米連邦準備制度理事会(FRB)は来週にも追加利下げに踏み切る見通しだが、景気への効果が表れるまでに通常よりも時間がかかる上、金融政策の及ばない要因によってその効果が抑えられる可能性がある。

住宅など金利の影響を受けやすい産業は、借り入れコストの低下による恩恵が限定的となる可能性がある。住宅価格が依然として過去最高水準に近く、雇用情勢への不安が広がっているためだ。製造業のような他の分野では、トランプ大統領による変化の多い関税政策の影響で投資が抑制されており、利下げの効果は限定的とみられている。

こうした重しがある中、通常は最大18カ月かかるとされるFRBの政策が消費者や企業全体に波及するタイムラインは、現在の経済状況では当てはまらない可能性がある。

ネーションワイド・ミューチュアル・インシュアランスのチーフエコノミスト、キャシー・ボストジャンシク氏は「企業が採用を控えているのは、金利が高いためというよりも、関税やその他の経済政策の影響に対する不確実性が主な要因だ」と指摘。「この不確実性が非常に高い水準で続くようであれば、政策の効果が表れるまでのタイムラグはさらに長引き、経済への波及も遅れる可能性がある」と述べた。

Photographer: Bloomberg News survey of economists conducted Nov. 28-Dec. 3

FRBが政策金利を調整すると、金融市場はそれに応じて反応する。ただし、多くの場合、その動きは事前に十分織り込まれているため、市場参加者の予想は実際の決定が下される前に株価や債券価格に既に反映されている。これにより、自動車ローンや住宅ローンなど新規の借り入れには即座に影響が及ぶ一方で、多くが固定金利である既存の個人・企業向け債務への影響は時間がかかる。

FRBが2022年に利上げを開始した際には、自動車ローンや住宅ローン、学生ローン、クレジットカードの金利が真っ先に上昇した。しかし、その後の利下げ局面では、それほど大きくは下がっていない。これにより、多くの米国民にとって車や住宅の価格が手の届かない水準にある中、購入の手がかりとなる金利が下がらないことが、アフォーダビリティー(暮らし向き)の危機をさらに強めている。

全米不動産業者協会(NAR)によると、30年固定式住宅ローンの契約金利は10月に1年ぶりの低水準を記録し、住宅販売と中古住宅販売成約指数を押し上げた。市場に出回る物件が増える中で、住宅価格の上昇ペースも以前ほど速くはなくなっている。

それでも、経済の先行きに対する不透明感が続いていることから、多くの潜在的な住宅購入希望者はいまだ様子見の姿勢を崩していないと、米抵当銀行協会(MBA)のチーフエコノミスト、マイケル・フラタントニ氏は指摘する。特に関税の影響で一部の物価が高止まりするなか、米国民は雇用の見通しや家計の状況に不安を感じているという。

同氏は「住宅市場にとって、消費者心理の全体の状態は非常に重要だ」と述べた。「いまは金利が比較的低く、購入可能な住宅の数も増えているにもかかわらず、買い控えの傾向が見られる」と続けた。

FRBの政策は国債利回りに影響を与える要因の一つだが、インフレ見通しや連邦財政赤字といった他の要因も重要な役割を果たす。そのため、米国債の利回り、ひいてはその他の借り入れコストが依然として高水準にとどまっている背景には、こうした要素もある。MBAの予測では、住宅ローン金利は今後2年間、大きな動きは見込まれていない。

困難なかじ取り

FRB当局者は現在、相反する二大責務の間でバランスを取ろうとしている。労働市場を下支えするには金利を引き下げる必要がある一方、インフレを抑制するには金利を高く保つ必要がある。市場では来週の追加利下げを織り込む動きが広がっているが、政策当局内では意見が大きく割れている。こうした分裂は、5月に任期満了を迎えるパウエルFRB議長の後任人事をトランプ大統領が発表すれば、さらに深まる可能性がある。

パウエルFRB議長

FRBは昨年のピーク時からこれまでに政策金利を1.5ポイント引き下げており、これが恩恵をもたらしているのは主に富裕層だ。この間、株式相場は大幅に上昇し、富裕層の退職後の資金や消費意欲を押し上げた。一方で、自動車ローンや学生ローンの返済が滞る低・中所得層の消費者も増えており、格差の拡大が浮き彫りになっている。

 

ウィスコンシン州に拠点を置くクリストファー・ドリーズ氏は利下げを歓迎している。同氏が率いるメナシャは、消費財や工業製品の大手企業から大手自動車メーカーに至るまで幅広い顧客に包装ソリューションを提供している。

ドリーズ氏は、利下げによって自動車ローンなどの借り入れがしやすくなり、一部の顧客が恩恵を受けることを期待しているが、一方で関税をめぐる不透明感という問題は依然として残っている。特に、最高裁で争われている重要な訴訟によって、多くの関税が撤回される可能性もある中で、それは依然として大きな問題だという。

同氏は「『関税があるかないか』の話ではない」と語った。「重要なのは、関税率が明確であること、そして全体として関税政策に見通しが立つことだ。それによって、顧客企業が自社ビジネスへの投資に対して、少しでも自信を持てるようになる」と続けた。

米国の製造業は今年に入って広範にわたり低迷しており、供給管理協会(ISM)が発表した製造業総合景況指数は9カ月連続で活動縮小を示した。借り入れコストの低下や企業に有利な税制があるにもかかわらず、設備投資はほぼ停止したままだ。

ISM製造業調査委員会のスーザン・スペンス委員長は「企業にとって資本コストが下がることはもちろん関心事だ」と述べたが、関税が「全てに影を落としている」と話した。

ISMが9月に実施した調査では、ある回答者がより率直にこう述べている。金利が下がっても「ビジネスには影響しない」。

「全ての設備投資プロジェクトは、ある程度の見通しが立ち、顧客から新たな設備の注文が再び入り始めるまでは凍結されたままだ」と、この回答者は語った。

原題:Even If Fed Cuts Rates, Economy May Not Get Much of a Boost Yet(抜粋)

--取材協力:Maria Eloisa Capurro.

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