(ブルームバーグ):日本の新規株式公開(IPO)で、資金吸収額の少ない小型案件が急減している。中小や新興企業が主に上場するグロース市場のルールを厳格化する方針を東京証券取引所が示し、IPOへの入り口が一気に狭まった。
ブルームバーグがまとめたデータによると、公募による新株発行と売り出しの合計である資金吸収額(IPO規模)が5000万ドル(約78億円)未満のIPOは今年43件にとどまり、2013年以来の低水準になる見通し。JX金属やSBI新生銀行など大型の案件もあり、国内IPO市場全体の資金調達額が約1兆3000億円と、7年ぶりの高水準に膨らんだのとは対照的だ。
小型案件の減少は、事業の拡大や知名度向上を目指す新興企業にとって市場から直接資金を得るハードルが上がったことを表す半面、IPOにこぎ着けた企業の質も上がるため、株式市場の健全性は今後高まっていく可能性がある。
三菱UFJアセットマネジメントの友利啓明エグゼクティブファンドマネジャーは、小型上場が悪いとは思わないが、小型のIPO銘柄が成長できずに株価が初値を天井に低迷する事例は多いと指摘。「上場後も成長していくことが大事で、持続的な成長ができない企業に『NO』を突きつけている」との見方を示す。
世界の主要取引所の中で、日本の小型IPOの多さは特に顕著だった。昨年までの10年間の平均を見ると、IPO件数全体に占める小型の割合は東証が82%で、インドの76%や香港の55%を上回る。今年の東証の割合は件数と同様に、13年以降で最も低くくなる見込みだ。
小型IPOの急減は、東証が9月にグロースの上場維持基準を引き上げると発表したことが要因の一つに挙げられる。これまで上場から10年経過後、時価総額40億円以上としていた基準を30年3月以降、上場5年経過後の時価総額100億円以上に見直す。
こうした流れを受け、上場を目指す企業が非上場での成長を優先させたり、上場支援の証券会社を見つけられなかったりしており、結果的に小型のIPOが減ることになった。
野村証券の多田寛之公開引受部次長は、IPO企業の選別で「上場後の売買が増えるという観点からも適切な価格形成が進みやすくなっている」と分析。資本市場への影響として「より望ましい形でのIPOになっていると評価できる」と話す。未上場でも資金調達できる環境も整備されてきており、「より大きくなってIPOを目指す動きは継続しそうだ」とみている。
証券会社の事情
企業のIPOを支援する証券会社サイドの事情もある。不正企業の上場を未然に防ぐため、提出書類や確認作業の強化を東証が求めており、上場準備にかかる時間や費用のコストは増加。一方、開示資料を基にしたブルームバーグの試算では、主幹事証券が得る引受手数料は小型案件で資金吸収額の約8%。IPO規模が小さい数億円の案件では数千万円の引受手数料しか入らない計算になる。
昨年10月にグロース市場へ上場した人工知能(AI)関連サービスのオルツは粉飾決算が発覚し、わずか10カ月で上場廃止となった。東証は今月12日、上場申請時に提出する書類への記載項目の追加など再発防止策を発表した。
EY新日本有限責任監査法人の善方正義パートナーは、不祥事が起きるたびに審査の厳格化でコストは増える一方、小型案件で得られる手数料の水準は変わっておらず、証券会社にとってIPOビジネスのコストが収益と見合わなくなってきていると指摘。今は利益をしっかり出し、市場で本当に勝てる銘柄でないと「上場もできないし、良い株価もつかないのがここ数年のトレンド」だと言う。
ブルームバーグがIPO市場の関係者や過去5年間に上場した企業の幹部20人以上に取材した結果、小型案件では公開価格の水準に不満を抱えたまま、上場する企業が多かった。業績がまだ不安定で、過小評価されてもタイミングを優先させたほか、上場準備にかかるコストが相対的に重く、延期や主幹事証券の変更に踏み切ることもできなかった。
22年にグロース市場へ上場し、不動産管理会社向けソリョーションを手がけるスマサポの藤井祐介副社長は、IPO前に相場環境が変わり、非上場時に資金調達した際の評価水準から下がったが、「1年延期する体力はなかった」と明かす。
公開価格が想定よりも低かったことで投資家に販売する株数を減らした結果、需給逼迫(ひっぱく)で初値は高騰した半面、最高値からは6割以上安い現在の株価や流動性の低さから資金調達しづらい状況が続いているという。
日本取引所グループの山道裕己最高経営責任者(CEO)は12日の会見で、グロース市場改革は小型IPOを減らすことを目的とせず、「急成長できると思っている方にはどんどん出てきていただきたい」と発言。小規模でも市場に出てくるのは、新しい上場維持基準をクリアできる自信を持った企業だとも語った。
IPOが専門の慶応大学の金子隆名誉教授は成長の可能性がなく、機関投資家の関心も向かない企業は上場しにくくなっており、過小値付けといった「資本市場のゆがみは改善されている」と分析。ただし、投資家の需要を値付けに反映する仕組みの確立へ引き続き努力が必要で、現状は「日本がIPO先進国になる大きなターニングポイント」と見ている。
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