米メディア大手ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収をめぐる攻防が佳境に入ったのは感謝祭(11月27日)の頃だった。同社はNetflix、パラマウント・スカイダンス、コムキャストの各陣営に対し、12月1日までに最終提案書と契約案を提出するよう通告。買い手候補には「最高の条件を出す」ことが求められていた。

多くの米国民がフットボール観戦や七面鳥料理を楽しんでいたその頃、Netflixの経営陣は拘束力のある最終提案の策定と、銀行団からの590億ドル(約9兆1700億円)規模のブリッジローン(つなぎ融資)確保に向けた詰めの作業に没頭していた。事情に詳しい関係者によれば、この巨額の資金調達が武器となり、同社はコムキャストやデービッド・エリソン氏率いるパラマウントを退ける強力な買収案を提示できたという。

こうして5日に発表されたNetflixによるワーナー買収は、規制当局の厳しい審査とパラマウントによる巻き返しを乗り越えれば、エンターテインメント業界に地殻変動をもたらす取引になる。

Netflix勝利の舞台裏は、交渉に関わった複数の関係者への取材で浮かび上がった。詳細が機密情報にあたるとして、関係者はいずれも匿名を条件に語った。

Photographer: Ethan Swope/Bloomberg

ワーナー買収プロセスの幕開けとなったのは、パラマウント・スカイダンスによる提案だった。同社は今年、エリソン氏が主導した合併で誕生した新会社だ。同氏は最高経営責任者(CEO)兼筆頭株主を務め、その背後には父親でオラクル創業者のラリー・エリソン氏の資金力もある。

パラマウントはいち早く動いたことで、時間的なリードを手にしていた。しかし、感謝祭明けに設定された第2ラウンドの締め切りが、流れを変える転機になったと関係者は振り返る。Netflixには必要書類を揃える余裕が生まれたうえ、同社はシリコンバレー仕込みのスピード感で対応できたからだ。

最終提案が出そろった段階で、最も優れた内容として頭ひとつ抜けていたのはNetflixだったと関係者は話す。

ワーナー側が気にしたのは、パラマウントが実際に買収資金を確保できるのか、という点だった。パラマウントはアポロ・グローバル・マネジメントや複数の中東ファンドからの資金提供を盛り込み、エリソン親子が後ろ盾になると説明していたが、ワーナー幹部の間ではその資金の確実性に疑念が残ったと、関係者は話す。

Netflixとワーナーはコメントを差し控えた。

スピード感

最終局面が近づく中、ワーナー側のアドバイザー陣はニューヨーク市内の複数のホテルに作戦本部を構えた。ワーナー内部では、この一連の売却交渉を「プロジェクト・スターリング」と呼び、自社を示すコードネームとして「ワンダー」を用いていた。交渉相手には、それぞれNetflixを「ノーブル」、パラマウントを「プリンス」、コムキャストを「チャーム」と名付けていた。

一方のNetflix側では、スペンサー・ニューマン最高財務責任者(CFO)が交渉全体の旗振り役を務め、企業戦略部門トップのデボラ・ベルトゥッチ氏が日々の陣頭指揮を取った。このほか、法務責任者らも中心メンバーとして動き、交渉チーム全員が共同CEOのテッド・サランドス氏とグレッグ・ピーターズ氏に直接報告していた。

取引の輪郭を固めていく様子もハイテク企業らしかった。対面ではなくビデオ会議が中心で、Zoomに仮想の作戦本部を置き、発言は挙手機能やチャットで進めた。資料の確認や修正もGoogle Docsで同時編集しながら進められた。

協議は感謝祭明けの1日以降、一気に熱を帯びた。ワーナー側アドバイザーは各社と立て続けに対話し、契約条件や金額の詰めに入った。コムキャストは傘下のNBCユニバーサル部門をワーナーと統合する案を提示。パラマウントは差別化を図るため、提示していた違約金を50億ドルへと倍以上に引き上げる案を示した。

最終的にワーナーは、Netflixの提案が最も優れ、重要条件に対しても最も柔軟だと判断した。すると3日、パラマウントはワーナー取締役会に対し、売却手続きが「汚されている」と非難する強い文面の書簡を送付。さらにNetflix案には規制面でのリスクがあると指摘した。

米東部時間の4日夕刻、Netflixは勝利の知らせを受けた。経営陣とアドバイザーが集まったビデオ会議に連絡が届くと、一瞬だけ歓声が上がったが、その直後にはすぐに次の対応へ動き出したという。同日午後10時25分には、契約成立が目前だとブルームバーグ・ニュースが報じた。

Netflixのサランドス共同CEOでさえ、投資家向けの電話会議で今回の結末への意外感をにじませた。「今回の買収に驚かれた方もいるだろうし、その理由もよく分かる」と述べたうえで、「私たちは長年、何かを買う会社ではなく、自分たちでつくる会社として知られてきた」と続けた。

Netflixのテッド・サランドス共同CEO

パラマウントが再び条件を引き上げて挑んでくるかどうかにかかわらず、Netflixには課題が山積している。今回の取引が規制当局の承認を得られず破談となれば、同社はワーナーに58億ドルもの違約金を支払う義務を負う。過去最大規模の統合を進めるという重い作業も待ち受けている。

投資家向け電話会議でピーターズ共同CEOは「かなり大変な作業になる」と語った。

その上で「われわれは大規模M&Aのプロというわけではないが、これまでも手探りで始めた取り組みを数多くやり遂げてきた」と自信をのぞかせた。

原題:Netflix’s Thanksgiving Deal Sprint Set Up Surprise Warner Win(抜粋)

--取材協力:Chris Palmeri、Lucas Shaw.

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