(ブルームバーグ):1日の外国為替市場では円が主要通貨に対して上昇。日本銀行の植田和男総裁の講演を受けて今月の利上げ観測が高まり、アジア時間に円が買われた流れを引き継いだ。
円は対ドルで一時1%近く上げて1ドル=154円67銭と、日中ベースで10月10日以来の大幅高となった。
植田総裁はこの日の講演で、今月にも追加利上げを行う可能性を示唆した。18、19日に開催予定の金融政策決定会合に向けて、企業の賃上げ姿勢に関して精力的に情報収集していると説明。その上で、内外経済・物価情勢や金融資本市場の動向を、さまざまなデータや情報を基に点検・議論し、同会合で「利上げの是非について適切に判断したい」と語った。
スチュアート・ジェンキンス氏らゴールドマン・サックスのチームは「ファンダメンタルズ面では、米国の成長や関税の見通しを巡る不確実性が後退したことで、引き締め政策を継続するという日銀の基本シナリオの実現可能性が高まっていると植田氏は指摘した」と解説した。
ただし、今年後半に円と日米金利差との連動性が崩れてきている点にもゴールドマンは言及した。
金利スワップ市場が織り込む12月19日の日銀利上げ幅は約22ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)。11月28日時点では15bpが見込まれていた。
ラッセル・インベストメンツのグローバル通貨責任者バン・ルー氏は「日本の機関投資家の間では、円のトレンドは実際には弱含みだという見方が今は根強い」と指摘。「しかし、円が大幅に上昇するというシナリオへの警戒感や不安もある」と述べた。
「円キャリートレードの巻き戻しといった過去の経験に加え、日銀が政策対応で後手に回っている可能性があり、いずれかの時点で急ピッチな政策修正を迫られるとの見方から、機関投資家は警戒を緩めていない」と続けた。
国債
米国債は下落(利回りは上昇)。メルクなどの社債発行が急増したことが相場を圧迫した。
この日は日銀が今月にも利上げを実施する可能性があるとの見方から、日本の10年債利回りが2008年以来の高水準となったことが波及し、国債相場が世界的に圧力を受けていた。
ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は、インフレ率が連邦準備制度理事会(FRB)の2%目標を上回ったまま定着しかねないと懸念する政策当局者が複数いるにもかかわらず、市場では来週の追加利下げ観測が高まっているとし、これが相場の逆風を強めていると指摘。
長期債利回りは「インフレ期待に左右される」とした上で、「インフレが依然として目標を上回る中で利下げを実施することには疑問が生じる」と述べた。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のエコノミストは、FRBが来週利下げに踏み切るとの予想に転じた。10月時点では据え置きを見込んでいた。11月20日に公表された9月米雇用統計で失業率が4.5%近くに上昇したことや、こうした労働市場の弱さを示す兆候を受けてニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が追加緩和を支持する姿勢を示したことを踏まえた。
株式
株式相場は反落。暗号資産(仮想通貨)の売りが広がる中、リスクの高い資産が敬遠された。
S&P500種株価指数は前月までに月間ベースで2021年以来最長の連騰を記録したが、この日は上げ一服となった。一時は6800を割り込む場面もあった。小型株で構成するラッセル2000指数は1.2%安。大型テクノロジー株は高安まちまちで、アルファベットは下落。一方、先週末に売られたエヌビディアは反発した。原油の上昇を追い風に、エネルギー株も高い。
暗号資産は借り入れを伴うポジション約10億ドル(約1550億円)相当が清算され、広範に及ぶ売りが加速した。ビットコインはニューヨーク時間に一時8%安の8万3824ドルまで下落。年初来の下落率は9%余りに達した。
キャピタル・ドット・コムのアナリスト、カイル・ロッダ氏は「週が明けて、市場ではいくらかリスク回避の動きが進みつつある」と指摘。「現時点では深刻というほとではなく、ファンダメンタルズ的な要因も見当たらない」と話した。
来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合を前に、5日にはFRBが重視するインフレ指標の個人消費支出(PCE)価格指数が発表される。同価格指数はインフレ圧力が安定しつつも根強いことを示す見通しだ。もっとも、来週のFOMC会合では雇用市場が議論の中心になるとみられている。
