米株式市場で年初に有望視された取引は、わずか数カ月で最悪の取引の一つへと転じた。

多くの上場企業が、ある種の永久機関を見つけたと考えていた。手元資金で暗号資産(仮想通貨)ビットコインなどのデジタルトークンを購入すれば、自社株は購入したトークン以上の勢いで値上がりするという算段だ。

上場企業ストラテジーを率いるマイケル・セイラー氏が、この手法を編み出し、同社をビットコイン保有会社へと変貌させた。2025年前半にかけ、セイラー氏のやり方に追随した企業100社余りも恩恵にあずかっていた。

Photographer: Ronda Churchill/Bloomberg

デジタル資産を保有する企業は「デジタル資産トレジャリー(DAT)」企業として知られるようになり、株価が急騰する中で公開市場の最も熱いトレンドの一つとなった。著名投資家のピーター・ティール氏からトランプ一族に至るまで、多くの投資家が参入した。

その代表格の1社、シャープリンク・ゲーミングは、事業を従来のゲーミング関連から転換。仮想通貨イーサリアム共同創設者の1人を会長に迎え、多額のイーサリアムを購入するため新株発行を行うと発表し、数日間で株価が2600%以上急騰した。

しかし、トークン保有という理由だけによる株価急伸は当初から困難で、歯車は徐々に、そして急速に狂い始めた。

シャープリンクの場合、株価はピークから86%下落し、同社全体の時価総額は保有するデジタルトークンの価値を下回った。

シャープリンク株は現在、保有するイーサリアム評価額の約0.9倍で取引されている。もっとも、約4800万ドル相当の暗号資産BERAを抱えながら年初来で99%余り株価が急落したグリーンレーン・ホールディングスのような事態は回避した。

B.ライリー・セキュリティーズのアナリスト、フェドル・シャバリン氏はインタビューで、「実質的に資金を積み上げているだけで、これらの保有資産が大したリターンを生まないと投資家が理解」した結果だと述べた。

 

米国とカナダで上場するDAT企業についてブルームバーグがまとめたデータによると、これら企業の株価(中央値)は年初来で43%下落している。これに対しビットコインの下落率は年初来で約6%にとどまる。

ブルームバーグの試算によれば、一部のDAT企業は依然として保有資産を上回る企業価値を維持しているものの、大半はピーク近辺でそうした株式を買い付けた投資家に損失をもたらしており、全体の70%が年初来でマイナス圏で年末を迎える見通しだ。

特に低調なのは、ビットコインを避け、より小型で変動の大きい仮想通貨に向かった上場企業だ。

トランプ大統領の息子2人は、家族が共同創業に関わった企業が発行した仮想通貨WLFIを10億ドル超購入する計画を掲げた上場企ALT5シグマを支援した。同社株は6月のピークから約86%下落した。

ナスダックで行われたALT5シグマのオープニングベル式典に出席したトランプ大統領の息子2人(8月13日)

こうした株価のボラティリティーは、仮想通貨買い入れ資金として、企業が多額の借り入れをしたことが一因となっている。

ストラテジーはビットコイン購入のため、多様な転換社債や優先株を発行。B.ライリーのシャバリン氏によると、DAT企業全体では今年、暗号通貨購入のため450億ドル(約7兆円)余りが調達された。

しかし現在、ストラテジーを含む各社は、こうした負債に伴う利払いと配当支払いの負担を抱えている。保有する仮想通貨は基本的にキャッシュフローを生まないため、これは大きな問題となる。

RIAアドバイザーズのポートフォリオマネジャー、マイケル・レボウィッツ氏はインタビューで「ストラテジー株を保有するということは、ビットコインのリスクに加え、同社が抱え込んでいるあらゆる企業ストレスや企業リスクも背負うということだ」と述べた。

ストラテジーはこの循環を維持するため資金集めを継続。米国での優先株発行が期待を下回ったことを受け、11月には欧州で永久優先株を割引価格で発行した。だが、このユーロ建て優先株はすでに発行価格を下回っている。

仮想通貨値下がりや投資家の熱狂後退により、知名度の乏しい小規模なDAT企業にとって、資金調達はさらに困難だ。

 

原題:From 2,600% Gain to 86% Wipeout, Crypto’s Hottest Trade Crumpled(抜粋)

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