3|まとめ
以上を踏まえると、特に米国株の割高感は強く、(技術革新の)期待を先取りし、政府部門が借入を増やす形での豊富な通貨供給にも支えられて上昇していると考えられる。
技術革新による成長期待が主導する上昇であることから、ITバブル時と同様に企業が期待されるほどの成長を遂げないと判断されれば、そうした企業を中心に株が下落するリスクも小さくはないと考えられる。
通貨量対比で見ても株価はやや高い水準にあることから、株価の調整は小さなきっかけで生じやすくなっているように思われる。
一方で、民間部門のレバレッジの低さゆえ、実体経済を押し下げる経路は限定的と考えられる。政府部門の債務は拡大しているが、これらは住宅や不動産といった資産を担保とした調達ではない。
したがって、本稿で指摘した経路(バブル崩壊が担保価値を下落させると、企業・家計部門では借入の維持が難しくなり、金融機関の不良債権も増加する)でバブル崩壊が実体経済に影響することはないだろう。
また豊富な通貨量は、資産全体が下落することへの耐久性を高める要因になり得るだろう。一部の株式が下落しても、代わりに他の株式や他の金融資産が押し上げられやすい状況と見られる。
通貨量が縮小すればこうした支えは弱まるが、政府の財政スタンスや中央銀行が流動性のひっ迫に配慮した金融政策を実施していることに鑑みれば、通貨量が急減するリスクも限定的と見られる。
ただし、拡張的な財政政策や政府部門の信用リスクの増加は、インフレ促進や金利上昇を通じたクラウディングアウトによって実体経済に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、金利上昇が株安を招くことも考えられる。現時点では、一部の格付機関の米国債格付けの引き下げなどが見られたものの米国の信用力は高く金利の急騰リスクは限られているが、インフレがなかなか沈静化しない、金利が高止まりする、タームプレミアムの拡大圧力が持続するといったシナリオは十分に考えられる。
株の深刻な調整や成長率の急減速には必ずしも至らないかもしれないが、政府部門のレバレッジが実体経済への波及経路となりうる点に筆者は注目している。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員 高山 武士
※なお、記事内の「図表」と「注釈」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。