(ブルームバーグ):中国はここ1カ月ほど、日本を孤立させようと、国連への書簡送付からフランスやロシアへの働きかけまで、さまざまな手法を試みてきた。
今やその矛先は、Jポップの歌姫や世界で最も売れている漫画といった日本の象徴的な文化アイコンの「封殺」にまで及んでいる。
アニメ版「ONE PIECE(ワンピース)」の主題歌を歌う大槻マキは先月末、上海公演が地元当局により中断させられた。イベントの映像には、楽曲の途中で音響と照明が切られ、大槻がステージから連れ出される様子が映っていた。「仲間」と呼ばれる海外のワンピースファンは、強い憤りを示した。
累計5億部余りを売り上げたこの漫画は欧米でもトップセラーで、Netflixによる実写版は2023年の配信開始時に世界で最も視聴された作品となった。それが標的にされた。
ワンピースの海賊旗は今年、インドネシアやフィリピン、ネパールなどアジア各国で若者による抗議運動の象徴となった。
浜崎あゆみの上海公演も中止となった。日本を代表するソロアーティストで、アジア各地で圧倒的な人気を誇る浜崎はその後、無観客の会場で歌唱したことで称賛された。
中国は引き続き、高市早苗首相に対し、台湾有事を巡る日本の自衛に関する国会での発言を撤回するよう求めている。
台湾を自国の一部と見なし、「祖国統一」のためには武力行使も辞さないとする中国は先週、国連安全保障理事会の常任理事国であるフランスのマクロン大統領らの支持を取り付けようと動いた。
だが、人気エンターテインメントの象徴を攻撃すれば、世界の多くの人々が考える対立の構図は鮮明になる。自由な表現をたたえる側と、それを抑え込む側だ。
そして、大槻、浜崎、高市という女性3人が標的となっていることにも疑問の目が向けられている。
中国の「戦狼外交」はそこが分かっていない。自国民向けに強硬姿勢を優先し続ける限り、国際舞台での評価は必然的に損なわれる。
日本では高市氏の支持率が高まり続けており、日本経済新聞が実施した直近の世論調査では75%が同氏を支持し、働く世代では80%を超えた。
高市氏は4日、コンサート中止を念頭に置いたとみられるX(旧ツイッター)への投稿で、政府が「日本の才能あふれるアーティスト」の海外公演開催を支援すると表明。投稿には「アジア、欧州、北米など多様な市場で、日本の音楽が響く未来を創ります」とも記されていた。
結束
中国は沖縄県の帰属にも疑念を呈し始めた。高市氏への攻撃が始まって以来、中国国営メディアは、沖縄県を「未確定の地位」といった文言を用いて論じている。
中国による歴史を利用しようとする新たな試みだ。かつての琉球王国、沖縄は、14世紀から数百年にわたり中国王朝に使節と献上品を送っていた。
1600年代に日本の支配下に入った沖縄は、1800年代に正式に編入されるまで中国との関係を保っていた。第2次世界大戦後は米軍の統治下に置かれ、1972年に日本へ返還された。
米軍基地負担など複雑な側面は残るものの、返還50周年にあたる2022年の調査では、90%が本土復帰を肯定的に評価し、中国に親しみを感じると答えたのは11%にとどまった。
木原稔官房長官は1日の記者会見で、中国メディアの報道にコメントする必要はないとし、沖縄が「わが国の領土であることに何の疑いもない」と語った。
仮に、中国は、沖縄と台湾の類似性を強調し、戦後国際秩序の境界を曖昧にしようとしているだけだと好意的に解釈したとしても、日本の人々が受け取るメッセージは単純だ。「台湾の次は沖縄」ということだ。
すでに多くの人は、中国が台湾にとどまらず、沖縄の現状も覆そうとしているのではないかと疑っている。こうした動きは、日本政府の覚悟を一段と固めるさせるだけだ。
22年にペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問を受け、中国が台湾上空、そして日本の排他的経済水域(EEZ)に向けミサイルを発射したことが、台湾に最も近い日本最西端の島、与那国島(沖縄県与那国町)への地対空ミサイル配備決定を日本政府に促したのは疑いない。
観光を武器として利用する中国の試みも、影響は限定的だろう。中国国営メディアは、12月に日中間航空便が40%削減されたことを称賛している。だが、ゴールドマン・サックスのアナリストによれば、日本の観光業は新型コロナ禍前ほど中国と香港からの訪日客に依存していない。
仮に訪日客が50%減っても、国内総生産(GDP)成長率の押し下げは0.2ポイントにとどまり、中国・香港以外や国内からの旅行で補われれば、その半分になる。
中国政府が態度を軟化させず、高市氏の発言撤回を繰り返し求めている状況では、この問題は長期化する公算が大きい。
だが、自らの行動が世界にどう映るか、中国は認識すべきだ。圧倒的な力にひるまない姿勢には広い共感が生まれる。日本には多くの友人がいる。そしてワンピースの仲間のように、彼らは結束する。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:China’s Curbs on Japan’s Soft Power Will Backfire: Gearoid Reidy(抜粋)
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