力を入れています。どんな支援活動をしているのですか

力を入れているのは、女性後継者が交流する場を作ること。月1回ペースでオンライン交流会と勉強会を実施しています。既存の経済団体のようなビジネスプラットフォームというより、女性同士の絆や精神的な支えとなるように努めています。ほかに、女性の事業承継にかかる調査・分析や政策提言などを行っています。

--なぜ、協会が必要だと思ったのですか

日本の事業承継は依然として男性中心で、女性後継者の割合は10%程度にとどまっています。企業内の女性活躍は政策的にも注目されていますが、家業を継ぐ女性に対する支援や評価はまだ十分とは言えません。私自身は跡取り娘ではありませんが、仕事で出会った彼女たちに刺激を受け、この人たちをもっと生かす社会にするお手伝いがしたいと思いました。

ーー実際、跡取り娘の皆さんからはどんな声が聞こえてきますか

現在、約130人の会員がおり、会員向け講座の最後に「自分の承継スタイル」を語っていただきました。皆さん、涙を流しながら発表される感じで。ご自身の体験や感情、葛藤を改めて言葉にすることで、整理する機会になっているのではと思います。

--女性後継者が経営に入ることで、企業にはどんな変化がありますか

売り上げの拡大以上に、利益率や生産性が改善するケースが多く見られます。多様な働き方への理解が進み、男性の育休取得や女性の正社員登用が増えるなど、組織全体のダイバーシティーが進む傾向があります。

--家族内承継ならではのメリットとデメリットは

メリットは、家業への理解や従業員への思いが深いことです。一方で情に流されやすく、必要なリストラに踏み切れないリスクもあります。だからこそ、性別ではなく適性で後継者を選ぶ視点が重要です。

--今後、社会全体に求められることは何でしょうか

男性経営者が「娘でも継げる」と具体的に想像できるロールモデルを増やすことです。メディアや支援機関が女性後継者の姿を可視化し、事業承継の選択肢として当たり前に位置づけていくことが、日本経済の持続性にもつながります。

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