この日発表された11月の米ISM製造業総合景況指数は、4カ月ぶりの大幅な縮小となった。新規受注が落ち込み、製造業が長引く低迷からの脱却に苦戦していることが示唆された。今週は11月のADP民間雇用者数や12月のミシガン消費者マインド指数速報値なども公表される。
フォレックス・ドット・コムのファワド・ラザクザダ氏は、雇用統計などの重要指標が来週のFOMC会合までに発表されない点を挙げ、「利下げ観測に関する限り、週内に市場を大きく驚かせるような材料が出る可能性は著しく低い」と述べた。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのウルリケ・ホフマン・ブチャディ氏は、「歴史的にみると、経済がリセッション(景気後退)に陥っておらず、かつFRBが利下げを行っている局面で株式のパフォーマンスは好調になると当社ではこれまで指摘してきた」と述べた。
その上で「最新のデータはFRBが25bpの利下げに踏み切る可能性が高いことを示唆している」と続けた。さらに、足元の米経済のソフトパッチ(軟調局面)は一時的なものにとどまる可能性が高く、世界の経済成長は2026年に加速するとの見方を示した。
ネーションワイドのマーク・ハケット氏は「季節性や、消費者センチメントがさえないにもかかわらず堅調な個人消費、さらに年末のポジション調整といった要因が重なり、今年は『サンタクロース・ラリー』が起きる舞台が整っている。それは今月後半となる可能性が最も高い」と話した。
原油
ニューヨーク原油先物相場は反発。週末のウクライナ攻撃を受けて、カザフスタンの油田とロシア黒海沿岸を結ぶ主要パイプラインの係留設備1基が損傷し、積載を停止したことが押し上げ要因となった。
このほか、ベネズエラに対する米国の軍事作戦の可能性や供給過剰見通しも意識された。
パイプラインに対する攻撃は、世界の石油市場が大幅な供給過剰局面に突入すると予想されるタイミングで発生した。ブリッジトン・リサーチ・グループのデータによると、トレンドフォロー型商品投資顧問(CTA)の90%が1日時点でショートポジションを保有していた。原油価格の上昇を受けて、一部のCTAは買いを入れた。
アルゴリズム運用のトレーダーが極端に弱気に傾いているため、市場は強材料が出た際に価格が跳ね上がりやすい状況にある。これらのトレーダーはトレンドフォロー型が多く、価格変動を増幅させる傾向があるためだ。
一方、ロシアからベネズエラに至るまで地政学的緊張がくすぶっており、相場の支援材料となり得る。CNNによると、トランプ米大統領はベネズエラに関する今後の対応について、1日にホワイトハウスで会合を開く予定だ。
トランプ大統領は足元で、軍事攻撃の可能性も視野にベネズエラへの圧力を強めており、11月29日には同国の上空と周辺空域について、封鎖されていると航空会社は見なすべきだと述べた。
INGグループのコモディティー戦略責任者(在勤シンガポール)、ウォーレン・パターソン氏は「市場の見通しは大幅な供給過剰が見込まれる中で弱いものの、供給リスクが根強いため、こうした弱材料が価格に完全に反映されるまで時間がかかっている」と述べた。
一方、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスは、2026年1-3月(第1四半期)の増産一時停止計画を改めて確認した。季節的に弱い市場環境を反映したものだと説明している。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物1月限は、前営業日比77セント(1.3%)高の1バレル=59.32ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント2月限は1.3%高の63.17ドル。
金
金スポット相場は小幅安。一方、供給逼迫(ひっぱく)を背景に、銀スポット価格は過去最高値を更新した。
金、銀ともに足元ではFRBが今月の会合で利下げを決めるとの観測が追い風となっている。
ANZグループ・ホールディングスのコモディティストラテジスト、ダニエル・ハインズ氏は「金相場が一服する中、投資家は銀に関心を移しているようだ」と述べた。
金スポット相場はニューヨーク時間午後2時6分現在、前営業日比16セント安の1オンス=4239.28ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物2月限は19.90ドル(0.5%)上げて4274.80ドルで引けた。
原題:Yen Strengthens as Traders Anticipate BOJ Rate Hike: Inside G-10(抜粋)
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