はじめに

日米欧の主要株価推移ロシアのウクライナ侵攻や中東紛争の激化など地政学リスクがくすぶるなか、25年1月にトランプ氏が米大統領に就任して以降、関税政策の強化といった実体経済に大きな影響を及ぼす政策を実施しており、先行きの不確実性が高い状況が続いている。

一方で、株価はAIの普及・活用に伴う関連企業(モデル開発、半導体製造、クラウド・データセンターなど)の高成長期待などを背景に一時的な調整局面を経験しつつも、基調としては堅調に推移している。

こうした状況下で、現在の株高はバブルであり、バブル崩壊が実体経済にも悪影響を及ぼすリスクとなっているとの指摘が増えている。

そこで本稿では、過去のバブル崩壊事例と実体経済の関連を確認したうえで、現在の株高局面についても考えてみたい。

株価の割高感

まず、現在の株高について確認するため、株価の割高・割安を判断する指標をいくつか概観する。

なお、本稿ではバブルの定義については深掘りしないが、経済学的には、バブルとは資産価格が本質的な価値から乖離すること、と定義されることが一般的と言える。ただし、「本質的な価値」の評価は困難で、この定義に従ってバブルか否かを判定することも難しい。

一方で、経済史研究で有名なキンドルバーガー氏は、バブルを「価格が大幅に上昇し、その後反落する場合」と、より日常で用いる意味に近い定義で使用している。

本稿でも、単純に資産価格の大幅な上昇と下落をバブルやバブル崩壊と呼ぶことにする。

1|PERとバフェット指標(株価とフロー指標との比較)

最も基本的な株価(時価総額)の割高・割安の指標と言えばPER(株価収益率)だろう。PER=株価/(1株あたり利益(EPS))であり、株価が企業利益と比較してどの程度高く評価されているかを示す指標である。

1年先の予想利益水準と比較したPERの推移を見ると、日本やユーロ圏が過去40年ほど(86年以降)では過度に割高ということではないものの、コロナ禍以降で見ると最高水準にあり、米国がここ40年ほどのピーク(コロナ禍時や2000年頃)とほぼ同水準という位置にある。

また、企業の利益規模ではなく実体経済規模(名目GDP)と比較してどれだけ株価が高いかを示す指標がいわゆるバフェット指標である。

つまり、バフェット指標=株式時価総額/名目GDPであり、この指標では、米国や日本は過去40年ほど(86年以降)で最も割高になっている。