(ブルームバーグ):銀価格がアジア時間29日に初めて1オンス=80ドルを突破し、最高値を更新したが、その後反落している。投機的な取引や構造的な需給の不均衡を背景に記録的な上昇を続けていたものの、トレーダーらが利益確定売りに動いた。
5営業日続伸していた銀価格は一時84ドルと最高値を付けた後、5%下落する場面があった。ドル安や地政学的緊張の高まりで貴金属の魅力が高まっており、年末にかけて銀や金、プラチナが軒並み最高値を更新していた。
イーロン・マスク氏による週末のコメントも貴金属を巡る投資家の熱狂ぶりを浮き彫りにした。同氏は中国の輸出規制に関する投稿に対し、「これは良くない。銀は多くの産業プロセスで必要とされている」と、X(旧ツイッター)で反応した。

だが、中国による措置は事実上、これまでの政策を継続するものであり、商務省が10月30日にまず発表していたものだ。中国は主に工業用金属の副産物として銀を生産する世界トップスリーの一角だが、世界最大の消費国でもあり、主要な輸出国ではない。
貴金属はこの1年にわたり、上昇基調にある。中央銀行による旺盛な買い入れや上場投資信託(ETF)への資金流入、3会合連続の米利下げが支援材料だ。金利が付かないコモディティー(商品)にとって、利下げは追い風で、トレーダーらは2026年の追加引き下げも見込んでいる。
IGオーストラリアのマーケットアナリスト、トニー・シカモア氏は「われわれは間違いなく一世代に一度の銀バブルを目撃している」と指摘した。
先週は、米国が石油タンカーを封鎖したベネズエラ情勢や、米によるナイジェリアでの「イスラム国」系勢力への攻撃を受け、安全資産としての貴金属の魅力が高まった。
ドルの強さを示す主要指標、ブルームバーグ・ドル・スポット指数は先週0.8%下落。週間ベースでは6月以来の下落率となった。ドル安は一般的に金や銀の相場を下支えする要因となる。
在庫逼迫
銀が金を上回る値上がりを見せている理由は幾つかある。一つは市場規模の小ささだ。在庫や流動性は逼迫(ひっぱく)しており、急速に枯渇する可能性がある。ロンドンの金市場には流動性が逼迫した際に貸し出せる約7000億ドル相当の金が裏付けとして存在するが、銀にはそのようなものがない。歴史的な供給逼迫は10月に発生した。
供給制約が引き金となった10月のスクイーズ(踏み上げ)以降、ロンドンの保管庫にはかなりの流入があったが、これは他の場所での不足を招いている。中国では、上海先物取引所の関連倉庫に保管されている銀の在庫が先月、2015年以来の低水準を記録した。
また、世界で利用可能な銀の多くはなおニューヨークにとどまっている。重要鉱物の輸入が国家安全保障を脅かすかどうかを巡る米商務省の調査結果をトレーダーらは待っており、結果によっては関税や貿易制限につながる可能性もある。
金と異なり、銀には実社会で有用な特性が多く、太陽光パネルや人工知能(AI)データセンター、電子機器など幅広い製品に不可欠な素材となっている。在庫が過去最低水準近くにある中、複数の産業に影響を及ぼしかねない供給不足のリスクもある。
現物の争奪戦
シカモア氏は「最近の主な要因は、銀の深刻な需給の構造的不均衡であり、現物の争奪戦を引き起こしている」と分析。「買い手は現在、1年待つ場合と比較して、即時受け渡しに7%という驚くべきプレミアムを支払っている」と話す。
テクニカル指標は、銀の値上がりが行き過ぎで、急ピッチである可能性を示唆している。相対力指数(RSI)は14日間で80超となっており、「買われ過ぎ」と見なされる70を大きく上回っている。
シンガポール時間午前10時半(日本時間同11時半)現在、銀スポット価格は1%安の1オンス=78.50ドル。一時は6%高の84.01ドルを付けていた。金は0.4%安の4513.22ドルと、26日に付けた最高値の4549.92ドルを下回った。プラチナとパラジウムはいずれも下落している。
原題:Silver Pulls Back After Topping $80 in Historic Year-End Rally(抜粋)
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