米ワシントン州のファーガソン知事が同州の近代史で初となる州所得税を提案した際、「手頃さ」という言葉を5回用いた。

ファーガソン知事は23日、100万ドル(約1億5600万円)を超える個人所得に9.9%課税する制度設計を州議会に求めた。売上税と固定資産税への依存度が高い州の歳入制度を根本から変える内容となる。ファーガソン氏が所属する民主党は数十年にわたり所得税導入を試みて失敗してきたが、同氏は「今は時代が違う」と指摘した。

ファーガソン知事

同氏は「われわれは手頃さを巡る危機に直面している」と述べ、「時代遅れで逆進的な州税制を変える時だ。現在のワシントン州民のニーズに応え、税をより公平にするため、ミリオネアは共有の繁栄に貢献すべきだ」と呼びかけた。

民主党はポピュリズムの高まりを捉え、富の格差の拡大に対処する手段として、全米各地で課税を模索する動きを強めている。2025年の選挙で予想以上の成果を上げた民主党が前面に掲げた争点が「手頃さ」だったとすれば、来年のスローガンは「富裕層に課税を」になる可能性が高い。

トランプ政権は今年、高所得者向けの減税と、メディケイド(低所得者向け医療保険制度)や補足的食料支援の削減を組み合わせた政策を打ち出したことから、民主党はこの流れを好機と受け止めている。

カリフォルニア大学デービス校法科大学院の税法教授、ダリエン・シャンスキー氏は、「連邦政府は、貧困層や中間層から奪い富裕層に与えるという超悪役のような行動に出ている」と指摘。「この不必要な緊急事態は州に難題を投げかけている。苦しみを放置するのか、それとも緊急で救済する場合、財源をどう確保するのかだ。最も恵まれた層への課税は、公平なだけでなく効率的でもある」と述べた。

累進課税を支持する立場からは、マサチューセッツ州が導入した、100万ドル超の所得に4%を上乗せする付加税が引き合いに出される。同州では徴収開始3年目となる2025会計年度に、歳入が約57億ドルに達し、当初の予測を大きく上回った。

ニューヨーク市のマムダニ次期市長は、ミリオネアに対する市の所得税率を2ポイント引き上げ、5.9%とする公約を掲げて選挙戦を展開した。同構想は富裕層の流出を招くと批判する声も上がった。

コロラド州では今年、年収30万ドル以上の納税者に対する控除を制限する措置が住民投票で承認された。これに伴う歳入は公立学校の全児童・生徒に無償給食を提供する事業に充てられる。州当局はまた、4.41%の単一税率を累進税率に改める住民投票案も進めており、40億ドル超の増収となる可能性がある。同案は26年に有権者の判断に委ねられる見通しだ。

ミシガン州でも来年、住民投票により、4.25%の単一税率に代えて、個人で50万ドル超、夫婦で100万ドル超の所得に5%の付加税を課す案が示される可能性がある。

ロムニー氏も賛同

12年の共和党大統領候補だったロムニー元上院議員も、富裕層増税に賛同している。同氏は先週、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、富裕層がより多くを負担すべきだと主張。主に、富裕層が税負担を最小化するために利用している抜け穴をふさぐ形での対応を訴えた。

ロムニー氏は、こうした対応が社会保障などを含む政府資金の不足という「迫り来る崖を回避する助けになる」とし、「税優遇を受けたビリオネアが300フィート(約91メートル)のヨットを走らせるのを、失業中の大卒者が目にすれば高まるであろう怒りを、いくらか鎮めることにもつながるだろう」と述べた。

課税反対派が最も頻繁に警告するのは、新たな税の仕組みが一度導入されれば、税率が引き上げられたり、適用される所得水準が引き下げられたりするという点だ。また、州税は連邦税よりも回避しやすい点も課題となる。主たる居住地を移すことが比較的容易だからだ。

ワシントン州はかつて、高税率のカリフォルニア州に不満を持つ納税者を引きつけてきたが、キャピタルゲイン課税を導入して以降、その状況は変化している。来年は、ワシントン州をはじめ全米各地で「ミリオネア税」の年となる可能性がある。

原題:Millionaire Tax Plans Spread as Washington Eyes New Levy (1)(抜粋)

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