日本銀行の利上げ後も日本株は堅調で、投資家の警戒感が金利上昇から円安へとシフトしている可能性がある。

19日の日銀決定会合で今後の利上げ時期や余地について明確な示唆がなかったことから、外国為替市場では円安が進行。一時1ドル=157円78銭と、昨年7月に記録した1986年以来の安値161円95銭に近づいた。

円安は輸出を促進すると一般的には理解されているが、実態を見ると2022年以降の円安局面でも輸出は伸び悩み、ドル建てでは縮小している。このため貿易収支は赤字傾向が続き、輸出面のメリットよりも輸入コスト増加のデメリットが上回る状況だ。円安が購買力の低下につながり、賃金の上昇にもかかわらず国内消費が低迷している要因の一つともなっている。

住友生命保険の村田正行バランスファンド運用部長は、日銀の慎重な利上げで円安が止まらないと「為替市場で円買い・ドル売り介入が必要な局面となり、株価の上値を抑える」ことを警戒する。現在の株価はフェアバリュー圏にあるとみる。

みずほ証券の石川真理子機関投資家営業部長によると、投資家の間では、円安を止めるためにはある程度の利上げは許容せざるを得ないとの見方が増えている。マイナス金利解除の時は多くの市場参加者が警戒していたが、インフレが続く中で現水準の金利が続くと「ますます円安が進みやすく、利上げがある程度続くことに対する覚悟ができているように見える」と言う。

金利上昇が企業の資金調達コストや将来利益の割引率の上昇などを通じて株価の抑制要因となる点については、現状の業績が堅調で十分吸収できるとの見方が多い。

りそなホールディングスの武居大暉ストラテジストは、資本効率の改善が金利上昇を上回る限り、理論的には株価は下がらないと指摘。今後1、2年で東証株価指数(TOPIX)の自己資本利益率(ROE)が1-1.5%ポイント程度上昇するという前提に立てば、長期金利が「3.5%というかなり非現実的な水準」に達しない限り、株価下落を招く可能性は低いと分析する。

ブルームバーグ・インテリジェンスのデータによると、来年の日本企業の利益は7.4%増加する見込み。また企業はガバナンス(統治)改革により資本効率の改善や現預金の効率活用、株主還元の拡充を進めており、それがROEの向上につながっている。

それでも、市場には日銀の慎重かつ段階的な利上げでは円安やインフレを押さえ込めないとの懸念がくすぶる。

19日の日銀利上げ後は債券も売られた。超長期債より中長期債の利回り上昇が目立ったのは、市場がインフレ進行とそれに伴う通貨価値の毀損(きそん)を織り込み始めている可能性を示唆する。

フィデリティ・インスティテュートの重見吉徳首席研究員マクロストラテジストは、高水準の公債残高や高市政権の金融引き締めには慎重で財政政策は拡張的というスタンスを踏まえると、日銀が積極的に利上げを行うことは考えづらいと話す。

緩やかな利上げではインフレを抑えきれず「円安が進み、インフレ率は高止まりする」と指摘。ただ、日銀の慎重な利上げ姿勢には、世界の金融市場でのリスク選好を支えている面もあると付け加えた。

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