日本銀行は、今週の金融政策決定会合で政策金利を30年ぶりの水準に引き上げる見通しだ。昨年スタートした金融政策の正常化路線が新たな段階に入る。

複数の関係者によると、日銀は18、19日に開く会合で、政策金利を現在の0.5%程度から0.75%程度に引き上げる公算が大きい。利上げは今年1月以来、約1年ぶり。0.5%超は1995年以来の高水準だが、日銀は引き続き緩和的とみており、利上げ継続姿勢を維持する見通しだ。

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ブルームバーグがエコノミスト50人を対象に行った調査では、23年4月の植田和男総裁の就任後で初めて、全員が利上げを予想した。その後の利上げペースについては、最多の64%が半年に1回程度とみており、米関税政策の導入前の市場想定に回帰するとの見方が多い。

今回の利上げは、最大のリスク要因である米関税政策に伴う不確実性が後退し、来年の賃上げにも前向きな動きが見え始めたとの判断が背景にある。金融緩和を重視するとみられる高市早苗政権も、輸入物価の上昇に直結する円安を回避する観点から、利上げを容認する方向だ。

野村総合研究所の井上哲也シニアチーフリサーチャーは、米関税政策の影響や米経済減速のリスクが低下した以上、「日銀は元の緩やかな利上げに回帰することが可能だ」とみる。こうした状況で利上げしなければ、円安や長期金利の上昇につながる恐れがあり、日銀と政権に大きな相違はないとの見方を示した。

主要国で唯一利上げ

米連邦準備制度理事会(FRB)は10日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、3会合連続となる利下げを決定した。一方で、日銀は昨年3月以降、利上げを進めており、主要な中央銀行の中での異例な立場を浮き彫りにしている。

今会合で利上げを決めても、経済・物価見通しが実現していけば、引き続き利上げによって緩和度合いを調整していく方針を維持する見通しだ。政策金利の最終到達点(ターミナルレート)は、利上げに伴う経済・物価情勢や貸し出し動向などの金融環境を点検しながら慎重に判断していく。

日本の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)は3年半以上も日銀が目標とする2%を上回って推移している。市場には既に日銀の政策対応は遅れているとの見方も少なくない。バブル経済崩壊後の利下げ局面にあった30年前と環境も大きく違う。しかし、0.75%という新日銀法下で未踏の領域に踏み出すこともあり、政策調整は引き続き急がない見通しだ。

慎重に利上げ余地を探っていく日銀の姿勢は、物価高対策を最優先課題に掲げる高市政権にも受け入れられやすいとみられている。円安進行につながる日銀の利上げ打ち止め観測を回避しつつ、日本経済を支える緩和環境内での政策調整との説明が可能なためだ。

T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフストラテジストは、「物価高は高市総理の支持率をむしばむリスクがある」と指摘。国内物価の上昇につながる「円安について気にしているのは、植田総裁も高市首相も同じだろう」とみている。

積極財政のリスク

他の主要国と同様に物価高が政治不信を招き、過去2回の選挙で自民党は敗北し、衆参両院で与党が過半数を割り込んだ。その後、無所属議員3人が自民党会派に加わったことで、衆院では過半数を確保したものの、不安定な政権運営に変わりはない。

むしろ、高市政権の積極財政による経済・物価の上振れや円安の進行が、日銀の利上げサイクルを早める可能性も指摘されている。政府は先月、コロナ禍後で最大規模となる21.3兆円の経済対策を決定した。

UBS証券の足立正道チーフエコノミストは、日銀の今後の利上げペースは半年に1回程度で、27年半ばにターミナルレートの1.5%到達がメインシナリオとしつつ、高市政権の積極財政で「リスクは上振れ」たという。「円安が心配材料」であり、財政の効果と市場への影響を気にすべきだと指摘した。

足元の為替相場は1ドル=155円台と過去に政府が円買い・ドル売り介入を実施した水準に近い。長期金利は8日に一時1.97%と2007年6月以来の水準に上昇し、2%が目前だ。高市首相は10日の国会で、金利上昇について「財政政策のみを切り出して市場に与える影響を一概に申し上げることは困難」と答弁した。

植田総裁は9日の国会答弁で、長期金利の動向について「やや速いスピードで上昇している」と指摘。その上で、通常の市場の動きと異なる形で長期金利が急激に上昇する例外的な状況では、「機動的に国債買い入れの増額などを実施する考えだ」と語った。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは、高市政権の財政拡張への懸念や高圧経済でインフレ期待の上昇・不安定化が起きているとみる。その安定には日銀が必要な政策を着実に実行することが不可欠で、実行性に疑問を持たれないよう市場に向けた「政府によるコミュニケーションが重要」という。

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