(ブルームバーグ):ティモシー・ガイトナー氏は、自身のキャリアを通じて日本とも深く関わった元米財務長官だが、予測をそれほど重視していなかった。若手時代に東京で四半期ごとの経済見通しを作成した際、どんなに優れた予測でも結局は「根拠のある推測」に過ぎないのだと理解した。
円相場の転換点を見抜く難しさは、ガイトナー氏が回顧録で指摘したこうした点を裏付けている。同氏は円買い、円売り両方の為替介入に関わったことがある人物だ。円相場が1ドル=160円に迫り、日本当局が円安に歯止めをかけるため、介入にいつ踏み切るのかとの臆測が広がる中、断定がいかに危ういかを思い出す必要がある。1日当たりの取引が9兆6000億ドル(約1500兆円)規模に膨らんだ外国為替市場であればなおさらだ。
片山さつき財務相は、円の弱気派に対する警告を強めている。先月には記者団に対し、「投機的な動向も含め、為替市場における無秩序な動きについては必要に応じて適切な対応を取る」と述べた。
財務省は、一方的かつ急速な動きとみられる状況に強い懸念を抱いている。だが、こうした評価は見る側によって異なる面がある。大台に近付く中では、絶対水準も無視できない。
偽りの夜明け
為替介入は、通貨を問わず持続的な反転をもたらすことはほとんどない。だからこそ、今回の局面に至る経緯を振り返ることは重要で、偽りの夜明けが何度も繰り返されてきたことを踏まえればなおさらだ。一つ明確なのは、2024年前半に広まった「マイナス金利の解除が円の新たな出発点になる」という考えが誤っていたということだ。
確かに、日本銀行が24年3月に利上げに踏み切ったこと自体は注目すべき出来事だった。しかし、海外に積み上がった巨額の資金がすぐに国内に戻り、国際金融の新たな時代を切り開くという見方は願望に近かった。円相場の基調を根本的に変えるには、日銀が本格的な利上げに踏み切り、米国との金利差を大幅に縮める必要がある。
だが、植田和男総裁は慎重姿勢を崩していない。日銀はその後、小幅な利上げを2回行い、政策金利を0.5%に引き上げたが、最後の利上げは今年1月だった。追加利上げ観測はあるものの、日銀は言葉の上では現状維持へと後退している。政府から独立しているが、実際には財務省との摩擦を避ける意識が働く。
金利差を巡る主張にも限界がある。例えば、韓国は早期かつ頻繁に利上げを実施していたが、それでもウォンはドルに対して下落傾向にあった。
予測を絶対視できず
日銀の年内最後の金融政策決定会合を控える中、同じことが繰り返される可能性がある。日銀は12月にも利上げするかもしれないが、米国の関税措置による影響もあり、実質の国内総生産(GDP)が縮小した状況では、持続的な利上げ局面を描くのは幻想に近い。
一方で、円はなお事実よりもストーリーに左右されやすい。高市早苗政権の補正予算案はGDPの3%未満にとどまり、ここ数週間の円安を招いたとする説明は説得力を欠く。しかも昨年度の税収は過去最高だった。
それでも市場が反応するのは、高市首相が積極財政を支持する立場で知られ、コスト削減の時代に終止符を打とうとする「高圧経済」論者を周囲に抱えているためだ。ただ、国会の勢力図を踏まえると、これは高市氏が何事も思うままにできるということを意味するわけではない。
クレディ・アグリコル証券のチーフエコノミストで、高市首相が新設した日本成長戦略会議のメンバーを務める会田卓司氏はリポートで、高市政権は為替介入により積極的になる一方、大幅な円高を目指す公算は小さいと分析。円安は国内の企業投資を増やす絶好の機会だと政府が捉えていると指摘した。
ガイトナー氏が米財務省で高官、後に財務長官を務めていた時期、米国は日本の要請で2度、円を巡り救援に回った。1度目は1998年のことだった。そして2度目は2011年の東日本大震災に伴う津波の後、景気が減速の瀬戸際にあり、円高が復興を脅かしていた時期だ。ガイトナー氏は財務長官として、G7による日本支援の調整に重要な役割を果たした。
予測を絶対視すべきではない。的中したとしても、それは単なる偶然かもしれない。為替予測などを信じ過ぎると高くつく可能性があるが、運が良ければ、その代償も小さくて済む。
(ダニエル・モス、リーディー・ガロウド両氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:We Need to Shatter One Big Myth About the Weak Yen: Moss & Reidy(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.