米ウォール街は、人工知能(AI)分野の大手企業に巨額の融資を準備する一方、自らの資金提供で膨らんでいる可能性もあるAIバブルから、身を守る方法も模索している。

リスクを削減しようとする銀行の焦りは、クレジット市場全体に表れている。デリバティブを用いてオラクルの債務をデフォルトから保護するコストは、世界金融危機以来の最高水準まで上昇した。

オラクル、メタ・プラットフォームズ、アルファベットといったテック大手による巨額発行が追い風となり、世界の債券発行額は今年、6兆4600億ドル(約1000兆円)を超えた。こうした超大企業は、電力会社やその他企業と共に、AIデータセンターやインフラ整備を急ピッチで進めており、少なくとも5兆ドルを投じる見通しだ。

JPモルガン・チェースによると、投資金額が大き過ぎるため、発行体はほぼ全ての主要債務市場に資金を調達しに行かねばならない。仮に利益が生まれるとしても、こうした技術投資が利益を生むまでには、何年もかかる可能性もある。

現実のリスク

グレイ・バリュー・マネジメントのスティーブン・グレイ最高投資責任者(CIO)は「技術は確かに素晴らしい。だが、それが利益につながるわけではない」とくぎを刺す。

AIブームのリスクは11月、米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループで大規模なシステム障害が発生し、取引が停止したことで現実味を帯びた。データセンターの顧客は、障害が繰り返されれば離れる可能性があることを、投資家は思い知らされたのだ。この余波で、ゴールドマン・サックス・グループは、同データセンターを運営するサイラスワンの13億ドル規模のモーゲージ債発行計画を一時停止した。

銀行は、エクスポージャーを減らすため、クレジットデリバティブ市場に目を向けている。バークレイズ・プラスのクレジットストラテジスト、ジガー・パテル氏の取引情報リポジトリ分析によると、オラクルのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)取引は、11月28日までの9週間で約80億ドルに膨れ上がった。前年同時期は約3億5000万ドルだった。

モルガン・スタンレーの最近のリポートによると、オラクルが入居予定のデータセンター建設向けの大規模融資の大部分を銀行が提供しており、これがオラクルによるヘッジ取引の大きな要因となっている可能性が高い。こうしたプロジェクトには、テキサス州、ウィスコンシン州、ニューメキシコ州に複数の新しいデータセンター施設を建設する380億ドルの融資パッケージや、別の180億ドルの融資が含まれている。

スワップコスト

他のCDSの価格も上昇している。例えば、マイクロソフトの1000万ドルの債務をデフォルトから保護する5年物CDS契約は、4日時点で年間約3万4000ドル、スプレッドでは34ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)となっている。10月半ばには年間約2万ドルだった。

ヘッジファンド運用会社サバ・キャピタル・マネジメントのポートフォリオ・マネジャー、アンドルー・ワインバーグ氏によると、AAA格付けマイクロソフトとしては、非常に高いスプレッドだという。マイクロソフトの広報はコメントを控えた。

オラクル、メタ、アルファベットも同様だ。こうした企業は巨額の資金調達を行っているにもかかわらず、CDSがデフォルトリスクに対して高いスプレッドで取引されている。ワインバーグ氏は、CDSを売る戦略が理にかなっていると述べた。たとえ格下げされたとしても、すでに相当量の悪材料が織り込まれているため、ポジションとしては良好なパフォーマンスを示す可能性が高いという。

オラクルの広報担当者はコメントを控えた。メタとアルファベットの広報担当者はコメント要請に返答していない。

複雑な債券

AI関連の資金調達で主要な役割を担うモルガン・スタンレーは、データセンター関連リスクの一部を「重大リスク移転(SRT)」と呼ばれる取引を通じ、移転することを検討している。SRTは銀行に対し、指定された貸付ポートフォリオの5-15%分のデフォルト保護を提供する。借り手が債務不履行に陥った場合、銀行は損失を補てんする支払いを受け取れる。

ブルームバーグは、モルガン・スタンレーがAIインフラ関連企業向け融資ポートフォリオに連動するSRTについて、潜在的な投資家と予備協議を行ったと報じた。モルガン・スタンレーの広報担当者はコメントを控えた。

オールスプリング・グローバル・インベストメンツのシニア債券トレーダー、マーク・クレッグ氏は「銀行は、最近の市場が過剰投資や過大評価の可能性を懸念していることを十分に認識している。ヘッジやリスク移転の仕組みを検討しているのは、驚くべきことではない」と語った。

事情に詳しい関係者によると、プライベートキャピタル企業が、データセンター関連のSRTで、銀行のエクスポージャーの一部を引き受けようと画策している。

銀行は、信用リスクを転嫁できる新たな商品の創出を模索している。事情に詳しい関係者によると、少なくとも2社がテクノロジー企業関連の信用デリバティブを組み入れたバスケット商品の組成を試みている。シタデル・セキュリティーズは、テック大手2社の社債バスケットに対するマーケットメーク(値付け業務)を開始し、投資家が対象企業へのエクスポージャーを迅速に増減できるようにした。

原題:Wall Street Races to Cut Its Risk From AI’s Borrowing Binge(抜粋)

--取材協力:Dan Wilchins、Michael Gambale、Jeannine Amodeo、Esteban Duarte.

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